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あれから、二ヶ月。
木製の屋根が寄り添う、小さな村。
着ぐるみのような深緑のパーカーに、赤い髪
――そんな目立つ風貌の青年も、今ではすっかり見慣れた存在になっていた。
名前は、まだ思い出せていない。
それでも村人たちは、彼を“よそ者”とは呼ばず、それぞれ親しげなあだ名で呼ぶようになっていた。
???
子供
???
大きなかごを肩にかけ、泥に跳ねられながら駆けていく青年に、子どもたちがキャアキャアと声を上げてついていく。
深緑のパーカーは、今では“恐竜のお兄ちゃん”として親しまれ、彼のトレードマークになっていた。
武器鍛冶屋
声をかけてきたのは、村の武器鍛冶師のおじさんだった。
煤けた顔に黒い前掛け、手にはまだ成形途中の鉄の塊を握っている。
この村では、誰もが自分たちで素材を集め、火を起こし、叩き、削り、磨いて武器や道具を作っていた。
しかし、それには膨大な手間と時間がかかるため、村人たちは効率的な方法を求めていた。
そのため、彼の“クラフト”は非常に重宝されていた。
木材と鉄のインゴットを受け取った青年は、周囲を気にしながら、ゆっくりと手を前に出す。
その手がわずかに動くと、周囲の空気が微かに揺れ、空間がひときわ歪んだ。
まるで世界そのものが新たに作り変えられるように、鉄と木材が静かに動き、形を変えていく。
その動きは、まるで物質が意志を持つかのように、優雅で、しかし力強い。
一瞬の静寂の後、ふっと大きな歪みが広がると、〈鉄の剣〉が姿を現した。
刃の輝きが微かに瞬き、光の筋がそこに浮かぶ。
まるで時間を越えた何かが作り上げたかのような、神秘的な存在感が漂っていた。
武器鍛冶屋
武器鍛冶屋
鍛冶屋は剣を手に取り、少しだけ笑ってから続けた。
その口調は、感謝と軽い指摘を交えた、和やかなものだった。
青年は軽く肩をすくめて、頷く。
この“クラフト”という力は、ただの作業ではない。
ほんの一瞬で、素材と道具を“編む”ような能力だが、その過程で何か大事なものが抜け落ちていることを、青年は感じ取っていた。
作られるのは、完璧な形をした完成品だが、それはあくまで“理想的な形状”。
手作りの温もりや、時間をかけて積み重ねた経験が欠けている。
青年はその感覚に引っかかりを覚えつつ、今日も頼まれた仕事をこなしていた。
パン屋の小さな娘が、麦の束を両手に抱えてやってくる。
パン屋の娘
青年は微笑み、軽く頷く。
パンもまた、クラフトできる。
だが、村のかまどから漂うような本当の焼きたての匂いとはまったく違うのだ。
夜になると、彼はときどき空を見上げる。
自分がどこから来たのか、なぜこの世界にいるのか――
思い出せないことは、まだたくさんあった
それでも、と思う。
それでも、いい。
そう思えるほどに、村の暮らしは、あたたかかった。