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#第5回テノコン
#和風ファンタジー
ツーシャ
暗闇に呆然と立ち尽くす真に、ツーシャは言う
ツーシャ
ツーシャ
彼は心配そうな声色で言う
しかしその根底には、ショーを楽しむ客のような高揚感が滲んでいる
やがて、消え入りそうな声で真がこたえる
真
ツーシャ
真
真
彼女は顔を上げる
薄暗い狭間の中では、その赤い瞳は一層際立っている
ツーシャは口角だけを上げた
ツーシャ
ツーシャ
再び沈黙
やがて真は、ツーシャにしか聞こえないほどの声でつぶやいた
真
真
声に抑揚はない。しかし確かに、感情はあった
そして彼女の瞳に、光はなかった
見慣れた廊下
見慣れた少年
確かにアタシは、あの2時間前に戻っていた
矢城
矢城
同情も、励ましも、今のこいつには通じない
それなら、言葉で救おうとはしない
けど、どうやって?
真
彼は少し首を傾げた
最期が脳裏に浮かんだ。それだけでも呼吸の仕方を忘れそうだ
ここで間違えたらまた、あの"終わり"を見ることになる
真
アタシは無理やり笑顔を作った
真
矢城
矢城
「コンビニ行かない?」
この状況で、この誘い
内心、僕は混乱していた
一刻も早くこの場から立ち去りたかった。もう人の声も聞きたくなかった
けれどなぜか、承諾してしまった
なぜか、受け入れてしまった
店内の照明は白く眩しかった
明かりの下には、カラフルに彩られたパッケージに包まれた、無数のアイス
僕はただぼんやりと眺めていた
真
いつもより少しそっけない彼女はそう言っているものの、なんだかそそられない
僕は、彼女が選んだアイスキャンディーと同じものを手に取った
考えるより、人に合わせるほうが楽
普段なら選ばないソーダ味
そういえば昔、美羽と食べたっけ
ベンチに座ると、不思議と体の力が抜けていった
生ぬるい夏の風。日が沈み、薄暗くなった公園を照らす街灯には小虫が飛び回っている
彼女に促され、袋を開けてアイスを手に持つ
隣ではすでにしゃりしゃりと軽快な音が聞こえている
真
矢城
そう言って僕もアイスを口に含む
口内が一気に冷たくなる。久しぶりの感覚だった
矢城
思わず口から漏れた声にはっとして、横を見る
彼女は前を向いていた。しかし口角は少し上がっていた
矢城
真
即答だった
それ以上は、なにも言わない
–ああ、そうか
"なにも言われない"って、こんなにも楽なんだ
ゆっくりと氷を舌の上で溶かしていると、急に彼女は言った
真
真
矢城
矢城
どうして
誰にも言ってなかったのに、この人は"それ"を知っているんだ
言葉が出なくなっている僕の代わりに彼女は話し続ける
真
真
彼女の表情は、横髪に隠れてよく見えない
けれど、時折髪の隙間から覗く赤い瞳は、揺らぐことなく僕をみていた
矢城
真
そう言って彼女は意地悪そうに笑った
真
真
真
言われて初めて気がついた。医務室では謝罪しかしていなかった
冷静に考えると、最低だ
真
真
真
矢城
真
静かに言葉を紡いだと思えば、笑いだす
雨が言ってた–これは彼女の考えではないってこと
彼女には"過去がない"から、そう言えるんだろう
真
真
顔を上げる
何よりもまっすぐな言葉だった
そんなこと、誰でも簡単に言えるのに。今まで誰にも言われなかった
矢城
これ以上は、抑え込めなかった
矢城
矢城
息が震える。自分がなんでこんなことを言ったのかすらわからない
ただ、滲む視界と、溢れた言葉が答えだった
矢城
矢城
アイスは溶け始め、世界との境が曖昧になっている
矢城
真
真
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