天馬司
……ん……?
目を開ける。そこはとにかく白く、無機質な部屋だった。
神代類
あぁ…起きたんだね、司くん
天馬司
るっ、類!!!???まさかお前、ついに空間転移装置的なのを……
いつも通り、これはただの類の思いつきというか実験というか…そんな類いだろう、と思っていた。しかし
神代類
・・・
天馬司
(いつになく、真剣な表情をしている……ということは、類の仕業というわけではないのか?)
神代類
……司くん。君の後ろにはドアがある
天馬司
何ッ!?
振り返ると、そこには本当にドアが……そして、その上には。
天馬司
「お互いの好きなところを3つ言わないと出られない部屋」……だとおおおおおおおおお!!!???
神代類
そう……そうだよ、司くん。これは……この部屋は……
神代類
かの有名な、『◯◯しなければ出られない部屋』さ!なんの予兆もなく突然密室に閉じ込められ、お題をクリアすれば自由に外に出られる……原理がとても不思議で、興味深い……!
天馬司
(こいつ……!今までの真剣な表情はどこに行ったんだ!?)
天馬司
と、とにかく。一回、このお題をクリアしてみないか?
神代類
そうだね。そうしないと、この部屋からは出られないし。
天馬司
類の好きなところ……3つか……
天馬司
改めて考えると、少し難しいな
神代類
そんな……君はそんなに僕のことが嫌いなのかい……?よよよ……
天馬司
それは断じて違う!!!!!
神代類
えっ?
天馬司
俺は類の全部が好きだ!だから好きなところを1つ…いや3つに絞ることが出来ない!
神代類
つ、司くん……!
神代類
……そ、その……
天馬司
ん?どうしたんだ?類
神代類
その、『好き』は……“どっち”の好き……なのかな……?
天馬司
“どっち”……?
神代類
あぁ、いや、なんでもない。忘れてくれ
天馬司
?分かったぞ!
天馬司
それにしても、類の好きなところか……
神代類
……これって、言う順番は決まっていないんだよね?なら、僕から言ってもいいかな?
天馬司
あぁ、もちろんいいぞ!どんとこい!
神代類
1つ目は顔だね
天馬司
いきなり予想外のものが来たな!?
神代類
そうかい?
天馬司
いや、確かに俺は顔が良いが……
神代類
ふふっ。確かにそういう意味でも君の顔は好きだけど、今言った『好き』はそうじゃないんだ。
天馬司
……?どういう意味だ……?
神代類
司くんは喜怒哀楽の感情がとても豊か、そしてその感情が顔に出やすいだろう?その様子は見ていてとても面白くて、好きだよ
天馬司
ま、まぁ当然だな!
神代類
(半分くらい意味が分かっていない顔だね)
神代類
2つ目は……髪。
神代類
司くんのさらさらとしていてとても触り心地が良い。それに、いい匂いもするし一緒にいるとたまに「司くんの匂いだなぁ」ってなるのも好き……
天馬司
る、類……その……ちょ、ちょっとそれは恥ずかしい……というか
神代類
えっ?
司くんの顔を見ると、彼の顔はそれは見事なほどに真っ赤に実っていた。
神代類
……あっ
神代類
(し、しまった……。司くんに告げずに捨てようとした気持ちを捨てきれず半分近く告げてしまった……)
神代類
(……引かれてしまった、かな)
天馬司
……まぁでも、俺は未来のスターだからな!これくらいの褒め言葉には慣れておかないといけない!
神代類
(あー、司くんがアホの子……愛すべき馬鹿……間違えた、純粋な子で良かった……)
天馬司
と、いうわけで!類!最後の1つもどんとこい!!!!!!!!
神代類
……準備はいいかい?
天馬司
あぁ!!!!!!!!!!!
神代類
……手
天馬司
…………へ?
神代類
……司くんの、手が好き。
天馬司
……手、か?この?
俺は自分の右手を左手の人差し指で指し類に見せ、この『手』なのかどうかを目で聞く。類は少し顔を赤らめながら首を縦に振った。
天馬司
聞きたいこと、というか、言いたいことは色々あるんだが……なんで、手……なんだ?
神代類
……僕は、特に中学生の頃は周りから避けられていたんだ。昔馴染みや教師とくらいしか話さなかった。
神代類
だから、誰かと触れ合う。誰かに触れる、という機会が極端なほどに少なすぎた。ロボットには毎日のように触れていたけどね。
神代類
そのうちに、人のあたたかさというのを忘れてしまっていた。
……でも
神代類
君と過ごして、触れ合って。こんなにも人の体温はあたたかかったんだ、と思い出せたんだ。
神代類
……だから、好きなんだ。君の手が。いつまでも、繋いでいたいくらい。
天馬司
……そうか
天馬司
さて!次は俺の番だな!!
神代類
決まったかい?僕の好きなところ。
天馬司
あぁ!
天馬司
1つ目は肌だ!
神代類
肌…かい?
天馬司
類の肌は冷たくて、夏は触っていてとても気持ちが良くて好きだ!
天馬司
2つ目は……髪だな
神代類
僕と同じじゃないか
天馬司
あぁ、でも『同じ部位を言ってはいけない』なんてどこにも書いていないだろう?それに……
天馬司
……『おそろい』、だろう?
神代類
……!
天馬司
そして3つ目は、『目』だ!
神代類
……目……
天馬司
お前の輝く金色の目はとても綺麗だ。見ているだけで、惹き込まれそうになるほどにな。それに……お前の目は、黄色だろう?
神代類
あ、あぁ
天馬司
なんだか、まるで……常に俺が、類の目に写っているようで。何だか分からないが……嬉しいんだ。きっと
神代類
……一体君は、どこでそんな聞いているだけで恥ずかしくなることを覚えるんだい……
天馬司
そんなに恥ずかしいか?
神代類
そこそこね。さ、ドアが開いたか確認しようか。
そう言いながら類は立ち上がり、ドアの前に立つ。その直後に『ガチャ』とドアノブの開く音がした。
神代類
開いたよ、司くん。さ、帰ろうか
天馬司
そうだな。……このドア、どこに繋がっているんだ?
神代類
さぁね。司くんはどこだと思う?
天馬司
……セカイ?
神代類
確かに、その可能性も捨てきれないね。それを確かめるためにも早くこの部屋から出よう。
天馬司
あぁ。
天馬司
……なんだ?
神代類
おや、これは……
俺たちは再び、白い部屋にいた。奥にはさっきの部屋にあったものと同じようなドアがあり、その上には……
お互いの1つ目の好きなところを触らないと出られない部屋