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七夏
僕がそう呼ぶと、 六人の兄と姉たちが一斉に食卓につく。
それが僕たちの一日の始まりだ。
家事全般は末っ子の僕がしている。
これが兄妹の中での僕の役割。
朝食を食べ終わるとそれぞれ準備にかかる。
長男の一真兄さんが僕に声をかけてきた。
一真
七夏
一真兄さんは会社員だ。
毎日僕にネクタイの場所を聞いてくるのは、 お決まりの行動だ。
一真
一真兄さんはそう言って、 左腕につけている時計を見ながら慌てて出ていった。
僕は洗い物をしようと、 机の上の食器に手を伸ばした。
すると後ろから、 長女の二風姉さんが声をかけてきた。
二風
七夏
二風姉さんはオシャレ好きで、 アパレルショップでバイトしている。
二風
二風姉さんはそう言って、 お気に入りの髪留めをつけて出ていった。
僕は食器を流し台に運び終え、 蛇口のハンドルに手をかけた。
ふと視線を感じ前を見ると、 次女の三鈴姉さんが僕をじっと見つめて聞いてきた。
三鈴
七夏
僕が他の家事で手一杯になった時は、 たまに晩御飯を作ってくれる優しい姉さん。
僕が作るより、 調理師の三鈴姉さんが作った方が断然美味しい。
三鈴
三鈴姉さんはそう言って、 重たそうにかばんを持って出ていった。
僕は洗い物を終え、 食器を棚に戻していた。
すると遠くから、 次男の四音兄さんが声をかけてきた。
四音
七夏
四音兄さんはバンドマンだ。
毎日ギターのピックやら楽譜やらを、 あちこちにほったらかすのはやめてほしい。
四音
四音兄さんはそう言って、 ギターの入ったケースを背負って出ていった。
僕は食器を棚に戻し終え、 洗濯をしようとそれぞれの部屋に洗濯物を集めに行った。
すると途中で、 三男の五雨兄さんが声をかけてきた。
五雨
七夏
五雨兄さんは、 今年大学受験を控えている高校三年生だ。
毎日僕に、 学校で使うものを見てないかどうか聞いてくる。
五雨
五雨兄さんはそう言って、 ぼろぼろのスクールバッグを持って出て行った。
僕は洗濯機を回している間に、 掃除をしていた。
すると三女の六実姉さんが声をかけてきた。
六実
七夏
六実姉さんは通信制の高校に通っている。
授業が午前中しかない水曜日は、 午後から食品在庫管理のバイトに出かけている。
六実
六実姉さんはそう言って部屋に入っていった。
僕もそろそろ出ないと、 学校に間に合わない。
僕は急いで支度をして家を出た。
これが僕たちの日常だ。
でも今日は学校から帰ってくると、 郵便受けに怪しげな赤い封筒が入っているのを見つけた。
七夏
差出人不明。
封筒の宛名のところには、 オオカミのマークみたいなのが書いてあるだけだった。
僕は何か嫌な予感がした。
だから全員が帰ってくるまで中身は見なかった。
僕は晩御飯の時間に、 みんなにこの封筒を見せて言った。
七夏
みんなは口々に、知らない、と答える。
僕は封筒を開けて中身を確認した。
「立花家の皆さん、ごきげんよう。あなたたちを私の館で行われるゲームにご招待します。開催日はゴールデンウィークの七日間、もちろん参加は自由です。しかし、ご両親が遺した借金をなくしたいのであれば、参加されたほうがよいかと思います。では、お待ちしております。館の主」
僕たち立花家には両親が遺した借金がある。
両親が他界するまで借金の存在に気づかなかった。
五年経ってもまだ、 一億ほど残っている。
封筒の中にはこの招待状と地図が入っていた。
一真
一真兄さんが地図を見て言った。
僕を含めた全員が、 一真兄さんに視線を向ける。
七夏
一真
一真兄さん以外、 誰もぴんときていないようだ。
一真
