少し肌寒くなってきた 夏の終わりの静かな海辺。
そこには 波の音と小さな歌声だけが響いていた。
達也
(なぜ僕は生きるために戦っているんだろう?戦うために生きているだけなのに。)
達也
(なぜ僕は何かを見ようとしているんだろう?見渡しても何もないのに。)
達也
(なぜ僕は与えようとしているんだろう?誰も僕に何一つくれないのに。)
達也
(なぜ必死に生きているのだろうか?ただ死ぬために生きているのに。)
エドガーウインターが1971年に発表した Dying to liveという曲の一節である。
このようにこの歌は終わる。
必ず夢を叶えてみせるよ。 だからこのまま生きるために戦い続ける。 戦う理由がなくなるまで。 そしてこのまま見ようと努力し続ける。 終わりがこの目に映るまで。 こんなに与えようとしてるんだから 僕にもチャンスをくれよ。 僕は生きるために戦い続けるんだ。 覚悟ができるまで、覚悟ができるまで 覚悟ができるまで。 死ぬ覚悟ができるまで。
達也と娘のなつ美が愛した曲だ。
達也
達也
達也
この曲を口ずさみ終わると、全てをやり遂げたかのように、満足気な表情を浮かべ、達也は海に一歩一歩入っていく。
達也
一人では行かせないからな。
なつ美。
夏の終わりの静かな海辺。 月だけが彼の最後を見守っていた。
これは 海が大好きな二人の親子の物語である。
なつ美
達也
達也
なつ美
達也
早く起きなきゃ!
なつ美
達也
なつ美
達也
なつ美
なつ美
達也
達也
なつ美
達也
達也
なつ美
達也
なつ美
達也
なつ美
なつ美
達也
なつ美
達也
なつ美
なつ美
なつ美
達也
お前はパパの全てだ。 ママを早くに亡くしてからは2人で頑張って生きてきた。 毎朝のこんな光景が幸せでたまらなかった。
達也
私の仕事はプログラマー、Webデザイナー。
妻を亡くしてからは、娘との時間を優先するために、勤めていたIT企業を辞め、フリーに転身した。そして親子揃って海が大好きで、この町に引っ越してきた。
達也
達也
早く終えて俺も海に出掛けようかな
海のある生活は最高だった。自然豊かで空気も綺麗でご飯もうまい。
達也
達也
達也
達也
達也
達也
達也
達也
引っ越してきてよかったよ。
達也
達也
達也
なつ美
達也
どうした?
なつ美
達也
なつ美
達也
なつ美
達也
薬塗ったら暑いからかき氷食べない?
なつ美
達也
かき氷とスイカは
なつ美
達也
なつ美
達也
達也
はい、塗り薬
なつ美
達也
達也
なつ美
達也
なつ美
達也
なつ美
達也
なつ美
達也
なつ美
達也
達也
なつ美
達也
なつ美
なつ美
達也
なつ美
達也
パパは小さい頃、海の岩場に足をぶつけて毎日血だらけだった笑
なつ美
達也
達也
なつ美
達也
なつ美
達也
なつ美
達也
パパも泳ぐよ!
なつ美
なつ美
達也
達也
達也
達也
なつ美
達也
なつ美
達也
なつ美
達也
なつ美
達也
達也
一匹も釣れなかったが、早々に帰宅した。 家に帰ってしばらくしたら腫れも引いて痛みも痒みもなくなったようだった。
医者
なつ美
達也
医者
医者
医者
医者
加熱しても分解されないんで
達也
なつ美
医者
薬はだします。熱がでたり症状が悪化したらすぐきてください。
達也
なつ美
達也
なつ美
達也
なつ美
達也
なつ美
達也
なつ美
なつ美
なつ美
なんとかウインター
達也
なつ美
なつ美
達也
なつ美
なつ美
達也
達也
達也
2人でエトガーウインターのdying to liveを聞いた。 夏休みの宿題も捗った。 これはこれで良い。
数日が経過した。 症状もでなかったので海で泳ぎたいという娘の願い通り2人で海にやってきた。
なつ美
なつ美
達也
気持ちよさそうだな、海
なつ美
達也
なつ美
達也
なつ美は存分に泳いだ。この数日のおかげで、いつもよりも気持ちよさそうに泳いでいた。
ただし、それは一瞬のことだった。 痒みと痛みが再度なつ美の体を襲う。
なつ美
なつ美
達也
達也
なつ美
達也
達也
なつ美
海に入ったあとだから分かりづらかったが、 なつ美が目を赤くしていたのは泣いていたからだろう。
この子にとって海がどれだけ大切なものかを初めて理解できた気がした。
医者
急に不安になった。 そんな大袈裟なことなのか?
