イズミ
ちょっとミツキ!無断で赤ちゃん預けるなんて何考えてんのよ!
ミツキ
は?一体どうしたのお姉ちゃん
イズミ
とぼけないで!何も聞かないでくださいって置手紙にあったけど、そうはいかないわ!
イズミ
可哀想に。こんな、生後2週間くらいの小さい赤ちゃんを…
ミツキ
ちょっと待って!赤ちゃん?何のこと?
イズミ
しらばっくれないでよ!
イズミ
生まれて間もない男の赤ちゃんを、うちの玄関前に捨てたでしょ!
イズミ
『あなたの妹の子です』という置手紙を添えて!
イズミ
何があったか知らないけど、無責任すぎるわよ!訳を聞かせてもらうわ!
ミツキ
私、子供産んでないけど
イズミ
へ?
イズミ
それ本当なの…?
ミツキ
うん。いまだ妊活中よ。旦那に聞いてみてもいいわ
イズミ
でも何か月か前、生理が来なくなった、お腹も張って妊娠したかもって…
ミツキ
それね、伝え忘れたけどただの生理不順で太っただけってオチだったわよ
イズミ
本当なのね?
イズミ
この子、なんとなくあんたに似た顔立ちしてるけど、あんたの子じゃないのね?
ミツキ
だから違うよ。疑うならDNA鑑定したっていい
イズミ
そっか。さっきはごめん…
イズミ
じゃあ、この子は一体何なの…?
ミツキ
わからない…。『あなたの妹の子です』って書いてあったのよね
イズミ
うん。でも私の妹ってミツキだけだし、一体誰が…
ミツキ
…ちょっと待って
ミツキ
妹って、もう一人いたはず…
イズミ
え、それって誰?
ミツキ
ほら、昔離婚したお父さんと、再婚した不倫相手との間に…
イズミ
あ…
ミツキ
たしかあの子も、女の子だったよね
イズミ
うん。ずっと会ったことなかったけど、お父さんの葬式の時、ちょっとだけ顔を合わせたから
イズミ
遺産相続の時には、再婚相手しか来なかったけど
イズミ
でも、あの子7年前の時点で、8歳か9歳くらいの子供だったよね?
イズミ
ということは、まだ中学生か高校生くらいじゃん!
イズミ
そんな子が赤ちゃんを産むなんて…
ミツキ
私と顔が似てるのも、私が父親似なことを考えると不思議じゃないかもね
ミツキ
異母妹の産んだ甥だとしたら
ミツキ
まぁでも、まだ確定事項じゃないけど
イズミ
私も、あの一家が怪しい気がする
イズミ
あの再婚相手、不倫発覚時から私達に敵意丸出しだったし、
イズミ
遺産相続の話し合いの時もそれは変わってなかったし、
イズミ
私達に何か仕掛けてきてもおかしくないかも…
イズミ
だからって、子供に罪はないよ…
ミツキ
お姉ちゃん。その子どうする?
イズミ
ひとまず、うちで面倒見るよ
イズミ
うちの子達、大喜びでお世話してるよ。弟か妹を欲しがってたから
ミツキ
そっか、ありがとうお姉ちゃん
ミツキ
私、色々調べてみるから
~数日後~
ミツキ
すみません、こちらミズホさんのLINEですよね
ミズホ
ん?あんた誰
ミツキ
失礼しました。私、ミツキと言います
ミツキ
亡くなったセイイチロウさんの、前妻の子供です。母のスマホから連絡先を見つけました
ミツキ
セイイチロウさんの葬式と、遺産相続の時に顔を合わせましたよね
ミズホ
あーあの!今更何の用?恨み言でも言いに来た?
ミズホ
こっちはあんた達がノコノコと遺産受け取りに来たせいで、
ミズホ
金が足りなくて困ってるってのに!
ミツキ
そんな…父は充分な遺産をあなた方にも残していましたよね?
ミズホ
充分~?前妻は子供二人だからって殆ど取っていったくせに!
ミツキ
今はそんな話してる場合じゃありません
ミツキ
姉のイズミの家の前に、赤ちゃんが捨てられていたんです
ミズホ
赤ちゃん~?
ミツキ
はい。『あなたの妹の子供です』という手紙を添えて。父に似てるんです、その子
ミズホ
知らないわよ!私の子じゃない!
