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夏休みが始まって一週間が経った頃、ぼくたち家族は、 ●●にある従兄弟の家に泊まりに来ていた。
旅館のように古い従兄弟の家は、ただっ広くて青々とした緑の中にポツンと建っている。 ぼくはどこを見ても建物しかない都会で育ってきたから、見るもの全てが新鮮に思えてならなかった。
もちろん従兄弟はこの土地に慣れている。 ぼくよりも年下の従兄弟はそれが嬉しくて仕方ないのか、ぼくの手を引いて生い茂る原っぱの中に飛び込んだ。
勝手に入って怒られないだろうかという不安と、従兄弟の言う「面白いもの」に対する好奇心。 当時幼かったせいもあってか、ぼくは好奇心に負けて伯父の部屋へ向かった。
伯父の部屋には、様々な種類の昆虫が入った飼育ケースが置かれていた。 どうしてこんなにあるんだろうと思いながら、ぼくは一つ一つによく魅入る。
まるで、花のように可憐な。
だけど、その凶暴なイメージが。
ぼくを見ている。
ぼくは昆虫の中でも一番、ハナカマキリが好きになった。
従兄弟の家に滞在する最後の日。
あんな珍しそうな虫、もう見ることはできないかもしれないし。
..._....“...ッ....っ...._........ッ 拭いきれない、嫌な感じのするノイズ音。 見ているんだ、ぼくのこと。
ハナカマキリ。 ぼくをじいっと見据えて、そして微動だにしない。 淡い桃色の、線が華奢な身体。 その先に伸びる前足から、細かく鋭そうな刃が覗いているのを見て、身の毛がよだつのを感じる。
全身が、熱かった。 ハナカマキリに触れてみたくて、堪らない。
それまでじっと動かなかったのか嘘のように、ハナカマキリが逃げた。 さあっと血の気が引くのが分かる。
ぐちゃ。
つぶす、というよりもっと重たい感触を靴下越しに感じる。
白い何かが“居た”。 細い足が有り得ない方向に折れている。 蚊を潰したときなんかは、手に赤い血が着くことがあるけれど、そんなものはなかった。 白一色で、潰された形跡だけ。
痕が残らないように、ハナカマキリの残骸を手に寄せて、部屋の窓から落とす。 手に残るハナカマキリが落ちていない気がして、意味もないのに夢中で両手を擦りつけた。
バレませんように。 バレませんように。
殺したものが、 バレませんようにッ!!
カーテンを閉じる。 冷えたぼくの体温が、背後からじっとりとした暑さを取り戻していく。
うづき
うづき