四音
四音兄さんが空気を和ませようとふざけてみたけど、 余計に凍りついた。
三鈴
二風
三鈴姉さんと二風姉さんが、 いつものように対照的なことを言う。
五雨兄さんと六実姉さんはスマホに夢中で、 話題にすら入ろうとしない。
一真
一真兄さんはやっぱり真面目だ。
でも僕は、 正直行きたいと思っている。
二風
四音
二風姉さんと四音兄さんは意気投合して、 一真兄さんに愚痴を言っている。
困り顔の一真兄さんを横目に、 三鈴姉さんが呟いた。
三鈴
七夏
いきなり指名された僕は、 うわずった変な声を出してしまった。
一真
一真兄さんに詰め寄られて、 僕は為す術もなく答えた。
七夏
一真
七夏
僕を見つめる一真兄さん。
怒られると覚悟して目を瞑った時、 一真兄さんは僕の頭を優しく撫でた。
一真
笑顔の一真兄さんに、 僕はほっとした。
六実
途中から話を聞いていた六実姉さんが、 驚いた様子で言った。
五雨兄さんも同様に、 一真兄さんのほうを見て固まっている。
一真
それを聞いた六実姉さんと五雨兄さんは、 納得したようだった。
三鈴
三鈴姉さんが小さな声で、 慌てた様子で言う。
それに続いて四音兄さんも話し出す。
四音
みんな僕のことを想ってくれている。
七夏
僕は笑顔でそう伝えた。
あっという間にゴールデンウィークがきた。
僕たちは招待状と地図だけ持って家を出た。
一真兄さんを先頭に、 地図を見ながら館に辿り着いた。
一真
僕たちの家よりはるかに大きい館が、 そこにはあった。
僕たちは緊張しながら館に入った。
???
変声機を使ったアナウンスが館内に響いた。
僕たちはそこから動けず、 黙ってアナウンスを聞くことにした。
ウルフ
目の前のモニターに、 ウルフと名乗る人物の姿が映し出された。
ウルフは丁寧にお辞儀をして、 また語り出す。
ウルフ
僕たちは言われたとおり、 一番の部屋に入った。
そこは玄関と同じくらいの広さで、 大きなモニターが壁に掛けられている。
七人全員が座れるソファーがあり、 机にはたくさんのお菓子が置いてあった。
ウルフ
アナウンスが流れると同時に、 四音兄さんはお菓子に手を伸ばしていた。
二風姉さんの口には既に生クリームがついている。
一真兄さんはそんな二人にげんこつをくらわせた。
ウルフ
四音
四音兄さんは言われたとおり、 二番の部屋に入っていった。
すると目の前のモニターに、 二番の部屋の様子が映し出された。
ウルフ
モニターから四音兄さんの独り言が聞こえる。
四音兄さんは椅子に座って、 足をぱたぱたさせていた。
ウルフ
一番の部屋にいる全員が五雨兄さんに視線を向けた。
五雨兄さんは一切瞬きをせず、 その場で口をつぐんで固まっていた。
一真
一真兄さんが優しく問い詰めるが、 五雨兄さんは何も言わない。
するとモニターから声が聞こえてきた。
四音
ウルフ
四音
僕は焦った。
だめだ、四音兄さん、五雨兄さんは……
ウルフ
モニターの画面がぷつりと切れ、 次に映った時には四音兄さんの姿はなかった。
一真
一真兄さんがモニターに向かって叫ぶ。
他のみんなは黙ってそれを見ていた。
ウルフ
ウルフの小さな笑い声が部屋に響いた。
一真兄さんは拳を震わせ、 五雨兄さんは呆然と立ち尽くしていた。
ウルフ
僕たちは翌日の朝八時まで、 会話をすることはなかった。
ウルフ
みんな何も喋らなかった。
五雨兄さんは黙って部屋に入っていく。
ウルフ
ソファーに座っていた三鈴姉さんは、 いきなり立ち上がった。
顔を真っ赤にしてうつむいている。
三鈴
その言葉でこの問題の答えはもう出てしまった。
でも答えを教えることはできない。
五雨
あんなに怒っている五雨兄さんを、 僕たちは見たことがなかった。
