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夏美

小学校、楽しみー

夏美

早く明日にならないかなー?

お父さん

夏美は元気だな

お母さん

本当、元気すぎるくらい

お父さん

そのくらいでいいよ

お父さん

もうすぐ、お姉ちゃんになるんだから

お父さん

なあ、夏美

夏美

うん!

夏美

お姉ちゃんになるの、楽しみ!

夏美

あーあ、早く産まれないかな?

お母さん

ちょっと、夏美。急かさないの

お母さん

赤ちゃんがビックリするでしょう?

夏美

そうなの?

夏美

ごめんね、赤ちゃん

夏美

(赤ちゃんが産まれるのは秋か……)

夏美

(早くお姉ちゃんになりたいなー)

秋になり、予定通り 弟は生まれた

お母さん

秋ちゃん

お母さん

今日もよく眠ってるね?

夏美

(そんなの、いつもの事じゃない)

夏美

(だって秋人は、ずっと眠ってるもん)

夏美

(生まれてから、ずっと……)

お腹を空かせて泣くことも

母を見て 笑うこともない

秋人は生まれてから一度も目を覚まさない

夏美

(ずっと眠ったままなんて、変なの……)

夏美

(あーあ、早く起きないかな?)

小学生の私は そんな事を思っていた

夏美

お母さん、ご飯はー?

お母さん

ごめんね?

お母さん

お母さん今、秋人のオムツ替えてるから

お母さん

自分で食べて

夏美

えー、自分でー?

お母さん

冷蔵庫に食パンがあるから

お母さん

レンジでチンして食べて

お母さん

それくらいなら、できるでしょ?

お母さん

夏美は小学生なんだから

夏美

……はーい

その日から 朝食は自分で用意した

レンジで温めただけのパンは、ふにゃふにゃで

夏美

(おいしくない……)

母の朝食が、恋しかった

夏美

朝ごはんは、自分で用意したんだよー

友達

ほんとに!?

友達

夏美ちゃん、えらーい

夏美

ありがとー

夏美

弟のオムツ替えも、できるようになったよ

友達

すごーい!

友達

夏美ちゃんは、いいお姉ちゃんだね

夏美

ありがと!

「いい子」で居たかった

「いい姉」で居たかった

夏美

(あーあ)

夏美

(秋人、早く目を覚まさないかなー)

夏美

(私が、いい子にしてたら)

夏美

(きっと、目を覚ますよね?)

願いは叶うと信じていた

時の流れは早く

ゆっくりと

でも、確実に

私たちの関係を 変えていった

夏美

ただいま、お母さん

夏美

今夜もお仕事?

お母さん

うん。お父さんの分も、がんばらないとね

夏美

でも、お父さんから養育費はもらってるんでしょ?

夏美

昼は、在宅ワークだってしてるのに……

お母さん

仕方ないわよ。秋人のお世話もあるし

夏美

そうだけど……

夏美

お仕事かけ持ちして、大変じゃない?

お母さん

平気、平気

お母さん

それより、秋人の事なんだけど……

夏美

秋人の世話は、私がするから大丈夫

お母さん

それじゃあ、今夜も頼める?

夏美

もちろん

夏美

秋人のお世話は、姉の仕事だからね

お母さん

ありがとう。夏美がお姉ちゃんで良かったわ

お母さん

いってきます

夏美

いってらっしゃい

夏美

(お母さん、大変そう)

夏美

(今日も進路の相談、できなかったな……)

夏美

(まあ、仕方ない)

夏美

(高校は、家から近い学校にしよう)

夏美

(……本当は、別の高校に行きたいけど)

夏美

(ワガママなんて、言えないよね?)

部活に入るのを 我慢してきた

友達と遊ぶのを 我慢してきた

全ては、秋人のため

夏美

ねえ、秋人……

夏美

お母さん、お仕事に行ったよ?

秋人

……

夏美

今夜も、お姉ちゃんと2人っきりだね?

秋人

……

夏美

ねえ、秋人

夏美

なんで、起きないの?

夏美

お母さんは、秋人のために働いてるんだよ

夏美

秋人が目を覚ましてくれたら

夏美

絶対、喜ぶのに……

夏美

そしたら、お父さんだって!

夏美

(……ううん。もう、いっその事)

夏美

(秋人が永遠に、目覚めなければいい)

眠り続ける秋人に 手を伸ばし

小さな口を 塞いでしまおうと思った

その時

秋人

ねぇね、あーと……

夏美

秋人!?

夏美

今……喋った!?

夏美

ねえ、秋人!自分の名前、言えるの?

夏美

わかる?

夏美

私、私……

夏美

夏美

お姉ちゃん、だよ?

けれどそれから一度も

秋人が口を開くことは なかった

仕事を早退した母と

秋人を連れて 救急車に乗った

夏美

(秋人、無事でいて!)

お母さん

秋人、秋人!!目を覚まして……!

夏美

(変なの)

夏美

(秋人は……)

夏美

(いつもと、変わらないのに)

いつも通りの顔で 眠ったままの秋人

ただ一つ違うのは

夏美

(冷たい……)

その肌に、温もりが ないことだけ……

夏美

お母さん、秋人ね

夏美

最後に自分の名前、言えたんだよ?

夏美

「あーと」って

お母さん

それ……

お母さん

秋人が言ったの?

夏美

そうだよ

夏美

「ねえね、あーと」って

夏美

最後に名前言えて、えらいよね……秋人

お母さん

違うわよ、夏美……

夏美

でも、本当にっ

お母さん

それは、夏美に言ったのよ

お母さん

「お姉ちゃん、ありがとう」って

夏美

そんなはず、ない

夏美

だって私、私……

夏美

全然、いいお姉ちゃんなんかじゃなかった!

夏美

(秋人が居なければって、思ってしまった……)

お母さん

夏美、見てあげて。秋人の顔

夏美

秋人の、顔?

お母さん

とっても、安らかな顔をしてる

お母さん

それは、夏美が秋人のお世話をしてくれたからよ

お母さん

今まで、ありがとう。夏美

夏美

お母さん……

夏美

礼を言うのは、秋人にだよ

夏美

ありがとう、秋人

夏美

私を……

夏美

お姉ちゃんにしてくれて

夏の終わり

私の弟は、この世を 去っていった

秋の訪れと共に……

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