ミツキ
ええ。父は7年も前に亡くなってますし、父とあなたの子である可能性はありません
ミツキ
でも、いますよね。私達の妹であり、父の血を引いている存在が…
ミズホ
あぁもう、目星付けてるんなら回りくどい言い方しないでよ!
ミズホ
そうよ、カリンの子よ。あのバカ娘、あの歳で妊娠したのよ!
ミツキ
やっぱり…すぐ姉の家に赤ちゃんを迎えに来てください
ミズホ
なんでよ、私の子じゃないのよ!カリンが勝手に産んだ子よ!関係ないわ!
ミツキ
だとしても、まだ未成年のあなたの娘さんがやったことですよ!あなたの孫ですよ!
ミズホ
知らないわよー。カリン、勝手に家出してずっと帰ってこないんだから!
ミズホ
あの子のやったことなんか私には関係ないわ!
ミツキ
そんな!
ミズホ
しつこいからもうブロックする!
ミツキ
ちょっと!待ってください!
~数日後~
ミツキ
すみません、これ、カリンちゃんのLINEですか?
カリン
え、誰?
ミツキ
初めまして…でもないよね
ミツキ
あなたの姉のミツキ。お父さんの前妻の子です
ミツキ
お父さんのお葬式で会ったんだけど、覚えてないかな
カリン
覚えてます…
カリン
なんで、私の連絡先知ってるんですか?
ミツキ
あなたのお母さんにブロックされてからは大変だったのよ
ミツキ
でもお父さんの親戚中聞きまわって、やっと連絡先が分かったの
ミツキ
それで、私があなたを探してた理由、わかる?
カリン
赤ちゃんのことですか?
ミツキ
そう。もう一人の姉のイズミに、勝手に預けたよね
カリン
はい…あの子、今どうしてますか?
ミツキ
イズミお姉ちゃんが面倒見てる。色々、詳しく聞きたいんだけど…
カリン
…こんなことになったのも、あんた達のせいだから
ミツキ
え?
カリン
お母さんが言ってたんです
カリン
前妻とその子供二人が遺産を殆ど持って行ったせいで、うちはお金がないんだって…
ミツキ
ちょっと待って!それ誤解だよ
カリン
へ?
ミツキ
お父さんは、亡くなった時点の妻であるあなたのお母さんに遺産の半分を渡したし、
ミツキ
残りは私達三人に平等に残してるわ
カリン
そうなんですか?
ミツキ
そうよ。あなたのお母さんはそれでも足りない、お前らが取ったんだろうって騒いでたけどね
ミツキ
お父さん稼ぎまくってたし、十分すぎる額だったと思うけど
カリン
でも、実際うちにはお金がなくて、だから私も高校行けなくて、
カリン
それで…お母さんの命令で、体、売らされてたんです
ミツキ
え、そんな…まだ16歳だよね?
カリン
中学生の時からです
カリン
お母さん、ネットでお客さん募って、未成年で違法だから余計高く売れるんだって言ってました
カリン
実際高く売れて、私も、お母さんのためだから頑張らなきゃって…
ミツキ
酷い…自分の娘に…
カリン
でも、儲かった時は何でも好きなもの食べさせてくれたり、
カリン
海外旅行に連れてってくれたりもしたんです
カリン
それが嬉しくて…
ミツキ
海外旅行?まず生活費や学費が優先じゃないの?娘に体売らせる時点でおかしいけど
ミツキ
お金が足りなくなったのって、悪いけど間違いなく、あなたのお母さんの浪費癖のせいだよ
カリン
…考えてみれば、お父さんの生きてた時から浪費癖ありました
カリン
でも、お母さんは前妻の子達のせいだっていうから、信じちゃってました
ミツキ
そっか…それで、赤ちゃんは客との間に出来た子?
カリン
うん
カリン
高額出すから避妊したくないって人が結構いて、それで…
ミツキ
そんな、酷い…どうして堕ろさなかったの?
カリン
嫌だったんです。自分の中に宿った命を、殺したくなかったんです
カリン
生まれて初めて、誰かを守りたいって思いました
カリン
それで、体調が悪いことにしてずっと隠し通して、
カリン
お母さんが気付いた時にはもう、堕ろせなくなってました
ミツキ
そうなんだ…
カリン
どうにか産んだけど、お母さんは、赤ちゃんなんかこの上育てられるわけないだろう、
カリン
どっかに捨てて来いって怒ったんです
ミツキ
酷すぎる、まるで犬猫みたいに…
カリン
ごめんなさい。最低ですよね私。でも、どうしていいかわからなくて…
ミツキ
違うの、カリンちゃんに言ったんじゃないよ
ミツキ
でも、どうしてイズミお姉ちゃんの家に捨ててきたの?
