……、

華妍
新しい子よ。仲良くしてあげて。

……。

話によると、こいつは俺と同じで 虐待 をうけていたやつらしい。
華妍
じゃあ、私は仕事があるからここで待ってなさい。

ぁ、はい……。

情けの言葉もかけずに、重い扉を片手で開けて外へ行った。
………、

……。

(気まずい……、なんか話すか?いやでもなぁ、……)

……パパはね、

ぇ、?

パパはね、やさしかったの。

パパは、まいにち ”おしごと“ にいってるんだって。

……へえ。

あえるじかんがすくないから、おてがみをかいてるの。

『ぱぱのおしごとばへ』ってかいて、あかいぽすとに。

……パパ、読んでくれてるかなぁ…

いや、多分…__

、?

……うん。

お父さんは、読んでくれていたと思うよ。

あいつの目に溜まった涙を見て、そんなこと言う気にはなれなかった。
君、名前は?

なまえ?

そう。例えば、俺は『真人』

『真人』って呼ばれれば俺は反応する。そういう感じのやつ。

……『お前』。

ん?俺?

ううん。なまえ。パパはいつもそういってた。

あ、えと………

それは名前じゃなくて、二人称…いや難しいか、えっとね…💦

?

(名前すらつけられていないんだな……いや、知らないだけか)

(戸籍上の名前とか言っても分からないだろうし、うーん…)

(……よし)

ねえ、どうし…__

好きな漢字はあるか?

え、?

1つでいい。あ、2つでもいいけど……あるか?

…わかんない、かんじとか、きいたことない…

じゃあ、、

華妍
……これは一体…

俺は、中にあった小さな石で、壁に傷をつけて文字を書いた。
どの漢字が好きか、見て答えてもらおうと思ったからだ。
こいつの名前を決めようとしてるんですっ

だからこうやって漢字を……

華妍
……

……ぁ、

(壁にたくさん傷をつけてしまった、どうしよう、)

(怒られるっ…!!)

ごめんなさいッ!!俺、俺……ッ

華妍
…_いいじゃない。

……ぇ、?

華妍
何になったの?♪

……ぁっ、

えと、まだ気に入る漢字がないみたいで……

華妍
ふぅん……この漢字はあなたが書いたの?

あ、はいっ!

華妍
……

『11歳ですべての漢字を覚えている、書ける』
ということに気づいていたのだろう。
じゃあ、これは?

……、

ん…これは?これとかは?

……。

華妍
真人、少し落ち着いて。この子も困ってるから……

、あっ

、! 気に入るのあったっ?

これ、と、あれ……

じゃあ、「レイム」だね!

「レイム」……

いやだったか?

…パパは、よくおしごとのはなしをするんだけど……

よく嫌いって言ってた人が、「レイ」さんで……

…いやなの?

うん、

……

(虐待されてるはずなのに、)

お父さんのこと気にかけるんだな……

うん……?

じゃあ、『レイム』って名前はだめだね。

違うのを考えようか。

うん、あの……、

ん?

ぁ、ありがとうっ

真人、なんだかぱぱみたい…!

……!

……、ありがと。

(しかし、名前どうしよう……)

レユメ、は変か……、ムレイ、ユメレ、……

華妍
レモン。

、?

れもん、?

華妍
そう。こっちの漢字で『レ』
こっちの漢字で『モン』よ。

え、いや……夢はそう読まないんじゃ…

華妍
まあ、こう読むのはかなり特殊ね。

華妍
だけど、そう読むこともあるのよ。

そうなんだ……

(まだまだ知らないことだらけだな……)

華妍
ふふ、どう?

……すぐ、忘れちゃいそう

華妍
じゃあ今日から、毎日名前を呼ぶわ。

華妍
おはよう、麗夢。

華妍
おかえり、麗夢。

華妍
ありがとう、麗夢。

………、

麗夢!

麗夢
…!

華妍
…どう?嫌だったら変えるわよ。

……ううん、

私、れもんがいい。

れもんって、呼んでほしいっ

あ、じゃあっ!

……?おでこ、なにしたの?

華妍
はんこよ♪

はんこ?

華妍
そう。『青星』の一員として、はんこを押したの。

華妍
名前がないから、決まったらにしようかと思っててね。

ほら、俺にもあるよっ

ほんとだ、でも、私みたいに真っ赤じゃないね

華妍
時間がたてば薄くなってくるのよ。
ずっとはんこのままっていやでしょ?♪

どっちでもいいけど……、

華妍
さぁ、二人ともおいで。

んぉっ、

んむっ

華妍
いらっしゃい、二人とも。

華妍
ようこそ、青星へ。
