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とんとん、とんとん。

薬液の入った、グツグツと煮立つ大釜の泡に混じっておずおずと戸が鳴った。

ムスカリ

…いらっしゃい

ムスカリ

鍵は空いているから勝手に入りな

 

ごめんくださ…

 

…ひっ!!

扉をわずかに開け、私と目が合った中を覗き込んだ二つの目を持つ生き物が縮み上がった。

ムスカリ

怖がらなくてもいいさ

ムスカリ

命知らずな盗人でもなし、取って食いはしないよ

ムスカリ

さ、入っておいで

扉の取っ手を掴み、中に招き入れてやろうと彼の背中を押す。

ムスカリ

この椅子を使うといい

 

人の子は椅子に座らず、両手を広げて歓迎する私と…

大鍋の混ぜ棒、取っ手、椅子を掴み、そして彼の背中に添えられた触手をまじまじと見比べた。

ムスカリ

大方身内の流行病を治して欲しいって相談だろうけどね

ムスカリ

でないとこんな街外れの魔女の家なんかに来ないだろうよ

そう猫撫で声をかけてやっても彼の震えは止まらない。

ムスカリ

そんなにこの触手が怖いかい

ムスカリ

背中から生えてる、私のオマケの腕みたいなものだから気にしなくてもいいさね

ムスカリ

…ほら、こんな事もできるのさ

パドルのような混ぜ棒から触手を離し、ティーセットに伸ばす。

他の触手もそこに集め、茶葉を入れたり湯を沸かしたりそれぞれ器用に動かして見せた。

ムスカリ

ムスカリ

坊や、砂糖はいくつ入れるかい?

ムスカリ

ミルクはいかが?

 

 

2つ。

 

ミルクはいらない

ムスカリ

はいよ、お任せあれ

タコ足の触手がシュガーポットをまさぐり、スナップを効かせて二つ角砂糖を飛ばす。

ぽちゃ、ぽちゃと白い塊が計算通りに私の手に持ったカップに飛び込んで

綺麗に拭いたカップをソーサーに敷いて振る舞う様子を少年はまじまじと見つめていた。

ムスカリ

…ふふ、慣れてきたみたいだね

ムスカリ

で?誰が病気なんだい

 

 

…姉さん。

ムスカリ

熱、咳の様子は?

 

ずっと高熱が続いてて、咳もひどくて苦しそう

 

ドクターも手一杯みたいで診てくれない

ムスカリ

鮮やかな色の血を吐いたりはしていないかい?

 

まだ、そこまでは重くない

ムスカリ

なるほど…

ムスカリ

なら中程度というところか

そう独り言を言いつつ坊やに背を向けて、薬品の入った棚を開ける。

ムスカリ

作り置きの薬で効果のあるヤツがあったからやるよ

ムスカリ

お代は今度でいい

ムスカリ

紅茶を飲んだら帰ってやりな

 

…あ

 

ありがとうございました!!

緊張を恐怖で冷え切った体を温めるように紅茶を飲み干し、彼は大急ぎで家路に着いた。

時は過ぎて…

 

 

お邪魔します!

 

魔女さん、今日も丘の薬草採ってきたよ!

ムスカリ

ああ、ありがとうねえ

訳あって私自身では採りにに行けない、内地に生える薬草を採ってくる様に約束した子供は

度々私の家に顔を出すうちに、すっかり懐いたようだ。

ムスカリ

今日は暑かっただろう、冷たい茶でも飲んでいきなさい

 

はーい、ありがとう魔女さん!

 

…ねえ魔女さん

 

魔女さんはなんでここで一人暮らししてるの?

 

薬作るの得意だし優しいし

 

街で暮らして薬を売れば、みんな歓迎してくれるのに

茶を飲みながら和んでいた坊やが、曇りの無い瞳でそう切り出した。

ムスカリ

ムスカリ

ふふ、そうさね

ムスカリ

みんなが坊やみたいに優しい人なら、それもいいかもしれないけどね

 

…魔女さん、いじめられてるの?