達也
医者
医者
達也
なんのですか?
達也
なつ美
達也
顔も赤くなってる。
医者
なつ美
達也
達也
達也
なつ美
なつ美
達也
なつ美
なつ美
なつ美
達也
達也
達也
なつ美
達也
達也
達也
大丈夫!大丈夫だから
なつ美
達也
なつ美は呆れるほどに元気な子だ。 こんなに悲しそうにしている姿はこれで二度目。 彼女の母を亡くしたとき以来のことだった。
医者
医者
達也
医者
達也
医者
達也
医者
達也
医者
達也
医者
水に皮膚が反応します。
達也
医者
医者
飲み水、シャワー、風呂などにも気を付けていただく必要があります。
達也
水を飲まずに生きろと?!
医者
達也
なつ美
達也
医者
医者
医者
医者
シャワーやお風呂で痛い思いはしているはず
達也
なつ美
なつ美
達也
なつ美
達也
なつ美
なつ美
達也
達也
達也
医者
医者
達也
医者
医者
医者
医者
医者
ただ、この病気への理解が一番大切。
医者
なつ美
私は娘の顔を見ることはできなかった
達也
達也
なつ美
達也
なつ美
達也
達也
達也
なつ美
達也
なつ美
なつ美
達也
達也
なつ美
どうして。 何年か前のなつ美なら私の言葉を信じて、すぐにでも笑顔になりそうだが、もうそんな年ではなかった。私の思っているよりも大人だった。
なつ美
なつ美
なつ美
達也
言葉が見つからなかった。
妻が死んで、この子の笑顔を取り戻してくれたのは海だった。
そしてそんな笑顔に私がどれだけ救われてきたか。
神様は娘から海すら奪い去るの? 神様は私から娘の笑顔すら奪い去るの?
もし神様がいるのならば、胸ぐらを掴んで問いただしてやりたい
そんな気持ちだった
達也
おはよう
なつ美
なつ美
達也
なつ美
なつ美
なつ美
なつ美
なつ美
なつ美
なつ美
なつ美
なつ美
なつ美
なつ美
なつ美
なつ美
なつ美
達也
私にはわかっていた
なつ美は微笑んでいるが
なにかが違う
言ってることも本心だろうけど
何となく寂しそうな笑顔だった
達也
達也
たまに短い時間に冷水シャワーならありか
達也
達也
達也
達也
達也
達也
達也
インターネットからできる限りの情報を手にいれたが世界で100件も例が存在しない珍しい病気だということがわかった
達也
達也
達也
達也
なつ美
達也
達也
達也
なつ美
なつ美
なつ美
達也
なつ美
達也
なつ美
達也
)
なつ美
達也
なつ美
達也
なつ美
達也
達也
なつ美
海に入らなくても幸せはあるよね?
