テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
129
ねこねこにゃんこ
838
45
#〔インターネット少年/少女〕
狸野 ゆゆせ
249
「今日のコラボ、ちょっとだけ雰囲気ちがうね」 配信開始から十分もしないうちに、コメント欄がそんな言葉でざわつき始めた。 朝比奈ひかりは、モニターの向こうの文字を見て、少しだけ首を傾げる。
朝比奈 ひかり
何気なくそう返すと、すぐ隣で月城レイが小さく笑った。
月城 レイ
朝比奈 ひかり
月城 レイ
朝比奈 ひかり
ふたりは今日も、いつもと変わらない顔でコラボ配信をしていた。 雑談をして、コメントを拾って、軽口を言って、少しだけゲームを挟む。 やっていることは昨日と同じで、昨日と同じように息も合っている。
――はずだった。
けれど、今日の空気はなぜか少しだけ違っていた。 どこが、と言われると説明しづらい。 ただ、ひかりが言いかけたことをレイが先に拾い、レイがふざけたところをひかりが自然に返し、会話の隙間がまったく生まれない。 そのなめらかさが、逆に妙だった。
「ふたり、ほんと仲いいよね」
朝比奈 ひかり
「同期にしては近くない?」
朝比奈 ひかり
ひかりは笑いながら否定した。 でも、その返しが少しだけ早すぎたせいで、コメント欄はさらにざわつく。
「否定が早いw」 「ちょっと焦ってる?」 「仲良し同期助かる」 「もう夫婦だろこれ」
月城 レイ
レイがさらりと言うと、ひかりは思わず吹き出した。
朝比奈 ひかり
月城 レイ
朝比奈 ひかり
「でも、完全否定はしないんだ」
朝比奈 ひかり
コメント欄にまた流れる、笑いの文字。 ひかりは頬が少し熱くなるのを感じながら、なんとか話題を戻した。
けれど、今日のレイはやけにひかりの言葉を拾う。 ひかりが少し詰まればすぐ助けるし、ひかりが何気なく言ったひと言を、妙にやさしい調子で繰り返す。
月城 レイ
朝比奈 ひかり
月城 レイ
朝比奈 ひかり
月城 レイ
そのやり取りに、コメント欄はもう完全に沸いていた。 「見すぎって言った!」 「そこは否定しないの?」 「もう付き合ってない?」 「同期ってなんだっけ」
ひかりは、一度だけモニターの端を見て、うっすら苦笑した。 それからレイのほうをちらっと見る。
朝比奈 ひかり
月城 レイ
朝比奈 ひかり
月城 レイ
朝比奈 ひかり
言いかけて、ひかりは止まった。 言葉にすると、余計におかしな意味が乗ってしまう気がしたからだ。 レイはそんなひかりの様子を見て、少しだけ目を細める。
月城 レイ
朝比奈 ひかり
月城 レイ
朝比奈 ひかり
ひかりはそこでまた詰まった。 ただの同期。 そう言えば終わる。 終わるはずなのに、今日はなぜかそれだけでは済まない気がした。
コメント欄が、さらに勢いを増す。 「なんか今の間、怪しかった」 「ふたりとも言葉少ないの逆におかしい」 「本当に同期?」 「もう隠せてなくない?」
レイがすぐに笑って流そうとする。
月城 レイ
朝比奈 ひかり
ひかりが反射で返すと、レイはほんの少しだけ口元をゆるめた。
月城 レイ
朝比奈 ひかり
月城 レイ
朝比奈 ひかり
ひかりは、ほんの少しだけ目をそらした。 おかしい。 今日は何も変なことをしていないはずなのに、どうしてこんなに落ち着かないんだろう。 たぶん、コメント欄のせいだ。 そうだ、コメント欄が変に騒ぐから。 それだけ。 それだけなのに。
レイは、そんなひかりを横目で見て、ふっと息をついた。 彼には、わかっていた。 コメント欄が騒ぐのは、ふたりの空気がそれだけ近いからだ。
