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夜の暗闇が村を包む頃 眠れぬ幼子が母の袖を引き とある“おはなし”をせがむ
母親は「ふふっ」と微笑み 灯りをそっと落として 眠れぬ幼子にそっと、語り始める
この村が 恐ろしい魔物たちに襲われていた その時────
「命鴉(ミコトカラス)様」
と呼ばれる 黒い翼の神さまが来たの
藍に光る髪、宵の星を宿した眼差し 静かな風ように どこからともなく現れては 瞬く間に魔物たちを倒して あっという間に、去っていく────
その姿を見た人たちは言うの
「命鴉さまは 命のはじまりと終わりに寄り添う影」 「暗き夜の風の如く ささやかに生きとし生けるもの 全てを見守ってくださるのだ」
────けどね 命鴉さまは、いつもひとりではないの
お傍には、ひとりの少年がいるんだって ふわりと藍に揺れる髪 柔らかな光を宿した水色の瞳 その背には 艶やかでしなやかな黑狐のしっぽが ひとつだけ揺れていて…………
いつしかその子を こう呼ぶようになったの
「灯し狐(ともしきつね)様」と
灯し狐さまは 命鴉さまの横にそっと寄り添い 風となって先を駆け 光となって帰る道を照らす 夜のしじまに灯りをともして 人々をの心を温めてくれる やさしい方なのよ
その笑顔はね──── 泣いている子の胸に ぽっと、灯りをともしてくれるような どこか懐かしくて あたたかくて、安心してしまう… そんな笑顔だったそうよ
人々は言ったの
「命鴉さまが夜の風なら 灯し狐さまは朝露の光だ」
────ってね
ふたりが揃って現れる時 ───それは、とても特別な時
運命が揺れ動く 大切な“命”の分かれ道に そっと立ち会う為に来てくれるんだって
影と光 夜と朝 まるで、世界の狭間に咲く “願い”のような、ふたり
────そしてね 夜が深くなると 村の大人たちはみんな、こう言うの
「夜の闇は怖くねぇさ 闇が深くなるほど 命鴉さまは近くにいるんだ」
だから、夜は怖くないのよ
ぱさり……ぱさり…… どこからか翼がはためく音がすれば それはきっと、命鴉さまのしるし
ふっと風が吹いて 小さな灯りが揺れるとき─── 灯し狐さまが近くにいるんだって みんな目を輝かせるの
命鴉さまと 一緒にいる時の灯し狐さまの顔は どこか嬉しそうで 穏やかに笑っているんだそうよ
まるで 眠る子を優しく包むような 静かな微笑みで────
眠る前に、そっと祈ってみようか
明日も、笑っていられますように 大好きな人が どうか無事でありますようにって
その祈りの灯りが きっと、いつか 命鴉さまと灯し狐さまに 届くかもしれないよ
おやすみなさい あなたの夢に やさしい風と灯りが 舞い込みますように
その出来事があってから、村には
命鴉さまと灯し狐さまを祀る かなり大きめの社が立てられたました
その村では 年に数度のお祭りの日に────
村の子供たちが 藍色と黒の衣装を着て
右手にはカラスの羽 左手には小さなランタンを持ちながら
夜の村を 元気いっぱいに歩き回るのです
「あなたさま方のお陰で 私たちの宝が 今日も元気に命を育んでいます」
そう、感謝の気持ちを込めて……
子供たちの笑い声が響く、その夜
村人たちは そっと空を見上げます
────きっと
命鴉さまと灯し狐さまは またどこかで────……
私たちの村と、同じように
誰かの命の危機を
救ってくださっている のかもしれないね………と
命鴉と灯し狐のお話……
どうだったでしょか?
これからも、きっと このお話は 語り継がれていくんでしょう
────そうなると、いいですね