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短編集 * 恋の知らせ

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短編集 * 恋の知らせ

2 - *死柄木弔とコンビニ店員

♥

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2026年01月17日

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君の好きなところ 変な癖があるところ。

私は今、 名前も知らない人に恋をしている。

いらっしゃいませ〜

フードを深く被った男が レジカウンターに商品を置く。 ジュースとスナックと菓子パン。 私はそれを手に取り バーコードを読み込む。

袋ご利用ですか?

いえ

780円です

QRで

かしこまりました

最近よく来るお兄さん。 真夏なのにフードを深く被っていて 顔は見えないけれど 甘くて冷たい声が綺麗な人。 毎度、氷砂糖みたいな声だなあと 聞き惚れていると スマホを指先で摘んで QRコードを向けてくれる。

決済させていただきます

PiyPiy─

ありがとうございました

あざす

そしてこの人は 絶対に商品を握らない。 いつも指で摘んでから腕に抱えて 気怠そうに店を出る。

潔癖症? それともただの癖? そんなことを考えるうちに 彼が気になって仕方なくなった。

はあ

今日こそ勇気を出して連絡先聞こうと思ったのにまた聞けなかったなあ

でも今日も会えた

それだけで嬉しくて好きが増す。

どうか明日も会えますように。

バイト終わり。

非常事態です。 スマホの充電は切れるし お店の時計はぶっ壊れているし 終電は目の前で遠ざかっていくし…

(終わった…)

(体力的にこんな時間から3駅も歩ける気がしない)

人気の無い駅のホームは寂しさが増す。

おねーさん?

甘くて冷たい氷砂糖みたいな声。 すぐに誰かわかって 勢いよく髪を翻して振り向いた。

ああやっぱりコンビニの。

えっと、え

潔癖症のお兄さん?

潔癖症ではないけど。

フードを被っていないから 一瞬お兄さんか疑ったけど 口許の黒子と傷ですぐに分かった。

ええっと、えっとその…

心臓がうるさくて言葉が詰まる。

終電だろ?俺も逃した

あ…いっしょ。

スマホの電源切れちゃって
バイト先の時計は壊れてて
挙句終電まで逃して、
なんだか散々で……

…ふっ

…ゎ

笑ってる顔、初めて見た。

本当に散々だな

お兄さんは仕事帰りですか?

ああ、まあそんなとこ。

アンタ、方向は?

私は東です。東向きに歩いて3駅。

距離もあるのかよ

ふふ、本当に散々で笑っちゃいます

でもお兄さんに会えたからプラマイゼロになりました

ずっと話してみたくて気になってたんです、お兄さんのこと。

変な奴だな

同じ方向だから途中まで送ってやるよ

ポケットに手を突っ込んで 改札を出る背中を追いかける。

こんな場所で会えたこと 声をかけてくれたこと お兄さんの隣を歩くこと 全てがうれしくてうれしくて 口許がゆるゆるだ。

あの、

ん?

私はずっと気になっていたことを 聞いてみることにした。 癖のこと。

どうしていつも物を持つ時、指先で摘むんですか?

何でそんなこと聞くんだ

ずっと気になっていて。

大半の人は買ったものを無造作に掴んで持って帰るのに、お兄さんの物の持ち方は繊細で優しく大切に扱っているように見えて

それから優しい人だなって意識するようになったから。

少しの間があって お兄さんは口を開いた。

そんなに褒められるような理由ではない

個性の影響で握れないだけだ。

触れた物体に影響が出る個性?

さらさらと夏の夜風が 二人の髪を気紛れに撫でて靡かせる。

御前、個性は?

私はアスパルテームです

アスパルテーム?

涙や汗…、要は体液が甘くなる個性なんですけど使い道がなくて無個性みたいなものです

役立たずな個性が恥ずかしくて えへへ、と笑って誤魔化す。

舐めたら甘い?

えっ、あ、えと…甘いです、

今変なこと考えただろ?

