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ーー
……
その少女は,暗く冷え切った石壁の牢の中, 椅子に座っていた
響く足音,こちらに近づいてくる
そして何重にも折り重なった錠を外す音がして 上等なスーツを纏った男と 大柄な男が入ってきた
金持ち
コイツなんだがな
大男
はい
金持ち
どうにかして,コイツを泣かせられないか?
大男
それは…?
金持ち
涙晶というものは聞いた事があるだろう?
大男
あの世界でも数人しか居ない者の血や涙が結晶化した…
金持ち
そうだ
金持ち
涙晶は血晶よりも価値が高い
金持ち
しかしもうコイツも慣れ,泣かなくなってしまった
大男
なるほど
金持ち
血は傷付ければ出るのだが…
金持ち
何故かコイツは自己回復ができる
金持ち
傷付けても傷が直ぐに塞がってしまうんだ
大男
なるほど
金持ち
殴るでも蹴るでもして,泣かせてやれ
金持ち
見事涙を流させれば,報酬は弾む
大男
ではやらせてもらいましょうかね
ーー
……
ドガッ‼︎
鈍い音が牢に響く
が,ーーは顔色一つ変えず, もう一度,椅子に座るのであった
金持ち
チッ,コイツは…
金持ち
お前も図体だけだな‼︎
大男
そ,そんな筈は…
金持ち
こんな調子なら金はやらん‼︎
さっさと涙を流させるだけだ‼︎
楽なものだろう‼︎
さっさと涙を流させるだけだ‼︎
楽なものだろう‼︎
大男
もう少し,もう少し時間を…
そんな,男の怒鳴り声を他所に, 少女は静かに"光を失った瞳で"虚空を見つめていた…
ー私達は特別なんかじゃない プロローグー END