テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
1件
威榴真side
しんと静まり返った部室で 俺は1人書類と格闘していた。
立冬を間近に控えているのが 嘘のように窓越しの日差しが 背中を温めてくれている。
紫龍いるま
設立されてから3年と経っていない 映画研究部は六奏高校で 1番新しい部だ。
唯一残っていた空き教室は 最もアクセスの悪い最上階の 突き当たり。
しかも物置代わりだったという おまけ付きだ。
蘭に手伝ってもらい なんとかそれらしく整えたのが 今の部室だった。
紫龍いるま
連日寝不足が続いているらしく 目の下にクマを作っていることも 少なくない。
推薦入試対策に没頭しているのだろう と思っていたが後は合格発表を 待つばかりとなってからも一向に クマが消える気配がなかった。
メイクで上手く隠しているつもり なのだろうが長く一緒にいる 俺からするとすぐに分かった。
紫龍いるま
夏都から澄絺が蘭に告白していたと 聞いて以来俺は出来るだけ2人と 距離を取るようにしていた。
嫉妬がどうの八つ当たりがどうのと いう話ではなく自分に自信を つけるまではと決めたからだ。
紫龍いるま
好きな相手に恋人ができたのかどうか 気にならない人間はいないだろう。
だがそれよりも2人の告白の前後で 態度が変わらないことが 引っかかっていた。
確かに以前よりは距離が 縮まったようにも見えるが あくまで幼馴染の範囲だ。
紫龍いるま
長机に放置していたスマホを 手繰り寄せ俺は蘭との トーク画面を開く。
前置きもなく本文も短かった。
桃瀬らん
指定された時間は 最終下校時間の5分前だった。
その時間、その場所で 何をするつもりなのか まるで見当もつかない。
紫龍いるま
雰囲気を出す為に わざわざセッティングしたと いうことなのだろうか。
紫龍いるま
あれこれ考えていても答えが 出るわけでもない。
自宅で作ってきた工程表と 睨み合うのを再開し 1分と経たずに目頭をつまんだ。
卒業記念ともいうべき新作映画の 話を聞きつけた生徒会から式の前日に 上映会を行いたいとの申し出が あったのは1週間前のことだった。
紫龍いるま
当初俺たち映研は反対の立場だった。
個人的に観たいと思ってくれた 人たちが集まるならまだしも 生徒会主動の上特別な意味を 持ちかねない日程だったからだ。
話を聞き終えた澄絺は開口一番 遠慮会釈なく切り込んだ。
春緑すち
春緑すち
しかし生徒会長も負けてはおらず 身を乗り出して訴えた。
生徒会長
赤暇なつ
最初に攻略されたのは夏都だった。
3人の中でも1番素直だと いうこともあり気分が良さそうに 生徒会長に笑いかける。
春緑すち
口ではそう言いながら澄絺の心が ぐらついているのは明白だった。
俺は立場を保つ意味で黙って 聞き役に徹していたが見事な ツンデレっぷりに思わず 吹き出してしまったくらいだ。
相手も思わぬ好感触に励まされたのか さらに熱を込めて言う。
生徒会長
結局その言葉が決め手となり 卒業記念作品は全校上映 されることになったのだ。
紫龍いるま
紫龍いるま
ただでさえ押していたところに 生徒会主催行事だからと 事前に職員会議にかけられる為 その時間も確保しなくては ならなくなってしまった。
卒業式に間に合わなくても 最悪の場合春休み中に 完成すればいい。
そんな風に何処かのんびり構えていた 俺たちはお尻に火が付いた状態だ。
紫龍いるま
ははは、と乾いた笑いが零れる。
すると次の瞬間タイミングを 見計らったようにドアが揺れた。
最近ますます調子が悪いドアは 重低音を響かせて開き肩で 息をする澄絺が顔を出す。
春緑すち
紫龍いるま
来たら一発かましてやろうと 思っていたが流石に今は そんな場合じゃないとわかる。
紫龍いるま
春緑すち
珍しく歯切れが悪い 澄絺が気になりつつも 俺は話題転換に乗ることにする。
紫龍いるま
宣言通り指定校推薦の枠を 勝ち取った夏都は本番でも 実力を発揮し3人の中でいち早く 合格をもぎ取っていた。