ばいばい、って 4文字が
乗せられた音と 聞こえた言葉が
何気ない日常 なんかじゃないって、
そんなこと 私は全然
崩れ去るまでは 気づかなかった。
君がいてもいなくても、
時間の経過は 終わりがなくて。
知らないふりをしていても、
僅かな隙間に 事実は潜んで。
花びらは散って 葉がついて、
鈍色の空は雨模様。
ふわふわと漂っていた 春の空気も
包むように傍にいた 君の温度も
まるで水中の泡みたいに。
どこまでも突きぬけていそうな 寒い空はとっくに消えて、
今の青色はすこし 霞んでいる。
私が吐きだした 小さな疑問は、
その淡い曇りのなかで 歪みながら滲んでいった。
彼が何も言わずに 私の声を聴いてくれるから
なんとなく、 おもいだしてた。
伸びた髪とワンピースの裾が ゆらりとはためいた。
中途半端な沈黙を さらってしまおうと、
棘のない空気が 風になる。
漂う雲に向けて 腕を伸ばすと、
ひらひらと舞う 薄い花びらが 手のなかに落ちてきた。
初夏が薫って 振り向くと、
立ち並ぶ木には 葉ばかり付いていて
そんな時期だと、 ようやく気づく。
会いに、 逢いに。 遇いに?
私が思う 「あい」の正解は 出てこなくて
行きたいのか 生きたいのか 逝きたいのか
こんな言葉の先を 想像してみたって
本当の気持ちは 見えてこないままで。
ひとつだけなんて 選べないけれど
あいにいきたかった。
それまで俯いていた彼が、 ぽつりと口を開いた。
はっと視線が交わって、 ぱっと顔を逸らしあう。
ゆるやかな眠気に そのまま呑まれるように、
私は瞼を閉じてみた。
小さくて狭い心のなかに 色んな感情が押しこめられて
ぐるぐると かき回されて、乱されて
あのときの 荒い息と滑る涙だけでは 足りないくらいだった。
言いたくて遮られたことを それでも否定しなくて、
意味を理解してても 知らないふりをして、
結局いちばん大切なことを 曖昧に濁しちゃって、
ごめんね。
枯れきった喉からは
それすら出なかった。
ずっと前にくれた プレゼント。
ガラス玉を指でつまんで 太陽にかざした。
光の加減で何色にも変わる 透明のまる。
それは澄んだ空を 乱反射して
綺麗な部分だけが 球体に詰められて
それは雨あがりに煌めく 露のひとつや、
水のなかから逃げようとする 小さな泡に見えた。
儚くて今にも 消えてしまいそうな、
それがとても似ていた。
私は待ちわびている。
雨ばかり 降るようになれば
涙が止まらなくなっても、
全部 梅雨のせいにできるから。
耳を塞いでしまいたいと 思いながら
容赦のない彼の言葉を 全身で受けとめてしまう。
ありえないと、 自分を疑った。
だからまだ 誤魔化しておくことにする。
何もかも知っていたし 予感もあったのに、
無垢を演じきった 私が悪いから。
未だ 癒えない傷に 縋ってしまうのも
詩的なことばかり 想い ついてしまうのも
君じゃない人のキモチに 心が 揺れてしまうのも
これはきっと、
春のせい。
泡雨カヌス
コメント
29件
いいお話でした。 なんで今まで見なかったんだろぅ。
前から作品読ませて頂いたのですが、この作品がずば抜けて好きです… 文字が少し変わるだけで、意味も多く違ってくる… とても深くて何回も読み直してます⸜❤︎⸝