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檜谷水槽
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夜のコンビニは、いつも白すぎた。 僕は入口の横にしゃがみ込んだまま、ぼんやり床を見ていた。 腹が痛い。 空腹のせいなのか、寒さのせいなのか、分からない。 コンビニから出てくる人たちはみんな、温かそうだった。 袋を持って、 誰かと笑っている。 家には帰りたくなかった。 昨日から親は帰ってきていない。 帰ってきたとしても、たぶん寝ている。 起こしたら怒鳴られる。 冷蔵庫には何もなかった。 昼から何も食べていない。 自動ドアが開く。 温かい空気が流れてきた。 その中に、煙草の匂いが混ざっていた。 僕は顔を上げた。 男が1人,ビニール袋を片手に立っていた。 眠そうな目。 指の間に煙草。 その人は、僕を見て少しだけ眉を寄せた。
いがらし
低い声だった。 僕は反射的に視線を逸らす。 知らない大人と目を合わせるのが苦手だった。
いがらし
怒っている声ではなかった。 僕は答えなかった。
いがらし
肉まんだった。 白い湯気が、袋の隙間から漏れている。 その瞬間、 腹がぎゅう、と縮んだ。 僕は慌てて俯く。 食べたい。 でも、 知らない人にもらうのは駄目だと、昔言われたことがある。 いつ言われたのかは覚えていない。
いがらし
その声は妙に静かだった。 断ったら、この人はいなくなる。 そう思った。 いぶきは小さく首を振った。
いぶき
男は少しだけ目を細めた。 笑ったのかもしれない。
いがらし
差し出された肉まんは、びっくりするほど温かかった。 指先がじんわり熱い。 こんなに温かいもの食べるのは久しぶり。 男は煙草を咥え直す。 白い煙が夜に溶けた。
いがらし
僕は黙った。 男も無理に聞かなかった。 それが少しだけ楽だった。 コンビニの明かりが、 二人の影を地面に薄く落としている。 いぶきは恐る恐る肉まんを齧った。 温かかった。 柔らかい。 それだけで、 泣きそうになった。
いぶき
男が小さく笑う。
いがらし
たばこの匂いがした。 でも嫌じゃなかった。 その匂いは、 冷たい夜の中で、 少しだけ安心する匂いだった。