カリン
昔お父さんに、あれがお父さんの昔の家だよって教えられたのを、記憶を頼りに探しました
カリン
イズミさんは、お父さんの前の家を継いでいたから
カリン
私、お母さんに言い聞かされていて、あなた達を逆恨みしてたんです
カリン
こんなことになったのも異母姉達のせいだ、ちょっとくらい負担してもらってもいいはず、って…
ミツキ
そうだったんだ…
カリン
でも、最大の理由は…窓から、イズミさんとその旦那さん、子供達が見えたんです
カリン
凄く幸せそうで…羨ましくて…
カリン
こんな家で育ててもらえるなら、あの子も幸せになるかもしれないって勝手に思ったんです
ミツキ
そう。家出したのは、体を売らされるのが嫌になったから?
カリン
はい。また妊娠しちゃうかもしれないって考えると怖くなって
カリン
家出少女を泊めてくれる所を転々としていたけど、そこでも危ない目に遭うし
カリン
どうしていいかわからなくなって、今沢渡公園にいるんです
ミツキ
沢渡公園ね…
ミツキ
大丈夫、さっき通報した。もうすぐ保護されるよ
カリン
え?
ミツキ
うちの夫、警察官なんだ
ミツキ
カリンちゃんも赤ちゃんも保護されるから、もうあの家に帰らなくていいんだよ
ミツキ
辛かったね、今まで本当に
カリン
警察…?私、赤ちゃん捨てたし、体売ったし、逮捕されるんですか!?
ミツキ
保護責任者遺棄罪には問われるかもしれない
ミツキ
でも事情が事情だし、これ以上悪いことにはならないわ。一番悪いのはミズホさんよ
ミツキ
あなたはまだ子供だし、もっと早く誰かに助けを求めて良かったのよ。赤ちゃんの為にも
カリン
私、学校行ってなくてバカだし、恥ずかしいから誰にも言えなくて…
ミツキ
カリンちゃん、赤ちゃんに名前付けてたんだね
ミツキ
置手紙に、ヨシタカって書いてあったって
カリン
名前って、親からの最初のプレゼントっていうでしょう。それくらいはしてあげたかったんです
ミツキ
ヨシタカ君に、会いたいと思う?
カリン
うん。会いたい。会って抱きしめたい。できれば私が育てたかった
ミツキ
じゃあ、ヨシタカ君の為にも、周りの助けを借りて、頑張って立ち直らなきゃ
カリン
うん…ごめんなさい、みんなに迷惑かけて、本当に…
カリン
どうしてそんなに優しいんですか?私のお母さん、お父さんの不倫相手だったんですよね
カリン
私、お姉さん達に恨まれても仕方ないのに…
ミツキ
そうだね。正直よく思ってなかったよ。でもそんな私でも、あなたを助けたいと思った
ミツキ
だからもう少しだけ、大人を信用していいと思うよ
~後日談~
ミツキ
その後、カリンちゃんは警察に保護され、児童相談所に行きました
ミツキ
施設に入ったカリンちゃんは一年遅れて高校に入り、
ミツキ
日々勉強とバイトを頑張りながら、
ミツキ
時々、父方の遠い親戚に引き取られたヨシタカ君に会いに行っているそうです
ミツキ
『いつか立派な母親になって、ヨシタカを引き取りに行くのが目標』だそうです
ミツキ
ミズホさんと、カリンちゃんを『買った』男達は、残らず逮捕され、実刑判決が下されました
ミツキ
「あまりに抵抗するし、逮捕する時少し手荒な扱いになった」
ミツキ
というのは夫の言葉です
ミツキ
女子刑務所で娘にしたことが知れ渡ったミズホさんに、
ミツキ
最愛の娘と離れ離れになったという同室の受刑者が大激怒
ミツキ
受刑者達のリーダー的存在であるその人の影響で、
ミツキ
ミズホさんは刑務所内で陰湿で暴力的ないじめを受けているそうです
ミツキ
出所後はカリンちゃん達に近づかず、一人で生きて行ってほしいですね