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昔のころ
お屋敷の
雇い主として
『お菊』という
若い子がいた
そのお菊は
とても可愛いく
素直な子だった
旦那様
お菊、じっとして
お菊
え……っ
お菊
旦那様…何を？
旦那様
旦那様
これをお前に
お菊
！！
お菊
いけません。
お菊
こんな高価な『かんざし』を…
お菊
いただくわけにはいきません……
旦那様
お前のためにやるのではない……
旦那様
お菊にはより美しくいて欲しいのだ
旦那様
旦那様
私のためにな
お菊
あっ……旦那様
旦那様
なあ、お菊……
お菊
お…おやめくださいっ…
奥様
あなた
奥様
お客様がお待ちですわ
旦那様
チッ…
旦那様
うむ……
奥様
ほう……
奥様
この『かんざし』は
奥様
わたくしの夫から
奥様
もらったのであろう？
お菊
あ……奥様…
奥様
世話になっている立場なのに主人をたぶらかすとは……
お菊
私は、何も……
グシャッ
お菊
あっ……
お菊
((どうしよう
お菊
((旦那様にお返ししようと思っていたのに……
お菊
寒…………
旦那様
かわいそうに……
旦那様
こんなに冷えてか
お菊
……！
旦那様
なあ、お菊
旦那様
私の愛人にならぬか
旦那様
そうすればお前は
旦那様
楽に暮らせ……
お菊
いやっ……
ドン
旦那様
な……に
旦那様
この私を突き飛ばすとはな……
お菊
…………
旦那様
お菊…かんざしはどうした？
お菊
…………
お菊
申し訳ありません
お菊
あやまって……
お菊
踏んでしまいました
旦那様
もうよい
旦那様
顔を上げよ
奥様
……フッ
奥様
いいかいお菊
奥様
その10枚揃いの皿は
奥様
青山家に代々伝わる家宝の皿じゃ
奥様
くれぐれも扱いに気をつけるのだぞ
お菊
は……はい
奥様
どれ
奥様
綺麗に磨けておるのかの
奥様
……ニヤッ
バリーン
お菊
あ……
お菊
あっ……
バシッ
お菊
………………⁉︎
お菊
……え？
お菊
お菊
奥様？
お菊
どうして…私が？
奥様
家宝の皿を割ったであろう
お菊
えっ……
奥様
この皿は
奥様
お菊が割ったのじゃ。
お菊
……！
旦那様
なっ…
旦那様
これは……‼︎
奥様
あなた……っ
奥様
お菊が……っ
奥様
お菊は恐ろしい娘です。
奥様
自分はあなたに可愛がられてるから……
奥様
何をしても平気だと‼︎
奥様
それで……
奥様
証拠を見せるからと言って……
奥様
わたくしの目の前で……
奥様
奥様
家宝の皿を割ったんです…………！
お菊
いえ……
お菊
決してそのようなことは……‼︎
旦那様
…………
お菊
旦那様
お菊
私は割っておりません
お菊
どうか……
お菊
どうか私を信じてください
旦那様
うむ……
旦那様
わかった
お菊
((よかった……
旦那様
旦那様
お前は
旦那様
私の妻が嘘をついておると申すのだな。
旦那様
お前のような者が妻を侮辱するとはな。
お菊
！！
旦那様
涙で訴えれば私が許すとでも思ったのか。
旦那様
憎らしい奴め！
旦那様
そうだな
旦那様
10枚揃いの皿が一枚かけたのだから……
旦那様
旦那様
お前の指を一本
旦那様
もらうとしよう
お菊
……っ
ザクッ
お菊
あ……
お菊
ああああぁぁぁぁ
旦那様
旦那様
よくも……
旦那様
よくも大切な家宝の皿を…………！
バシッ
お菊
……ぁぁ
バシッ
お菊
…………あぁぁ
ガンっ
お菊
ぐっ…………
私……
こんな体にされて
一生こうして
責められ続けるんだ
きっと……
それならば
いっそ……
お菊
………………
旦那様
…………
奥様
…………
雇い主
お菊が身投げとは……
雇い主
家宝の皿を割ったんだってよ……
奥様
((どうしよう……
奥様
((まぁ、いい気味よ
その夜
旦那様
…………っ
旦那様
う…………ん……
お菊
…………い
お菊
二ま〜い
お菊
三ま〜い
お菊
四ま〜い
旦那様
うわぁぁぁぁ
旦那様
((嫌な夢だな
旦那様
((お菊が身投げなんかするから……
お菊
五ま〜い
お菊
六ま〜い
旦那様
((まだ、私は夢を見ておるのか…………
スッ
お菊
七ま〜い
お菊
八ま〜い
お菊
九ま〜い
お菊
…………
お菊
あぁ……
お菊
一枚足りない……
旦那様
ヒッ……
お菊
旦那様……
お菊
申し訳ありません……
お菊
お皿が一枚足りないのです…………
お菊
もう一度……
お菊
数えてみます……
お菊
一ま〜い
お菊
二ま〜い
お菊
三ま〜い
旦那様
ひぃぃぃぃぃ
それから
毎晩毎晩
お菊
一ま〜い
お菊
二ま〜い
お菊
三ま〜い
お菊
…………
お菊は
数え続けた
お菊
四ま〜い
お菊
五ま〜い
お菊
…………
お菊
一枚足りない
そうして
夫妻は
狂い死んだ
しかし
2人の死後も
お菊
一ま〜い
お菊
二ま〜い
お菊
三ま〜い
お菊の霊は
消えなかった
お菊
〜〜〜〜…………
お菊
〜〜〜〜…………
ある日
お菊の噂を
耳にした
僧(お坊さん)が
立ち寄った
お菊
一ま〜い
お菊
二ま〜い
僧(お坊さん)
南無阿弥陀南無阿弥陀南無阿弥陀南無阿弥陀南無阿弥陀南無阿弥陀南無阿弥陀南無阿弥陀南無阿弥陀南無阿弥陀南無阿弥陀
お菊
三ま〜い
お菊
四ま〜い
お菊
五ま〜い
僧(お坊さん)
南無阿弥陀南無阿弥陀南無阿弥陀南無阿弥陀南無阿弥陀南無阿弥陀南無阿弥陀南無阿弥陀南無阿弥陀南無阿弥陀南無阿弥陀
お菊
六ま〜い
お菊
七ま〜い
お菊
八ま〜い
僧(お坊さん)
南無阿弥陀南無阿弥陀南無阿弥陀南無阿弥陀
お菊
九ま〜い
僧(お坊さん)
十枚！！
お菊
！！！！！！
お菊
あぁ……
お菊
ありがとう……
こうしてお菊は
天に参りました
そこの井戸からは
もう
声は聞こえなく
なりました。
〜END〜
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