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ソルト
観客が去り、収録を終えた出演者たちも着替えを済ませる頃。 テレビ局のエントランス。 ソルトは未だ衣装姿のまま、深々と頭を下げていた。 その正面に立つのは、辰巳事務所の黒宮所長。
黒宮所長(?)
冷たい声が、頭上から落ちる。
ソルト
黒宮所長(?)
黒宮の口角が、僅かに上がった。 そう。 先ほどの生放送。 消毒液を使おうとしたライの手を止めようと、咄嗟に手を伸ばした時。 ソルトのネイルが当たり、その手を切ってしまったのだ。
ソルト
恐る恐る視線を向ける
ライ(?)
ソルト
顔を上げたソルトは、思わず目を伏せた。 言葉が出ない。 明日も撮影がある。 自分が怪我を負わせた。 その事実だけは、どうしたって消えない。 カツン。 硬いヒールの音が近付く。 カツン。 もう一歩。 気付けば、ライはソルトの目の前。 僅か三十センチの距離まで詰めていた。 小刻みに震える手を取られる。
ソルト
そのまま腕を引かれ、胸元へ抱き寄せられた。
ライ(?)
ソルト
何を。
ライ(?)
ライ(?)
ソルト
喉元まで出かかった声を、寸前で飲み込む。 ソルトは目を見開いたまま、ライを見上げた。 話が。 まるで噛み合っていない。 すかさず、その肩越しへ視線を向ける。 黒宮所長。 止めて。 そう訴えるより先に、目が合った。 黒宮は口角を上げたまま。 ただ、二人を見守っている。
黒宮所長(?)
周囲を見る。 エントランスには、まだ出待ちをしていた観客たちが残っていた。 人が、人を呼ぶ。 何事かと足を止め。 携帯を取り出し。 てんやわんやと、野次馬の大群が出来上がっていく。
ライ(?)
ソルト
ライ(?)
待って。 違う。 そんな話はしていない。 困惑するソルトを置き去りにして、話だけが進んでいく。 向けられるカメラ。 切られるシャッター。 囁き声。 歓声。 写真が撮られる。 投稿される。 拡散される。 ネットの中では、現実よりも速く。 二人の物語が、勝手に進み始めていた。
コメント
1件
読んだ!第21話、タイトル「ご都合主義」がめっちゃ刺さったわ……。ソルトの困惑とライの強引さの温度差が気持ち悪いくらいリアルで、しかも周りが勝手に盛り上がって物語が独り歩きしていく感じ、ゾクゾクした。黒宮所長が止めないのも怖い。次どうなるか気になる!
50
聖次
474
#ミステリー
有難朱生
354