ウルフ
また一人、いなくなってしまった。
一真兄さんは三鈴姉さんを、 激しく問い詰めていた。
二風姉さんと六実姉さんは、 離れたところでそれを見ている。
一真
三鈴
三鈴姉さんは泣きながら、 ベッドに潜り込んでしまった。
そして翌日の朝八時がきてしまった。
ウルフ
赤く腫れた目を擦りながら、 部屋に入っていく姉さん。
ウルフ
真っ先に反応したのは一真兄さんだった。
六実姉さんはその視線に肩をぶるっと震わせた。
一真
六実
どうやら一真兄さんは、 過去にしていたということを知っていたようだ。
これを三鈴姉さんが知っているかどうか。
三鈴
冷静な答えに迷いは見えない。
僕はもうモニターなんか見てなかった。
ウルフ
ウルフは淡々と事を進めていく。
優しい三鈴姉さんまでいなくなってしまった。
六実
六実姉さんが呟いた。
その顔は青白く、冷めきっていた。
翌日の朝八時。 いつものアナウンスが流れる。
ウルフ
目の下のくまがはっきり見える。
六実姉さんはふらふらと部屋に入っていった。
ウルフ
三鈴姉さんのことがあったから、 一真兄さんは驚いていなかった。
だけど何も思わないわけじゃない。
一真
二風
そうやって開き直った二風姉さんは、 ソファーに勢いよく座り込んだ。
悪びれる様子もなく、 モニターをじっと見つめている。
六実
二風姉さんは目を見開いた。
そして、急に立ち上がって、 二番の部屋のドアノブに手をかけた。
二風
モニターに映っている六実姉さんが、 ドアのほうを見つめている。
ウルフ
ウルフが不敵な笑みを浮かべているのが、 容易に想像できた。
スピーカーを睨みつけた二風姉さんは叫んだ。
二風
二風姉さんは諦めずドアを叩いている。
その光景を僕たちは黙って見ていた。
六実
六実姉さんがウルフに催促をかける。
ウルフ
モニターが切れて、 ドアが開いた。
慌てて中を覗いた二風姉さんは、 膝から崩れ落ちた。
残り三人になってしまった。
ウルフ
二風姉さんは覚悟を決めた様子で、 堂々と部屋に入っていった。
ウルフ
僕は呼吸が浅くなり、 恐る恐る一真兄さんのほうを向いた。
一真
理由を言わない一真兄さんは初めてだった。
七夏
理由なんてどうでもいい。
僕はいつもの笑顔で、 一真兄さんを見つめた。
そしてモニターのほうに目を向ける。
二風
一真兄さんの顔は青ざめていた。
ウルフ
モニターが切れた。
もう僕たちは何も話さない。
翌日の朝八時。
ウルフ
僕は何も言わず兄さんを送り出した。
ウルフ
また呼吸が浅くなる。
一真
目から涙が止まらない。
ウルフ
兄さんがモニターから消えた。
大好きな一真兄さんが、 僕を拒絶したままいなくなった。
ウルフ
ウルフの声が消えたと同時に、 僕はベッドに潜り込んだ。
いつの間にか眠っていた。
朝の八時、 アナウンスが流れる。
ウルフ
誰もいない部屋を見渡して、 感情を失くしたまま二番の部屋に入る。
ウルフ
七夏
ウルフ
たった五分、 僕は即答して二番の部屋を出た。
ウルフ
ウルフの質問に怒りを覚えた。
七夏
ウルフ
黒い服の男達が数人現れ、 僕は強引に館を追い出された。
僕は何の感情もないまま、 一人で家へと帰った。
夜遅く家に着くと、 郵便受けに差出人不明の封筒が入っていた。
「あなた達の借金は無くなりました。今まで借金にあてられた一千万円はお返しいたします。快適な人生をお過ごしください」
僕は手紙をくしゃくしゃにして床に叩きつけた。
そして、誰もいない家で感情のまま叫ぶ。
七夏
外に声が漏れるのも気にしないで散々に泣いた。
そして黙々と部屋の片付けに取り掛かり、 気がつけば朝日が部屋に差し込んでいた。
七夏
僕の日常はこれからも変わらない。