星夜一縷

其れ程遠くない距離を歩いて、社員寮へ到着した。

福沢さん達が居なくなった部屋に二人

私は未だ与謝野さんと話したことが一回しかない。

気まずい空気が私の中で流れはじめた。

温かいお風呂だなんて、生まれて初めてだった。

私は冷たい冷たい水しか知らない。

冷たくて、痛い水しか。

私の酷く絡まった髪も

垢塗れの汚い体も

与謝野さんは全て綺麗にして呉れた。

そうか、未だ与謝野さんには云っていなかった。

其れから、与謝野さんに事の成り行きを端から端まで伝えた。

お湯か涙か判らない水が顔から大量に垂れてきて、

其れでも私の辛い気持ちを誰かに話したかった。

辛かったね、頑張ったねと頭を撫でてほしかった。

父親にして貰えなかった分、兄にして貰えなかった分、沢山。

与謝野さんはそう云って私の頭を撫でて呉れた。

ずっと欲しかった言葉。

優しい、温かい手で触れて呉れた。

そう云う与謝野さんは、何処か淋しげな表情を浮かべていた。

其の後は、毛先が散乱していた髪を均一に整えて、

爪を切って、怪我の手当てをして、

更にボディクリーム迄塗って呉れた。

社に戻ったとき、福沢さんと乱歩さんか何か話をしていた。