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コメント
2件
感動的すぎました!いいストーリすぎます! ♡470押させていただきました!
rara🎼
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月がきみを壊す前に
rara🎼
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みこと
いるま
rara🎼
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Prolog 夜を隠して生きる
教室の窓の外に、白い雲が流れていく。
梅雨の晴れ間は貴重で、昼休みの光はやけに眩しく感じられた。
みこと
みことは、誰に言うでもなく呟いた。
いるまの席は、今日も空っぽだ。
椅子は整っていて、机には何も無い。
けれど、そこだけ時間が止まったように感じてしまうのは、きっと気のせいじゃない。
ひと月に一度。
決まって休む日がある。
その翌日は、決まって傷だらけで、やつれた顔で戻ってくる。
風邪でも、熱でもない。
なのに「大丈夫」とだけ笑って、何も話してはくれない。
“誰にも言うなよ”
そう言ったのは、あの冬の夜だった。
寒さに凍えるような帰り道で、ふとした拍子に袖口から覗いた手首の赤い痕に、みことは言葉を失った。
みこと
いるま
冗談みたいな言い訳に、みことは笑えなかった。
けれどそれ以上踏み込んだら、なにか壊れてしまいそうで、何も言えなかった。
親友として、それが正しかったのかは、今でも分からない。
ノートの切れ端に、今日のプリントが綴じられていく。
テストの返却もあった。
いつもなら「放っておいていい」というはずのいるまだが、今日に限って先生が言った。
先生
先生
断る理由は、無かった。
だから放課後、みことは一人、鞄にそれらを詰めて、ある決意を胸にしまった。
“今日こそ、ちゃんと話そう”
そう思っていた。
まさか、それが全ての終わりになるなんて知らずに。
そして────
その日の夜、空には完璧な程にまあるい月が浮かんでいた。
第1章 封じられた扉
みこと
みことは、空席をちらりと見やった。
誰もいないのに、そこにいるかのような気配を感じてしまうのは、いるまが“いつも通り”の不在だからだ。
月に一度、決まったように休む。
そして次の日には、顔に絆創膏を貼り、指先に包帯を巻き、いつものように笑って登校してくる。
そんなふうに、何も無かった顔をして。
でも、みことは気付いていた。
あれは「何も無い」わけじゃない。
あの笑顔の裏には、何か大きなものが隠されている。
けど、聞いても絶対に教えてくれない。
だからこそ、余計に気になって、胸がざわつく。
みこと
先生
先生
帰り際、担任がそう言った。
いるま宛てのテストとプリント。
普段なら「放っておいてくれ」と言うくせに、今日に限って先生は「お前なら」と渡してきた。
断る理由は無かった。
だけど、足取りは重たかった。
知らんふりしてれば、何も変わらない。
けど、このままじゃ……ダメだ。
みことの中に、静かに揺れる覚悟があった。
────今日は、踏み込もう。
夕方、いるまの家に向かってチャリを走らせた。
住宅街の外れ。
木々が生い茂る細道を抜けた先に、少し古びた一軒家が見えてくる。
到着した頃には、空はすっかり薄闇に包まれていた。
その空にぽっかりと、まんまるい月が浮かんでいる。
光は静かに、けれど刺すように冷たかった。
みこと
胸の奥がざわつく。
インターホンを押しても、反応は無い。
二度、三度押しても変わらない。
代わりに────何かが聞こえた。
最初は微かな気配。
次に、微かな、けれど確かに苦しむような声。
みこと
嫌な予感が、背筋を這い上がる。
みことは咄嗟にドアノブを掴んだ。
鍵は……開いていた。
みこと
みこと
返事は無い。
でも、室内に満ちる空気が、どこかおかしかった。
ひんやりと冷たく、何かが沈んでいるような気配。
呼吸をひとつ整えて、リビングへ。
誰もいない。
だが、奥からまた、あの声が聞こえる。
声を頼りに進むと、キッチンの隅に古びた木の扉があった。
普通の家には無い、不自然な造り。
見過ごしてしまいそうなその扉には、かすかに鍵の痕跡。
けれど、今は開いていた。
みこと
ぎぃ、と音を立てて開けると、薄暗い階段が現れた。
その先から、かすかに血の匂いと鉄の匂いが漂ってくる。
ゆっくり、一歩ずつ降りる。
心臓の音が耳に響く。
膝が震えていた。
でも、戻る気にはなれなかった。
何かを知ってしまうかもしれない。
でも、それを知らずにいるほうが、怖かった。
階段を降りきった先の空間。
そこで、みことは目を見開いた。
みこと
そこに居たのは、鎖で手足を縛られた少年だった。
肩で荒く息をし、血まみれの姿で、呻くように歯を食いしばっている。
だが────その姿は、明らかに“人間”では無かった。
