コツン…コツン
病院の廊下は静かでやけに響く 君の足音。
私
いらっしゃい
スライドドアが開くと共に 私は空に向かって笑顔で言葉を放つ
君
窓のガラスに薄く、 君の笑顔が映る
私
君
少し声のボリュームを上げ、 少し目を大きくする君。
私
私
抜き足、差し足、忍び足…だよ?
君
ニコリと優しく笑い 目尻にくしゃりと皺を作る
そんな笑顔を見ると 私は優しく笑って目を細める
ふと彼の荷物を見ると 花束のようなものが小さく見えた
私
私
私は細くなった指を少し震わせながら 花束を指さす。
君
頭を掻きながら 「参ったな」と小さく呟いている
君
私
私を舐めないでよ?
私は悪戯に笑い 腕を組んで、体を大きく見せる
君
君
君から手渡されたのは 11本の真っ赤な綺麗な薔薇の花束
リボンは綺麗な紅でより引き立てている
私
君
君は優しく私の頭を撫でる
その手の温もりがとっても温かくてくすぐったい。
君
時計に目をやると 時刻は9時を過ぎている
時計の秒針の音が病室内に響き渡り どこか虚しく、儚い。
君
君は少し眉を顰め、 苦笑いを見せる
私
君
君
持って来ていた荷物を素早くまとめ、 君は椅子から立つ
顔をこちらに向け、 手を小さく振り優しく笑いかける
私
私は手に持った薔薇の花束を ぎゅっと強く握り締め、 彼を見送った。
朝、小鳥のさえずりが 窓の外で響く
外は綺麗な青空で、 私の気持ちも高ぶる。
私
私
私は空に向かい満面の笑みを見せ、 小さく呟く
その途端
私
私
意識が朦朧として 視界が揺らぐ
綺麗な青空も雨が降ったようだ。
私
掠れた声で助けを呼ぶ
それでも、足音は聞こえなくて その場に踞る
苦しい胸を抑えて 必死に息を整える
私
私
力尽きたのか 体に力が入らない
窓の奥で、鳥のさえずりが 遠く聞こえた
廊下には君の足音が聞こえた そんな気がした。
遠くの方で誰かの声が聞こえる
私
君
君の顔が映る。 泣いているのか目には雫が溜まっている
私
私
震えた手で、君の頬に優しく触れる
優しくて温かくて 自然と涙が溢れる
君
君は笑顔ではにかみながらそう言う
私
私はふっと微笑み、 伸ばしていた手を静かに下ろす
君の軽快な足音と泣き声が 廊下に響いた。