鬱病

まだ、分からない。もしかしたらカナダが早く帰って来て俺の事探してたのかも。

ああ、やっぱり親父か。

そうだよな、カナダな訳ないよな。

現実逃避したい。

なかった事にしたい。

今からでも部屋に戻れるかな。

いや、いっその事外に出て逃げるか。

でも、走るのは中学以来だ。走れるか分からない。

しかも、涙で目元が滲んでいるから、前が見えなくて壁とかにぶつけるかも。

あ…すごい怒ってるかも…

追い出されるのか…？それとも…

あれ、大して怒ってない…？

俺は頷く。

なんで部屋にいるんですか？

俺は目を逸らす。

言った方がいいのは分かっている。だが、あんな事話したら本当に何をされるか分からない。

親父は、俺が怒鳴られる事を恐れていると思ったのか、親父は、はぁとため息をつき、俺の頭にぽん、と手を置きこう言った。

今まで聴いて来た中で、一番優しい声だった。

だが、今まであんな事されたのに信頼なんかできない。

ふと親父の方を見ると、親父はすごくぎこちなさそう。

それはそうだ。お互い仲の悪いまま、七年間も顔を合わせていないから。

だが、一刻も早くこの場から抜け出したかったから、不安ながらも深呼吸をしてこの部屋に来た理由を話した。

一体、何を言われるのだろう。

楽しかった？

俺の前では絶対に言わない親父が言葉を発した。

でも、今思えば少し楽しかったかもしれない。

甘い笑顔を浮かべながら親父は言った。

親父の優しい声も、甘い笑顔も、俺に見せたのは今日が初めてだ。

それにしても、親父の様子が違う。

今までこんなに優しくしてくれた事なんかないのに、今日はいつにもまして優しい。

まるで、誰かと入れ替わったくらいに。

少し不思議に思ってしまい、思わず口に出してしまった。

やばい。怒鳴られるかも…

えっ…？どう言う事？

お、親父が俺に謝っている…？

ああ、また混乱して来た…

瞳がぐるぐるの渦巻きの形になっていそう。

混乱しているのに気がついたのか、親父が言い訳をする様に説明する。

関係をやり直したいなんて今更…

親父はくすっと笑いこう言った。

顔に出てしまっているのか。

それは、分かりやすいな。

俺も思わず笑う。

仲良くなりやすい…そうかもな。

久しぶりにカナダ以外の人と喋ったが、意外にも楽しいもんなんだな。

家族って、こんなにもいてくれて嬉しい存在なんだな。

親父って、本当はこんなにも優しいんだな。

本当に今更だけど、仲良くなれて良かった。こうやって楽しく喋れる様な関係になれて良かった。

家族という関係に戻れて良かった。

…あれ、俺勝手に家族という関係に戻れたって思ってる…？

でも、親父だって俺と家族という関係に戻りたいって言っているし、いいよね？

俺は嬉しさが込み上げて来て、無意識に親父の事をハグしていた。