𝐷𝑁𝐴.

…噂通りの不良学校だ。

改めて、僕はそう身をもって実感した。

少なくとも、この学校は、勉強したいと志願してここに通うやつが一人もいない。

そう、実感した。

ｻﾞﾜ ｻﾞﾜ ｻﾞﾜ

なぁ、お前見た？昨日の…

つかさ、西の奴らが最近…

この前、あいつに万引きしろって…

煙草切れたから誰か…

まじだるい…

…この通り、授業が始まっても、誰一人として授業を聞いている奴がいない。

前の学校とは教育体制が比べ物にならないほど…この学校は荒れている。

教師も、こんなのは日常茶飯事だというように、授業を聞く人が居なくても、普通に授業を進めているだけだ。

僕は真面目に授業を受けたかったため、そっと手を挙げた。

生徒が自分の授業を聞いていて、手をあげているということに驚きを隠せないように、先生は教室の隅で手をひっそりと挙げている僕をまじまじと見つめた。

名簿を確認して、僕の名前を呼ぶ。

ｻﾞﾜ ｻﾞﾜ ｻﾞﾜ

やけに周りが騒がしいと思えば、周りはどうやら僕の事を言っているようだ。

まるで秋の草原に隠れた鈴虫のように。

僕の名前が小さく教室中で聞こえている。

ｼﾞｮﾝ ｸﾞｸ …って秀明から来た奴だろ… ?

何でこんな所に…

優越感に浸りに来たんじゃね ?

あーね、学力底辺高校の下見ってとこか ?

というように。

どうやら僕はあまりこの高校の生徒に歓迎されていないらしい。

僕は新しい高校の教科書の一ページ目を開き、折り目を付けた。

……。

教室の私語は収まらず、各自好き勝手に会話している。

誰も手をあげる様子が無いので一応手をあげておく。

先生はそんな生徒の様子にため息をつき、話を変えた。

…幸せに生活するうえで…欠かせない事が…確率… ?

ｻﾞﾜ ｻﾞﾜ ｻﾞﾜ…… ﾋﾟﾀｯ

先生の「運命の人」という言葉に、教室の空気が一瞬で止まった。

そんな教室の様子に、先生は満足げに頷き、話し始める。

手を挙げていないのにも関わらず、先生は僕の名前を呼ぶ。

先生がまた僕をあてようとこちらをチラッと見たので、僕は名前を呼ばれるより先に立ち、答えを言った。

0.000000000000017%…

確かに凄い確率の数字だが…どれほどの軌跡かと言われても…ピンとこない。

ｻﾞﾜ ｻﾞﾜ ｻﾞﾜ

僕の父さんと母さんは…それほどに限られた確率の中で…出会ったんだ…奇跡的に…自分に定められた…運命の人と…出会えたのか。

人生において、どれほどの複雑な選択肢を選んで生きてきたのだろうか。

不思議な高揚感がした。

生まれも育ちも、全く別で、全く違う人間が、すれ違っただけで…直観的に、本能的に、運命的に出会い、一生を添い遂げるのか。

とても…不思議な感じだ。

すると突然、前に座っていたﾐﾝｼﾞｪが急に振り向き、僕の机に身を乗り出した。

もちろん、両親の事だが、あえて両親の事だとは言わなかった。

どれほど悪名高くて有名なヤンキー校の学生でも、やはり学生は学生らしくロマンチックな出会いというものに誰もが憧れを抱くようで。

教室中は理想の「運命の人」についての会話が授業が終わるまで絶え間なく続いてた。

一生出会えるはずが無いと思い込んでいた僕だが。

意外と近くに、「運命の人」が居たという事をこの時はまだ、僕は知らなかった。

むしろ、「運命」というものを言う程に信じていなかったのである。

僕、ﾁｮﾝ ｼﾞｮﾝ ｸﾞｸ の物語は、ここから始まる。

運命はこの世で最も複雑で精密に絡み合う「𝐷𝑁𝐴」と等しいほどに、複雑に今日も僕らの間を絡めているのである。