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図書室を出て、遥は重い足取りで校舎の裏階段へと向かった。
人通りの少ないこの場所は、騒がしい教室から逃げ出したい時の「避難所」だ。
しかし、踊り場の窓から下を覗くと、またしてもあの人物の姿があった。
中庭で、クラスメイトの男子たちとバスケのシュート練習をしている湊だ。
山田
一条 湊
湊が額の汗を拭いながら笑う。
その無造作な仕草さえ、映画のワンシーンのように決まっている。
遥は思わず、階段の影に身を隠した。
見ているだけで胸が苦しくなるのに、どうしても視線を外すことができない。
瀬戸 遥
太陽の下で汗を流す彼と、埃っぽいところで息を潜める自分。
その対比を突きつけられるたび、期待なんて初めからしていないはずの心が、ちくりと痛んだ。
その時だった__
一条 湊
不意に背後から声をかけられ、遥は「ヒッ」と短い悲鳴を上げて飛び上がった。
振り返ると、そこにはいつの間にか練習を切り上げたのか、タオルを首にかけた湊が立っていた。
瀬戸 遥
一条 湊
一条 湊
湊は申し訳なさそうに眉を下げて笑った。
至近距離で見る彼は、遠くから眺めていた時よりもずっと背が高く、微かに石鹸と汗の混じった、清潔感のある香りがした。
瀬戸 遥
瀬戸 遥
パニックになった遥は、手元にあった鞄を抱え直し、逃げるようにその場を去ろうとした。
焦りすぎて足元がもつれ、踊り場の段差に盛大に躓いてしまう。
一条 湊
湊の長い腕が、遥の体を咄嗟に支えた。
ガシリと肩を掴まれ、遥の視界に湊の胸元が迫る。
ドクドクと、自分のものか彼ものか分からない鼓動が、鼓膜を直接叩いているようだった。
一条 湊
湊が顔を覗き込んでくる。
整いすぎた顔が目の前にあり、遥は息をすることさえ忘れて固まった。
瀬戸 遥
瀬戸 遥
一条 湊
一条 湊
瀬戸 遥
その事実に、遥の心臓は今日一番のスピードで跳ねた。
モブであるはずの自分を、学年の王子様が認識していた。
瀬戸 遥
一条 湊
一条 湊
一条 湊
湊は人懐っこい笑みを浮かべ、支えていた手をゆっくりと離した。
その手の温もりが消えた場所が、妙に冷たく感じる。
一条 湊
軽く手を振って去っていく湊の背中を、遥は呆然と見送ることしかできなかった。
静まり返った階段室で、自分の鼓動だけが、いつまでもうるさく鳴り響いていた。