達也
達也
なつ美
達也
なつ美
なつ美
なつ美
なつ美
なつ美
なつ美
なつ美
達也
達也
なつ美
なつ美
なつ美
達也
なつ美
なつ美
なつ美
なつ美
なつ美
なつ美
なつ美
なつ美
なつ美
達也
達也
達也
達也
達也
達也
なつ美
達也
なつ美
なつ美
達也
なつ美
達也
達也
達也
なつ美
達也
達也
なつ美
なつ美
なつ美
なつ美
なつ美
達也
なつ美
なつ美
なつ美
達也
それから3年の月日が経った
苦労だらけだけど少しはこの生活にも慣れた
なつ美にとって中学に入って2度目の夏がやってきた
達也
達也
なつ美
なつ美
なつ美
達也
なつ美
達也
なつ美
達也
変わらず笑顔が絶えない
楽しい生活を送っている
海のない生活
なつ美はあれから一度も浜辺に行っていないと言っていた
何度か誘ったが断られた
内心、海を忘れてくれたらって思っていた
達也
達也
なつ美
なつ美
達也
達也
なつ美
なつ美
なつ美
達也
なつ美
なつ美
なつ美
達也
達也
なつ美
達也
達也
なつ美
達也
達也
達也
達也
達也
達也
達也
達也
達也
達也
達也
達也
達也
達也
達也
達也
達也
達也
少しずつだが、私にはある覚悟が決まっていた
なつ美に海を楽しんで欲しいという覚悟が
達也
医者
達也
達也
医者
医者
医者
医者
達也
達也
達也
医者
達也
達也
達也
なつ美
達也
なつ美
なつ美
達也
なつ美
達也
達也
なつ美
なつ美
なつ美
なつ美
達也
なつ美
達也
なつ美
達也
なつ美
なつ美
なつ美
達也
なつ美
達也
なつ美
なつ美
なつ美
なつ美
達也
なつ美
達也
達也
達也
なつ美
達也
達也
なつ美
なつ美
なつ美
なつ美
なつ美
なつ美
なつ美
達也
達也
達也
達也
達也
なつ美
なつ美
達也
達也
なつ美にとっての海は私の魚好きなんか比較にはならないだろう。 毎日胃が痛かった。 後ろめたい気持ちで 会わす顔がないときも多かった。
あれから3年、なつ美に満面の笑みが戻った気がした。
なつ美
達也
達也
達也
なつ美
達也
なつ美
達也
達也
なつ美
なつ美
なつ美
なつ美
達也
達也
達也
なつ美
なつ美
なつ美
達也
達也
綺麗だなほんとに
なつ美
なつ美
なつ美
なつ美
達也
なつ美
達也
なつ美
達也
なつ美
達也
なつ美
なつ美
なつ美
なつ美
これが最後の笑顔だった
なつ美はアナフィラキシーショックで亡くなった
万が一のことは分かっていた
それでもなつ美の願いを叶えてあげたかった
私は世間からバッシングされるかもしれない 何かしらの罪に問われるかもしれない
それでも悔いはなかった
なつ美の最高の笑顔が見れたから
達也
(なぜ僕は生きるために戦っているんだろう?戦うために生きているだけなのに。)
達也
(なぜ僕は何かを見ようとしているんだろう?見渡しても何もないのに。)
達也
(なぜ僕は与えようとしているんだろう?誰も僕に何一つくれないのに。)
達也
(なぜ必死に生きているのだろうか?ただ死ぬために生きているのに。)
達也と娘のなつ美が愛した、エドガーウインターのdying to live
この曲はこのように終わる
必ず夢を叶えてみせるよ。 だからこのまま生きるために戦い続ける。 戦う理由がなくなるまで。
そしてこのまま見ようと努力し続ける。 終わりがこの目に映るまで。
こんなに与えようとしてるんだから 僕にもチャンスをくれよ。
僕は生きるために戦い続けるんだ。 覚悟ができるまで、覚悟ができるまで 覚悟ができるまで。
死ぬ覚悟ができるまで。
達也
達也
達也
達也
達也
達也
この曲を口ずさみ終わると、全てをやり遂げたかのように、満足気な表情を浮かべ、達也は海に一歩一歩入っていく。
達也
達也
たくさん泳いでほしいから
達也
達也
達也
夏の終わりの静かな海辺。 月だけが彼の最後を見守っていた。