ムスカリ

ムスカリ

少し、昔話をしようかねえ

昔々、浅瀬で水遊びをしていた海の国の王女様と

外遊を終わらせ、帰路に着いていた陸の国の王子様が出逢いました。

王女様は王子様の、家臣への気配りを欠かさない優しさ、気さくさに

王子様は王女様の、聞くもの全てを幸せにする歌声と

腰から下の、緋色に輝く鱗と尾鰭も含めたその美貌に惹かれて、程なく結ばれました。

陸の国の国民たちは、まるで絵本の中の世界のような王子様、お姫様を

「広い心」で受け入れ、祝福しました。

程なくして、新王妃様は一人の女の子を産みました。

産まれてすぐのその子を見た王様は、気を失ってしまいました。

…王女様の背中には、4本のタコの足のような触手が生えていたのです。

国民には、王女様は不幸にも亡くなってしまったと伝えられ

王女様は幼い頃から外套で触手を隠すよう強制され、お城から出る事を禁じられました。

「広い心」を持つ国民たちも、王様のようにショックを受けてしまうに違いありませんもんね。

家臣たちも口を聞いてくれない、一人ぼっちの王女様。

彼女は、魚の中でも特に賢いと言われるタコの人魚。

鱗やヒレで着飾る、他の人魚に負けたく無いという一心で

部屋に篭り、魔術の勉強に明け暮れて、立派な魔法使いになりました。

そのうち王様は弟に王位を譲り

王妃様と共に、「国民に愛される素敵な王夫妻」の人生を全うしました。

父親と母親を失った王女様は、お城のお荷物になってしまい

「二度と領土の街に足を踏み入れない」という約束の元、自由の身となりました。

ムスカリ

…街に立ち入る事を禁じられ

ムスカリ

2本ずつの手足と肺があるため、海の国にも帰る事ができない王女様は

ムスカリ

寂れた海辺の空き家にしか居場所を作る事が許されませんでした。

ムスカリ

昔の名前を捨てて、「失望」「失意」の意味を持つ花の名前を自分に付けて

ムスカリ

そこで慎ましく暮らす内に…

ムスカリ

王女様は「魔女」と呼ばれるようになりました。とさ

ムスカリ

めでたし、めでたし。

 

 

魔女さん、可哀想。

ムスカリ

ま、過去は過去さ。

ムスカリ

こうやってたまに遊びに来てくれる人のおかげで退屈はしない

ムスカリ

さ、遅くなったからもうおかえり

ムスカリ

また今度土産話を聞かせにきておくれよ

 

…うん!

 

また近いうちに来るね!

ムスカリ

はいはい、気をつけて帰るんだよ

ムスカリ

…そう、私の力で感謝されて、私を慕ってくれる人が居ることで私は満たされる。

ムスカリ

そろそろ黄昏時だ、あの子を起こそうかねえ

机の引き出しから黒い石と羊皮紙、そして卓上のペンを取る。

羊皮紙に魔法陣を描き、呪文を唱えた。

陣が一瞬発光し、それが収まると羽の生えた小さい生き物が出現する。

ムスカリ

今日も仕事だよ

ムスカリ

魔石を食べて、その瘴気を病毒に変えて街に撒くんだ

妖精は、カリカリとあっという間に闇の魔石を平らげ

透明だった羽は石の魔力により、みるみるうちに黒く染まった。

ムスカリ

さあ、行っておいで我が子よ

ムスカリ

また新しい病人を生んでくるんだ

窓を開けると、妖精は黒い光の粉を散らしながら飛んでいった。

…ああそうだ、次の患者が来る前に、作り置きを増やしておこう。

 

ごめんください、ごめんください!!

 

娘を助けてください!!

完成した薬の瓶を戸棚にぎゅうぎゅうに詰めている内に、また新しいお客が来た。

ムスカリ

空いているよ

ムスカリ

さあ、入っておいで

扉をドンドンと叩く男を、いつもの猫撫で声で歓迎してやろう。

#TELLER文芸部

テーマ:病 追加お題:海洋生物

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