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貴方色ホットココア

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貴方色ホットココア

1 - 貴方色ホットココア

♥

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2019年11月23日

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純白の湯気が一つの缶から昇る

寒いね、なんて笑いながら

君と二人きりで

ホットココアが飲みたかったなぁ

鉛色の空から 大粒の雨が降り注ぐ

綺麗とは言えない空だが その後の虹が待ち遠しくなるから

嫌いではない

あ…傘……

雨に気を取られて忘れていた

傘を持ってこなかったこと

最寄り駅までは近いが この季節

すっかり寒くなって 最早みぞれになりつつある雨

それに打たれて走るのは 気が引けた

後輩くん

……あの

あ、ごめんなさい

狭い入口から 遠慮がちに現れた彼

私よりも二つ下の後輩くんだった

後輩くん

先輩、傘忘れたんですか?

えっ?…あ……

苦笑いで誤魔化したつもり

それでも

後輩くん

良かったら入りませんか?

え?

後輩くん

あ…失礼でしたら申し訳ないです

驚きのあまり無愛想な返事 だったかもしれない

怯えるように返事をする後輩くん

全然。

助かるから、入れてくれる?

後輩くん

…はい

やっと彼が柔らかく笑った

後輩くん

…駅までで大丈夫ですか?

…うん

いつも顔を合わせて 仕事をしているものの

二人きりになると会話がない

仕事終わりに仕事の話をするのも 気が引けた

後輩くんは、家何処なの?

後輩くん

僕ですか?

後輩くん

すぐそこですよ

大粒の雨で視界が霞む

けれど、駅までの道に あることは分かった

もしかして…送ってくれてる?

後輩くん

えっ、

後輩くん

えっ、とあの…

送ってくれてるじゃん

動揺した彼の言動に笑ってしまう

後輩くん

良かったら、寄っていきます?

え?

後輩くん

雨が止むまで

後輩くん

ココアでも飲んでいきませんか

彼の暖かな笑顔を網膜が写す

なんだかそれを見たら 張り詰めていた気が緩んで

……じゃあ

頂きます

すんなりと承諾してしまった

窓ガラスを打ち付ける

シロップのような雨粒

鼻をくすぐる

香ばしいコーヒーの香り

……ん?コーヒー……?

コーヒー淹れてるの?

後輩くん

あ、僕が飲むんです

後輩くん

先輩はココアですもんね?

…うん

後輩くん

入ったばかりの時、コーヒー淹れて怒られましたもん

真っ暗な空を照らすような 笑みが彼の顔に広がる

目尻に溜まったシワで よく笑うことが確認できた

そうだっけ…

後輩くん

忘れちゃいました?

後輩くん

コーヒー飲めないんですか?!って言ったら

後輩くん

もっと怒られちゃって

止まない笑いを堪えるように

クククっと笑う彼

笑顔が印象的だな、って

初めて思った

恥ずかしいこと思い出さないでよー

後輩くん

すみません、面白くて…

軽く茶化した会話はやっと弾んだ

まるで水溜りの水滴が 跳ねるみたいに

後輩くん

ココアできましたよ

ありがと。

コトン、と音を立てて 置かれるカップ

真っ白な湯気が立ち昇っていた

ねぇ、これコーヒーじゃない?

湯気が昇るカップから 香ばしいコーヒー豆の香り

後輩くん

え………、

後輩くん

後輩くん

あっ……

苦笑いで見つめ合った二人

その瞬間、腹を抱えて 大爆笑してしまった

コーヒーとココアを交換しても尚

どちらかが思い出して また笑いがこみ上げる

ココアを牛乳に溶かして

それが滲むように 笑いが広がっていく

 

ただいまー…

ガチャ、と玄関の開く音がした

振り向くとセミロングの髪を 綺麗に下ろした女性

後輩くん

あ、おかえり

後輩くん

莉花、こちら俺の先輩

後輩くん

柳原さん

ひどく優しく

私の名前が部屋に響いた

こんばんは、柳原楓です

 

こんばんは、圭介の彼女の莉花です

 

いつも圭介がお世話になってます!

後輩くん

ちょっ、親じゃないんだから…

私よりも優しく微笑む後輩くん

彼女にしか出来ない笑みだ、と

五感の全てで感じ取った

じゃあ私はここで

後輩くん

えっ?

ココアで暖まった筈なのに

私の心は著しく温度を下げる

ぬるくなった 最後の一口のココアを飲むと

体温すらも下がった気がして

ソファにかけてあった コートを引っ掴んだ

お邪魔しました、二人とも

それでは

逃げるように帰路を走った

降っていたみぞれは雪に変わり

薄く積もっては足跡をつけた

っ…はぁ、はぁ…っ……

にしても、普段運動していないので 体力が持たない

駅の手前のベンチに座り込んだ

寒っ…

呟いてみるものの

暖かい雫が頬を伝う

バカだなぁ 後輩相手に恋だなんて

角砂糖のような 雪を眺めながら思う

後輩くん

先輩……っ!

…後輩くん?!

ほら、呼び方だって 「後輩くん」のままじゃん

あの彼女に勝ち目はなくて

後輩くん

急に走って行ったんで驚きましたよ…

……ごめんね、急に

後輩くん

傘、持ってきましたよ

なんでそんなに 優しいんだよ…

あぁもう。ズルいなぁ

ありがと。

水玉模様の赤色の傘

それを受け取ると 私は立ち上がった

また、ココア飲みに行っていい?

おどけて言ったら

後輩くん

もちろんですよ!

意外と明るい顔で承諾を得た

ほんと?

後輩くん

ええ、今度は莉花…彼女とも飲みましょう!

莉花ちゃんね…また話してみたいな

後輩くん

えぇ、莉花もきっと喜びますよ

そう言って駅までの 数メートルを歩きだした

かじかんだ手に買いたてのココア

さっき後輩くんが 自販機で買ってくれたのだ

彼はもう家路につき始めている

私とは反対方向の道を 歩いている

二人でココアでも、飲むのかな

二人きりでココア

君と、したかったな。なんて

叶わない夢が脳を掠める

もうこの気持ちは忘れよう

白濁した牛乳に溶かして ココアにでもしてしまおう

今回はちょっと、苦かったかな

……君のせいだよ

これはきっと 君が間違ったせいだ

来年は

コーヒーとココアを 間違えぬように

君の彼女とココアを飲もう

二人きり、だなんてそんな野望は 暖かなミルクに溶かして

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