サクラの季節、踏み出す僕と。

キミに会えなくなって、もう何年たっただろうか。

今、サクラはキレイに色づいているよ。

そう、あれはもう10年近く前のこと。

まだ幼かった僕はヨシノのことを特別に思っていた。 ヨシノの気持ちは知らないまま。

そしてその日のちょうど一年後。

ヨシノはこの世から姿を消した。

…はっきり言ってしまうと、亡くなってしまったんだ。

キミは優しい笑顔のまま。動かなくって。

僕にはそんな笑顔できそうになくって。

顔を歪めて。

大声で泣いた。

数日後。

僕はあのサクラを見に行った。ひとりで。

そこにはヨシノの母親にあたる人が立っていた。

ビデオカメラを渡され、少し戸惑う。

僕はいつものサクラの下でひとつの動画を再生した。

ガチャ。 と音がなり、カメラが切られた。

言葉がでなかった。涙はこぼれるのに。

サクラはヨシノの香りを運んでくれて。 ヨシノはいるって思ったんだ。

そして今日。10年近くたった今でも卯月の、サクラの、ヨシノの香りがする。

僕はネクタイをしっかりしめて。 まだ真新しいスーツを着て。

あのサクラの下。前を向いて踏み出したんだ。

吹いた優しい風が、ヨシノのの優しい笑顔のようで。 頑張れっていったような。