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陽の光が傾きはじめた頃
リンゴ王国の広場には 両国の民がひしめき合っていた
戦で荒れ果てた民の心は まだ怯えと痛みに覆われていたが
今、彼らの視線はただ一つの場所────
壇上に立つ、二人の王へと注がれていた
声は石畳に響き渡り 静まり返った民の胸に重く落ちた
言葉は厳しくも温かく、民の胸を打った
広場のあちこちで嗚咽が洩れ 涙をぬぐい合う者の姿があった
誰もがようやく 重くのしかかっていた恐怖から、一歩抜け出したのだ
……だが その安堵の陰には消えぬ影が残っている
バナナ王国の民は 理不尽に翻弄された痛みを忘れることはなく
リンゴ王国の民は、洗脳の下であったとはいえ
無抵抗の隣人に 刃を向けてしまった罪を抱き続ける
その両方を背負って尚 前に進まなければならない
それが、生き残った者たちに課せられた 「乗り越えるべきもの」だった
広場の熱気の中 両国王の誓いは確かに結ばれた
安堵に肩を落とす者もいれば 涙を流す者もいる
罪と傷を抱えながら それでも進もうとする者もいた
俺はその光景を、影の中で見届けていた
…誰一人、死なせることなく終われた それだけで十分だ
……だが─────
胸の奥に、小さな棘のような痛みが刺さる もっと早く、もっと深く気付けていたなら…
この傷の数……少しでも 減らせたのではないか─────と
けれど、その想いは 表に出すものではなかった
俺の顔は、ただ静かに影の奥に沈み 爽が横に視線を寄せても、何も悟らせはしない
ただ胸の奥で…誰にも知られぬ後悔が 熱を持って燻り続けていた
両国王の誓いを 王妃と共に幼いバナナ王子が見守っていた
小さな背に、未来への希望が宿るその姿
─────だが 俺の脳裏に閃いたのは
まったく異なる光景だった
瞼の裏に、鮮明すぎる映像が過る
暗黒の中で湿った石の床に伏す、二つの影 微かな呼吸音と、鳴り響く鐘の音────
その前に立ち尽くす青年は 涙に濡れた頬を歪ませ 震える声で謝罪を繰り返していた。
嗚咽は祈りのようであり 呪いのようでもあった
震える手で握る銃口を 彼はやがて自らのこめかみへと押し当て 指が引き金にかかる
歯を食いしばり、涙を溢れさせながら─────
─────パンッ
乾いた衝撃音と共に、映像は闇に飲み込まれた ……まるで、夢の残滓のように
─────だが その光景が俺の胸を抉った
俺は静かに目を閉じた ……誰にも気づかれぬように
安堵と後悔が、鋭い棘となって胸を穿つ
もっと早く もっと違う道を示せていれば……と
けれどそれを言葉にも 表情にも出すことはない
影に紛れ、ただ見届けるのみだった
俺は声に出さぬまま、強く誓う 二度と誰も、あの結末に至らせはしない、と
隣で爽もまた じっとその光景を見つめていた
その瞳に映るのは 誓いを立て合う二人の王と涙を流す民
……そして、未来を託された小さな背中
こうして両国の王は誓いを交わし 民はその証人となった
それは血と涙を超えて結ばれた 鋭く張り詰めた……誓いの結び目
未来を紡ぐための 決して解かれることのない誓いであった