心臓がどくんと跳ねて 体中に熱が巡る感覚がした。 そんな質問をされて 想像するなと言われても困る。

年上の余裕ってとってもずるい

考えてないです

考えたよ

チリンチリン─

弁明のために お兄さんの方を見上げていると 前から走行してくる自転車に気付かず 身体がよろけた。

お兄さんと肩がぶつかり 微かに指先が触れ合う。 私の中の私が 手を握ってしまえと言ってくる。 好きなんでしょう?と。

でも突然手を握る勇気なんて 少しも持ち合わせていなくて 人差し指だけを 彼の中指に引っ掛けてみる。

死ぬよ

そう言って 触れた瞬間解かれる指先。

五指で触れた物や人を破壊する。それが俺の個性。

迂闊に触れたら御前は粉々になってその場でおじゃんだ。

……つまり、触れなきゃいいですよね?

は?

お兄さんは 何言ってんだと言いたげな 怪訝な表情で小首を傾けた。

これなら粉々になりません

そしてまた指先を絡める。

拒絶されることが怖いから 少し迷ったけれど 一度触れたら好きが溢れて止まらない。

……ぷっ、ははは

本当に変な奴

絡めた指先はほどかれることなく 二人を繋げたまま。

最初は遠いと思っていた3駅は あっという間だった。 きっとお兄さんのおかげだ。 もうすぐ家に着いてしまう。

よかったらいっしょにアイス食べませんか?

ここまで送ってもらったから御礼したくて。

御礼という名の時間稼ぎ、だろ?

口角を上げて見詰める視線に 私の感情は暴かれている。

やっぱりずるい。

   

私達はコンビニでアイスを買って 公園のベンチに並んで座った。 ひとつのアイスを二人で分けて 夏夜の熱を冷やしていく。

温いけど優しい夜風が さらさらと草木を揺らす。

食べ終わったら帰れよ

……また会えますか

バイト先だけじゃなくて、こうして二人でまた会えますか?

……うん。

僅かな間を溶かす 甘くて冷たい氷砂糖みたいな声。 彼は何処か儚げで一度見失ったら もう二度と会えない気がしてしまう。

…ほんと?

俺の周りは変人ばかりが集まってくる。アンタもその一人だ。

いつも会計の時はジロジロと俺を見て暇があれば店を出るまで視線を感じるし、

触れたら死ぬっつってんのに容赦なく指に触れてくるし、物を慎重に扱う俺を優しく見えたと言う。

俺を肯定するアンタの側は居心地がいい。

他人からの愛情を乞うなんて感情は頭の奥底に閉まったはずなのに

アンタは俺の心の中に土足で入り込んで好き勝手に引き出しを開けてきた。

その責任はとってもらう。

……だから会いたい。

食べかけのアイスの容器を ベンチの脇に置いて 言葉を紡ぐ彼の横顔を見る。 不器用に真っ直ぐにぎこちなく 伝えてくれる心と 微かに赤らむ頬。

好きです

お兄さ……弔さんのこと。

もう充分伝わってるわ

彼は口に咥えたアイスの容器を ゴミ箱へ投げながら笑ってる。

表情や感情や思考を 知れば知るほど愛しさが増していく。

弔さんの個性は指だけですか?

ん?

ああ。今は。

何故今そんなことを聞くのかと 不思議そうに首を傾げる姿に 意を介さず隙を見て唇を重ねた。

ちゅ─

甘いものを食べたとき 必ず私を思い出すように。 次にキスをするときまで 私の味を覚えていてくれるように。 もちろん個性を使って。

……アイスよりずっと甘い

私の甘さ、また会う日まで忘れないでくださいね

忘れたくても忘れられねぇよ、御前みたいな変な奴。

突然キスするような変な奴?

全部が変で俺のことが好きな奴。

子供みたいに笑う彼が 私に顔を寄せる。

君と私の世界が 確かに縮まった瞬間だった。

 

 

八月の夜

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