テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
243
み お .
397
気がついたとき、私は地面に座り込んでいた
身体がうまく動かせない
どうして此処にいるのか、まるで覚えていない
でも、私の心に絶え間なく注がれ続けた恐怖だけは、こびりついて離れようとしない
「此処、どこ……?」
誰に問うでもなく呟く
あ……そういえば
私、遊んでたはず……
あの子と、遊んでたはず……
…………あの子?
だ、れ………?
え、待ってまって…
遊んでたのに、此処はどこ…?
「く、るま……」
車に連れ込まれた……そうだ!そうだった…!
ってことは、攫われた…………?
「■■は……?此処は…………?」
自分の声なのに、あの子の名前は聞き取れない
私は周りをよく観察しようとする
薄暗く、目の前の点滅する照明しか灯りがない
暗闇に目が慣れ、辺りの景色が徐々に浮かび上がる
此処はどうやら、建物内の地上から数階上がった所のようだ
しかし、壁や天井が殆ど無くなり、骨組みだけの廃墟と化している
「来い」
「…ッ!!」
痛い…………!!!
低い声の男に、腕を思い切り引っ張られる
あの子は……?どこにいるの……!!?
「痛い、痛い、痛い!!!! 痛いってば!!」
「……あ」
安堵で情けない声が漏れる
いた、いたよ!一人じゃ、なかった…!
あの子は、一人の男に腕を掴まれて、半ば引きずられながらやって来た
目が赤い
泣いている
「ほら、来い! 何を見ている!?」
「うっ…!痛い!やめ、て!」
腕に強い刺激が走る
あまりの痛さに叫ぶも、男は迷惑そうにするだけだ
「ったく、此奴は!うるせぇ!」
「うぁッ………ぃやっ!!」
腕を力強く掴まれたまま、腹を蹴られる
痛い…………怖い…………嫌だ…………やめて…………
私達は、塗料が所々残り、まだら模様になった柱を背に座らされた
あの子はずっと泣いている
私は、また周りを観察しようとする
「彼奴ら、このままでいいのかよ?」
「また、気絶させるか?」
「いや、このままでいいはずだ」
男たちの話し声
声からするに、男は三人
一人は私を蹴った、帽子を目深にかぶる男
もう一人は、無造作に伸びた髭が印象的な あの子を連れて来た男
あとの一人はリーダー的な存在だろうか
………自分でも不思議なほど、冷静に観察できた
腕は固定する縄は、太く堅かった
逃げたい
でも、無理だ……
「うっ………」
あの子が痛そうに身じろぎをする
男の一人__髭の男が、銃をこちらに向け、
帽子の男は刃物を所持している
季節はもう夏だというのに、男達は皆、揃って 黒の長袖の服を着ていた
暗がりにいて、顔はよく見えない
しばし男達をじろじろと見、観察していたため 一人と目が合った
冷酷な暗い瞳に睨まれ、私は逃げるように視線を逸らした
顔を下に向け、床の濃い灰色を見つめた
しばらくして、男達はこちらを見るのを止め 計画の再確認か何かを始めた
あの子はすっかり泣き止み、冷ややかな目で男達を見ている
「ねぇ、逃げよう」
「え?」
いきなりあの子が口を開いた
小声で、息を潜めるように言う
かと思えば、とんでもないことを言い出す
壁が殆ど無いから、逃げられると踏んだのだろうか
いや、むしろ死角が少ない分、リスクが……
「……できるの?」
だけどでも、縛られているのは腕だけで、足の自由は利く
……走れは、する
「行くよ!」
「あ、う、うん」
そこに迷いなどないのだろう
あの子はぐんぐん進んでいく
それも、音を立てずに、死角を回って
「あ、おい!お前ら!」
見つかった……!!
リーダー格の男が振り返り、私達が逃げ出したことに気がついた
銃を向け、必死に言うことを聞かせようとするが あの子は止まらない
私は怖くて恐くてたまらないのに
「おい!止まれ!このっ…!!」
男は捕らえようと必死に腕を振り回している
あの子と私はその腕を上手く掻い潜り、出口へ 直行する
__その時、一人の男が刃物を振りかざしてきた
刃は、切っ先が鈍色に光っていて、闇を切り裂くように、真っ直ぐ私に降ってくる
「………ッ!!」
目を閉じた
ギュッと、強くつよく瞑る
しばらく待つも、痛みは一向にやってこない
嫌な予感がし、瞬間、全身が刃物が刺さるよりよりも強く、恐い痛みに襲われた
震えながら、恐る恐る目を開ける
そこには、あの子がいた
私達を冷たく包むコンクリートと鉄を、赤色が 染めていく
…………何が、起きた、の……?
その赤色の中心にはあの子がいて、あの子の右側の腰から背中にかけてが痛々しい
あの子が、刺されたんだ…………
私が刺されるはずだった
私が、こうなるはずだったんだ
じゃぁ、なんであの子が………?
どうしてあの子は、倒れているの…………?
理解が追いつかない
だけど頭の何処かは冷静で
あの子が死んでしまうと、秘かに悟っていた
「■■……?ねぇ、なんで、倒れて、る、の……?」
わかっているだろう
「ねぇ、この赤色、なに………?」
知っているだろ
「ねぇ、なんで…………?」
訊いてどうする
「ねぇ………!!」
返事、してよ…………
「………っ…」
何か言った…………?
「……っ!」
か細く、弱い声なのに、強く聞こえる
何て、言った…………?
__逃げて
そう、聞こえた
私は、弾かれるように立ち上がった
恐いことも、悲しいことも、その瞬間は忘れた
全力で走った
今までのどんな時より、全力で走った
足が痛い、ガクガク震える
何度も何度も倒れそうになった
でも、後ろを振り返ることはなかった
振り返ったら、もう走れなくなるから
銃声がする
途中で、あの子を刺した刃も飛んできた
私はそんなことお構いなしに走る
とにかく走る
逃げる
あぁ………ごめんなさい
ごめんなさい、ごめんなさい……!!!
私、は……………
いつも、どんな時だって
"私のせい"で…いつもいつも……………!!!!
私は……ひ、のは、ら、えと、は………
《呪われている》
コメント
1件
うわ…これは重い展開が来ましたね。誘拐されてからの緊張感がすごくて、読んでるこっちまで息が詰まりました。特に、あの子が刺される場面、本当に衝撃的でした。「逃げて」の一言にすべてが詰まっていて。最後の「呪われている」という一文も、これまでの伏線を思い返すと深く刺さります。Ria_chaさん、この絶望感と喪失感の描き方、とても巧みですね。次が気になります。