日陰のサーカステント

星空がめいいっぱい輝く日の夜

広い平野には、ただ一つのサーカステントがあった

夜空に響く甲高い声

どうやら、サーカステントから聞こえてきてるようだ____

次の瞬間、舞台にスポットライトが当たり、幕が開く

舞台からの奥から、スポットライトに照らされながら、人影が歩いてきた

舞台に出てくると、その人影の正体は明らかになった

大きな白い帽子と、服の胸の部分にある大きなひし形のマーク……

ラベンダーと呼ばれた人物は、客席に向けて陽気に話しかけた

ラベンダーが客席に向けて話しかけると、わあっと歓声が上がった

______そうして、ショーは次々と披露され………最後のショーが終わった

ラベンダーはそう言うと舞台の裏へ消えていった

舞台には、観客が送った拍手だけが響いていた

舞台裏____

ラベンダーはそう呟くと、歯をかみ締めた

舞台の上の姿とは、まるで違い、ひねくれ事ばかり口にしている

これが彼の本来の姿だ

舞台の上の、明るくて陽気な道化師とは程遠い

ラベンダーは、一服しようとすっとポケットから煙草を取り出した

すると、その手をすっと掴むもう一つの手が現れた

サーカスの団長だった

ラベンダーは途端に顔を歪める

そう言うとサーカス団長は、ラベンダーから煙草を奪い、ｼﾞｭｯと煙草の火を消した

ラベンダーは腑に落ちない顔をしたが、煙草の箱をゴミ箱に捨てて自分の部屋に戻った

その姿を見送った団長も、舞台裏を去った

ラベンダーの部屋

ラベンダーは目覚ましを起きる時間にセットすると、布団に潜った

布団を頭から被って目をつぶっても、中々寝付けない

___これだから夜は嫌なんだ…___

もう何も考えたくない…

ラベンダーはより強く目をつぶった

道化師は、みんなを笑顔にするため笑い者になり

馬鹿にされる存在

そうだ、俺はみんなを笑わせるために、馬鹿にされるために

ショーをし続けなきゃいけない

………それを選んだのは俺だ

嫌でも、疲れてても、みんなの前で、笑顔でいなくちゃいけない

……でも、道化師の姿の俺は偽りでしかない

本当の俺は、人も明るい事も楽しい事も好きじゃない

元気で、明るくて、みんなの人気者のラベンダーは、俺であって俺じゃない

舞台の上では、俺は全てを偽る

___偽らないと……ダメなんだ

次の日の夜____

公演が終わって、ラベンダーはサーカステントの裏にいた

ラベンダーはポケットに手を突っ込んだが、そういえば煙草は昨日捨てたのを忘れていた

夜は風が吹いていて少し肌寒い

ラベンダーがテントに戻ろうとした時、後ろから声がかかった

先程のことを聞かれていたならもう遅いかもしれないが、少しでも偽っとかないと……

そう言いながら、その声の人物は影から出てきて、姿を現した

青いオーバーオール、赤い長靴、麦わら帽子……その人物は、畑仕事する時のような服を着ていて、

ラベンダーに向かって笑顔を向けた

何言ってんだこいつはと一瞬思ったが、考えるのもなんか面倒くさかった

考えるのが面倒くさくなって、なんだか偽るのも面倒くさくなった

今日は一番嫌なタイプに会ってしまった

最後にそう言ってやってから、ラベンダーは早々にその場を後にした

今日はホントに考えるのがめんどくさい

こんなことさっさと忘れて、もう寝よう……

続く…？