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放課後のチャイムが鳴ると、教室は一気に空っぽになった。 机の音、椅子を引く音、笑い声。それらが遠ざかって、最後に残ったのは寧々ひとり。
八尋寧々
八尋寧々
気が重いまま理科室に入ると、すでに柚木先生がいた。 白衣の袖をまくり、実験台に星座早見盤を置いている。
柚木普
振り向いた先生は、いつも通り軽い笑顔だ。
柚木普
八尋寧々
柚木普
くすっと笑って、先生は黒板にチョークで円を描いた。
柚木普
黒板に描かれるのは、点と線。 夏の大三角、北斗七星、カシオペア座。
柚木普
おちゃらけた声で言いながら、指先で星をなぞる。
八尋寧々
柚木普
説明は分かりやすくて、少しだけ楽しそうで。 補習なのに、思ったより悪くない。
八尋寧々
八尋寧々
ぽつりと言うと、先生は満足そうに頷いた。
柚木普
その言い方が、妙に優しくて。 寧々は、胸の奥が少しざわついた。
説明が一段落すると、先生はチョークを置いた。 窓の外は、いつの間にか夕焼け色に染まっている。
柚木普
声の調子が変わった。 さっきまでの軽さが消えて、静かで低い。
柚木普
心臓が跳ねる。 そうだ。トイレで御守りを拾って、それから――。
八尋寧々
八尋寧々
柚木普
先生は白衣の胸ポケットから、白い布を取り出した。 赤い糸で結ばれた、小さな御守り。 見覚えがありすぎて、息が止まる。
八尋寧々
柚木普
柚木普
そう言って、先生は苦笑した。
柚木普
八尋寧々
八尋寧々
理科室の空気が、ぴんと張りつめる。
柚木普
自嘲気味に言いながらも、目は逸らさない。
柚木普
一歩、距離が縮まる。
柚木普
赤い糸が、きゅっと締まるのが見えた気がした。
柚木普
声は静かで、誤魔化しがなくて。
柚木普
八尋寧々
そっと、手を取られる。 強くはない。でも、離す気もない。
柚木普
問いかけは優しいのに、答えを許さない響き。
柚木普
冗談みたいに言って、微笑む。 その笑顔は、ただの理科教師のものじゃない。
理科室の空気が、ふっと変わった。 柚木先生――いや、柚木普は、寧々の前に立ったまま動かない。
柚木普
八尋寧々
寧々は視線を落とし、ぎゅっと指を握った。
八尋寧々
その言葉に、彼は小さく息を呑んだ。
柚木普
柚木普
その呼び方に、寧々ははっと顔を上げる。
八尋寧々
柚木普
柚木普
記憶の底が、ゆっくりと揺れる。 元気に笑った顔の男の子。 将来、宇宙飛行士になりたいという話をして、たくさん食べて、笑いあった夜。
八尋寧々
柚木普
彼は、嬉しそうに息を吐いた。
柚木普
柚木普
柚木普
八尋寧々
寧々は思わず首を振る。
八尋寧々
柚木普
遮るように、でも優しく。
柚木普
柚木普
柚木普
声が、少し震える。
柚木普
柚木普
柚木普
想縁の御守りの赤い糸が、熱を持つ。
柚木普
柚木普
彼は白衣の胸元に手を当てる。 そこから、想縁の御守りを取り出した。
柚木普
柚木普
八尋寧々
寧々の声は、責めるよりも、確かめる響きだった。
柚木普
迷いのない答え。
柚木普
柚木普
そっと、額に触れる指。 今度は逃げ道を塞がない。 ただ、確かめるみたいに。
柚木普
柚木普
距離が、自然に縮まる。 夕焼けの名残が、二人を包む。
柚木普
低く、甘い声。 そして―― 唇が、静かに重なった。 急がない、確かめるだけのキス。 大切に、大切に、想いを置くような。 離れたあと、彼は囁く。
柚木普
柚木普
柚木普
溺愛は、ここからだった。
主
主
主
主
主