テラーノベル
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きっかけは、ほんの些細なことだった。
橙が、いつもより少し遅く帰ってくる。 それだけ。
連絡は来てる。 位置情報も動いてる。 問題なんて、どこにもない。
なのに
胸の奥が、ずっと冷たい
桃
思考が、勝手に走り出す。
もし道で声をかけられたら、 もし名前を呼ばれたら、 もし俺がいない瞬間に、
息が浅くなる。
起きてないことなのに、 「起きた後」の感情だけが、先に来る。
失う時の音。 空気。 ジェルの表情。
全部、鮮明すぎる…
スマホが鳴る。
たった一行。
それなのに、 指が震えて、すぐ返せない。
桃
桃
答えは、わかってる。
何も変わらない。
でも、俺が壊れる。
玄関の鍵が開く音。
橙
その声を聞いた瞬間、 張り詰めてた何かが崩れ落ちた。
同時に、
桃
声が、低すぎて自分でも驚く。
橙は、一瞬だけ目を瞬かせる。
橙
"だけ”
その言葉が、刺さる。
俺の知らない時間
俺のいない空間
俺が守れない距離
桃
責めてるみたいな、 言い方になったのが分かる。
でも、止められない。
橙が桃に近づく。
橙
その距離が、 逆に怖い。
触れたら、失う想像が 現実になる気がして。
桃
桃
命令でも、お願いでもない。
橙は黙って頷いた。
橙
それが、救いで。
夜。
眠っている橙の寝息を確認しながら、 桃は天井を見る。
桃
桃
想像の中で、 橙がいない部屋は、音がしない。
配も、笑いも、未来も、ない。
考えるだけで、指先が冷たくなる。
桃
小さく、呟く。
想像だけで、壊れるなら。 現実にするわけがない。
布団の中、 橙を強く抱き寄せる。
橙が目を覚まさない程度に。 でも、離れない程度に。
桃
それは、誓いというより自分を保つための呪文だった。
翌朝。
橙が、少し眠そうに笑う。
橙
桃は、微笑む
桃
何も起きていない。
でも
橙が起きる前に、全部塞いだだけ。
それでいい。 それがいい。
失う想像だけで壊れるなら、 想像させない世界を作ったらいい。
桃
[完]
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