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窓から差し込む西日が、図書室の古い木机をオレンジ色に染めている。
高校二年生の瀬戸 遥(せと はるか)は、開いたままの単行本に視線を落としたふりをして、心臓の音をなだめていた。
廊下から、華やかな喧騒が近づいてくる。
山田
山田
一条 湊
一条 湊
低くて心地よい、少しだけハスキーな声。
それが聞こえた瞬間、遥は呼吸の仕方を忘れる。
一条 湊(いちじょう みなと)。
入学式のあの日、桜の舞う校門で、道に迷っていたお年寄りに優しく微笑みかけていた彼を見た時から、遥の世界は彼を中心に回り始めた。
田中
山田
一条 湊
取り巻きの男子たちの冷やかしに、湊が困ったように笑う。
その光景を、遥は図書室の入り口にある掲示板の影から、盗み見るように見つめた。
瀬戸 遥
整った顔立ち、少し崩した制服の着こなし、そして誰に対しても分け隔てないその優しさ。
一方の自分はといえば、ボサボサの髪に度の強い眼鏡、趣味は読書と一人歩き。
クラスの集合写真ではいつも端っこに写る、自他共に認める「モブ」だ。
瀬戸 遥
ふいに、湊がこちらの方を振り向いた気がして、遥は慌てて顔を伏せた。
心臓がうるさい。
佐藤
声をかけてきたのは、同じクラスの図書委員、佐藤だった。
瀬戸 遥
佐藤
佐藤
佐藤が指差す先では、湊が女子たちに手を振りながら、颯爽と中庭の方へ歩いていくところだった。
瀬戸 遥
遥は小さく呟いた。
天変地異が起きて、地球の裏表がひっくり返ったとしても、彼が自分の存在を認識することなんてあり得ない。
自分はただの背景。
彼を彩るための、名もなきエキストラに過ぎないのだから。
瀬戸 遥
口の中で、その名前をそっと転がしてみる。
届かないとわかっている光。
それでも、その眩しさから目を逸らすことができない。
遥は重い溜息をつき、読みかけの本を閉じた。教室に落ちる影が、心なしかさっきよりも濃くなった気がした。