肌は汗と血で濡れ、筋肉が異様に盛り上がっていた。
牙は伸び、月のように綺麗な黄色い瞳は赤く濁っていた。
その顔には、確かに“いるま”の面影があった。
けれど、もうひとつの何かがそこにいた。
いるま
鎖が鳴った。
身体が軋み、変化していく。
骨の形が、腕の太さが、音を立てて変わっていく。
獣の咆哮が、地下室に響き渡った。
みことの身体が硬直する。
頭では逃げなければいけないってわかっているのに、足が動かない。
目の前にいるのは、いるま。
でも、いるまじゃない。
いや、きっと────どっちも“本当のいるませんせー”なんや。
鎖が外れた。
そして、いるまは────いや、“狼”は、唸り声を上げて飛びかかってきた。
みこと
引き裂かれるような痛み。
頬が、腕が、胸が、深くえぐられる。
それでもみことは叫ばなかった。
歯を食いしばりながら、ただ、その大きな身体を抱きしめた。
みこと
爪が肉を裂いても、牙が近づいても、離さなかった。
みことは、親友を失いたくなかった。
ただ、それだけだった。
みこと
みことの涙が、いるまの肩に落ちた。
すると────
獣の背中が、小さく震えた。
喉の奥から、嗚咽のような音が漏れた。
そして、かすかに、言葉が落ちてくる。
いるま
その声に、みことの目から、また涙が溢れた。
みこと
狼は、ゆっくりと目を閉じた。
そして、力が抜けるように、みことの腕の中で眠りに落ちていった。
痛む身体のまま、みこともその場に崩れ落ちる。
傷が酷くても、恐怖が残っていても、胸の奥は少しだけ、あたたかかった。
────親友を、やっと見つけた気がした。
静かな月の光が、地下の小さな窓から差し込んでいた。
第2章 真実と決意
朝の光は、あまりにも穏やかで、残酷だった。
みことは、誰かの布団の中で目を覚ました。
しばらくの間、ここがどこなのか思い出せなかった。
頭がぼんやりとして、指先の感覚も上手く戻ってこない。
だけど、身体が軋む。
顔も、腕も、胸も────まるで、獣に引き裂かれたように。
みこと
ぽつりと、声がこぼれた。
思い出した。
昨夜のこと。
あの地下室。
血の匂い。
鋭い爪。
獣のような牙。
抱きしめた、あたたかくて、苦しそうな鼓動。
その中心にいたのは、やっぱり、いるまだった。
隣の気配に目を向ける。
そこには、もう人間の姿に戻ったいるまが、静かに眠っていた。
ぐっすり眠っているように見える。
けれど、その眉には深いしわが寄っていて、夢の中でも何かに怯えているようだった。
みこと
みこと
小さく笑った時、ふいにいるまが目を覚ました。
眠気の混じった瞳が、はっきりと焦点を結んだ瞬間────
いるま
その声は震えていた。
いるまは、みことの顔を見て、そして────その身体の傷に目を留めた。
額の擦り傷。
頬を引っかかれた跡。
袖から覗く、深くえぐれた腕。
胸元には、今もじんわり血が滲んでいる。
いるま
叫ぶように、息を呑んだ。
そして、立ち上がると、キッチンへ駆け込む。
みこと
すぐに戻ってきたいるまの手には、包丁が握られていた。
みこと
みことの叫びにも構わず、いるまは震える手で包丁の刃を自分に向ける。
けれど、それを強く握ったあと、くるりと向きを変え、みことの前に突き出した。
いるま
声が、震えていた。
それは怒りでも、絶望でもなかった。
心の底から疲れきった、誰かに許しを乞うような声だった。
いるま
いるま
いるま
みこと
いるま
言葉が詰まり、喉がひくりと鳴る。
いるま
いるま
沈黙が落ちる。
夏の朝だと言うのに、空気はひどく冷たく感じられた。
いるま
いるま
いるま
いるま
包丁を差し出す手が、震えている。
その刃が、みことの前で揺れている。
みことは、ゆっくりと手を伸ばした。
けれど────
みこと
いるま
みこと
みこと
そう言って、包丁をそっと受け取る。
そして笑った。
涙を浮かべながら、それでも、笑っていた。
みこと
いるま
みこと
みこと
みことは、刃を持ち替え、深く息を吸った。
そして、心を決めたように、小さく呟く。
みこと
そして、刃が、振り下ろされた。
赤い、花が咲いた。
直後、もう一つの花が、静かに咲いた。
月の光は、すでに傾き始めていた。
────それから、どれ程の時が流れただろう。
季節は巡り、街は変わって、ある小さな公園に、ひとりの男の子が居た。
すりむいた膝を押さえて、大きな声で泣いている。
その隣に、小さな影がそっとしゃがみこむ。
いるま
差し出されたのは、くまの絆創膏。
男の子が目を向けると、そこには、どこか懐かしい瞳をした少年がいた。
みこと
いるま
いるま
みこと
みこと
その瞬間、少年の顔が綻ぶ。
いるま
いるま
いるま
みこと
ふたりは笑いあった。
何も知らずに、でも、心のどこかで確かに感じながら。
やがて、その笑い声が、青空に吸い込まれていく。
そして、物語は、静かに幕を下ろす。
────また、きみに、会えた。
rara🎼
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