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俺の、嗚咽混じりの声が
静かな部屋に ぽつり、と零れ落ちた
涙は止まることなく ぽろぽろと、溢れてくる
その涙を 銀さんの母親は赤子を抱いたまま
ただ、静かに 見守ってくれていた
銀さんの父親も 隣で優しく背中をさすり
爽はそっと 隣に寄り添い
小さく微笑みながら 俺の肩に手を添えてくれた
赤子は、母親の腕の中で
俺の指先を小さく ぎゅっと、握りしめていた
その温もりが 胸にじんわりと染み渡っていく
────まるで 俺の涙を祝福するかのように
嬉しそうに 笑い声を上げていた
俺は、小さく息を吐いて
ようやく、声を絞り出した
それは 自分に線を引く為の言葉だった
これ以上居たら きっと、動けなくなる
────これで、終わりじゃない
これから訪れる “次”の為に、進まなければならない
────でも……やっと
やっと、ひとり救えた
嗚咽を堪えながら 何度も、胸の奥で繰り返した
────少しして
銀さんの父親がそっと立ち上がり どこかへ行ったと思うと
棚の奥から、ひとつの 小さな木箱を持って戻ってきた
それは、繊細な彫刻が施された 美しい木箱だった
銀さんの父親は それを膝の上に置き、開ける
中には、一振の短刀があった
鞘は漆黒に包まれ 鍔はごく簡素な造り
────でも
どこか凛とした 静かな気迫が宿っていた
銀さんの父親は ゆっくりと木箱から短剣を取り出し
俺の前に、差し出した
彼の声が、僅かに震える
────それでも
真っ直ぐに俺の目を見て 言葉を紡いだ
短剣が、俺の手に収まる
冷たく けれど不思議と、安心する重みだった
道具としての重みじゃない
────これは、願いだ
「守りたい」と願い続けた 先人たちの“祈りの結晶”だった
俺は目を伏せて それを胸元にそっとしまう
“決して忘れない”
この守刀が どれだけ、俺を奮い立たせてくれるかを
やっと出た声は 酷く、掠れていたが────
銀さんの父親は 静かに頷いた
その日 俺はようやく、ひとつの過去と向き合い また “次”の未来へ歩き出す決意をした
………“過去”に戻って、8年と少し
数百年、数千年という時を超え ようやく辿り着いたこの場所で──── やっと、 一人目の教え子を救うことができた
その事実が、背中を押してくれる 安堵と共に、静かな決意が胸に芽吹く
────だが、これで終わりじゃない 救うべき者たちが 守るべき者たちが まだ、“未来”にいる
────────“次”まで、後4年
それまで俺たちは 厄災を狩り続ける旅に出る 誰かの“絶望”を“希望”へと 変えるために
胸元の“守刀”が、 静かに語りかけてきた気がした
「────迷うな、恐れるな」 「お前は、一人ではない」 ────と、