ひかりが少し戸惑っているのも、たぶん同じことを感じているからだ。 けれど、ひかりはまだそれを言葉にしない。 言葉にした瞬間、何かが変わってしまう気がしているのだろう。 レイだって、似たようなものだった。
“同期”という言葉は便利だ。 何をしても、それで済む。 仲がいいのも、気が合うのも、息がぴったりなのも、全部その一言で片づけられる。 なのに今日は、どうしてだろう。 その言葉の外側まで見られている気がする。
配信が終盤に差しかかったころ、ひかりがふとゲーム内のミスをして、少しだけ「あっ」と声を漏らした。 その瞬間、レイが何でもないようにフォローを入れる。
月城 レイ
朝比奈 ひかり
たったそれだけのやり取りなのに、コメント欄はまた一斉に騒ぎ始めた。 「今の空気やば」 「やさしすぎる」 「もう普通に恋人みたい」 「この同期、完成度高すぎる」
朝比奈 ひかり
ひかりは反射で言った。 でも、その後に続く言葉が少しだけ弱い。
朝比奈 ひかり
レイは、その“だと思う”を聞き逃さなかった。 けれど、あえて何も言わない。 代わりに、少しだけ声をやわらげる。
月城 レイ
朝比奈 ひかり
月城 レイ
ひかりは一瞬だけ黙って、それから小さく頷いた。
朝比奈 ひかり
配信を閉じる前の挨拶は、いつも通りだった。 けれど、どちらも少しだけ早口だった気がする。 それを誰より先に気づいたのは、きっとふたり自身だった。
配信終了。 暗くなった画面を見つめながら、ひかりはヘッドセットを外した。
朝比奈 ひかり
ぽつりと呟くと、レイは少し間を置いてから答えた。
月城 レイ
朝比奈 ひかり
月城 レイ
朝比奈 ひかり
月城 レイ
ひかりは、言葉を探してから、少しだけ視線を落とした。
朝比奈 ひかり
その一言に、レイは黙った。 ひかりが自分からそんなことを言うのは珍しい。 だからこそ、胸の奥にすとんと落ちる。
月城 レイ
レイが、いつもより静かな声で聞く。 ひかりは、すぐには答えなかった。 嫌だったわけじゃない。 むしろ、その逆だ。 でも、それを正面から言うのは少しだけ怖い。
朝比奈 ひかり
ようやくそう返すと、レイが小さく息を吐いた。
月城 レイ
朝比奈 ひかり
月城 レイ
朝比奈 ひかり
月城 レイ
その返事は短かったのに、妙にあたたかかった。 ひかりは、少しだけ笑う。
朝比奈 ひかり
月城 レイ
朝比奈 ひかり
月城 レイ
朝比奈 ひかり
月城 レイ
レイの声には、ほんの少しだけ笑いが混じっていた。 ひかりはその笑いに、また少し胸をくすぐられる。
朝比奈 ひかり
月城 レイ
朝比奈 ひかり
月城 レイ
朝比奈 ひかり
曖昧な返事に、レイは少しだけ笑った。 そして、何でもないような調子で言う。
月城 レイ
ひかりは、その一言に、何も返せなかった。 ただ、胸の奥が少しだけ熱い。 コメント欄が騒いでいた理由を、ふたりとも本当はもう、うすうす分かっている。 それでもまだ、言葉にはしない。 言葉にしたら、きっと終わってしまう気がするから。
けれど――
終わらないまま、こんなふうに少しずつ近づいていくのも、悪くないのかもしれない。
コメント
1件
あ、読んだ読んだ! このふたりの空気感、すごくリアルだった……。コメント欄で盛り上がる視聴者とか、否定しながらも言葉を濁しちゃうひかり、そしてその隙を逃さないレイ。表面上は同期の軽いノリなんだけど、配信終わってからの会話で一気に距離が近くなった感じがして、そこがもうたまらなかった……。“今さら”って言うレイの声、絶対笑ってたよね。最後の、終わらないまま近づいていくのも悪くないっていう余韻、すごく刺さった。