話しかけようと思った。
話しかけるとシャボン玉みたいに割れてしまいそうな彼に。
ふわふわした髪と透き通った白い肌、 何かを見透かすような目に筋の通った高い鼻、 そんな彼に話しかける勇気が出なかった。
静夏
そう思い足を扉に向けた時、私と彼の2人だけの空間に低い声が響いた。
彼だった。
誰かに話しかけられたのはいつぶりだろう。そんなことを考え、彼のことを見つめていた。
静夏
静夏
静夏
そう言った彼の目は 寂しさと優しさをパレットの上で混ぜたかのように複雑だった。
長い沈黙の時間が流れた。
いつも人といることは苦手で 息苦しく感じられるのだが
彼と過ごすのは妙に居心地が良く、 時間が過ぎるのが惜しいと思えるほどに早く感じた。
ずっとこうしていたい。
そう思ったばかりなのに 私の頭の中をかき乱すかのようにチャイムが鳴った。
本当はもっと居たかったけど、 流石に教室に戻らなくてはならないと思い、扉の前に立った。
フェンスによしかかり私のことを見ている先輩を見て小さくお辞儀をした。
扉を開けた瞬間、さっきとは違う少し焦ったような高い声が響いた。
私は何も言わないまま頷き扉を閉めた。
顔がじんわりと熱くなっていくのが分かった。 きっと今の私は、どっかの馬鹿な政治家よりも間抜けな顔をしているだろう。
彼が私を必要としているかのようで 嬉しかった。
久しぶりに嬉しいという感情が 炭酸飲料を開けた瞬間の気泡のように、 ブワッと湧き上がってきた。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!