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第1話 - あ

2023年05月19日

#恋愛

結城真矢

モモ

クリオ、また「アレが出たわよ。」

クリオ

また「アレ？今月はもう3回目だな…。」

モモ

うん。どうも同じ犯人のような気がするのよね。

モモ

植えたばかりの苗ばかり狙ったり、盗む花の種類だったりが似ているのよね。

クリオ

でも一株100円程度の花の苗を盗んで、転売するか？

モモ

儲けにはならないよね。

モモ

一体、何が目的なのかしら。人の家から盗んだ花を植えて楽しいとも思えない。

クリオ

盗まれているのは、うちだけじゃないらしいな。

モモ

そうなの？

クリオ

ああ。今日、町内会長のユズイさんが店に来てくれたんだよ。

クリオ

そうしたらさ、なんと小学校の花壇も荒らされたって！

クリオ

1年生の子たちが大事に育てた朝顔の苗とか、

クリオ

高学年の子が育てているヘチマや野菜の苗まで、色々引っこ抜かれてたって…。

モモ

ヒドイわ！

モモ

子供たちが大事に育てた植物まで荒らすなんて…。

クリオ

転売が目的とは思えないな。嫌がらせかな。

クリオ

しかも、花泥棒事件の被害に遭ったのは初めてじゃないんだってさ。

モモ

警察には届けていないの？

クリオ

届けてはいるんだけど、ちょうど花壇の周辺に防犯カメラが無いらしくて。

クリオ

決定的な画像が撮れていないのと、盗みに入られるのが夜中だったりで、

クリオ

目撃者もいなくて、警察も手がかりが掴めないらしい。

モモ

そうなんだ。

クリオ

モモ、小学校にも花植えボランティアに行ったりして、

クリオ

花壇を綺麗にしていたもんな。

モモ

うん。子供たちも喜んでくれるし、クリオさんのお店の花の苗をね、

モモ

学校に植えたら良く育ちそうだなと思って。

モモ

あの小学校、クリオさんの出身校だもんね。

クリオ

いつもありがとう。

クリオ

ただ、心配させたくなくてしばらく黙ってたんだけど…。

モモ

え？なに？

クリオ

最近、俺が居ない間に家で変わった事は起きていない？

モモ

さっき話した花泥棒以外の事は、特に何も。

モモ

なにか心配事が？

クリオ

ああ、実は俺が店にいる間の事なんだけど…。

クリオ

毎日の様に、ある女性がやってくるんだ。

モモ

ある女性？

クリオ

いつも店に入ってきては、花も何も買わずに俺に話しかけてくる。

モモ

何も買わずに？

クリオ

知り合いならまだ分かるんだけど、誰なのかさっぱり分からなくて。

モモ

何歳くらいの方？

クリオ

ちょっと年齢不詳なんだけど、俺達よりは年上かな？

クリオ

いつも一方的に話しかけて来るんだよ。

クリオ

他に客が来ても、お構いなしに話し続けるから、客に帰られてしまう事もあったりで。

モモ

それはかなり迷惑ね。私が店番している時は来ないわよ。

クリオ

かといって、店に入ってきた以上は一応客だからね。

クリオ

追い払う事も出来なくて参っているよ。

モモ

そうなの…。いつからそんな事が？

クリオ

もう結構前。最初は時々しか来なかったから、あまり覚えてないけど。

クリオ

で、今日になって初めて、花を注文してきたよ。

モモ

どんな感じの注文？

クリオ

それが、1束5000円の花束を50人分だって。

モモ

え？そんなに？ちょっと怪しくない？

クリオ

ああ、でも日時まで指定されて、自分で引き取りに来るって言うから

クリオ

連絡先を交換したよ。店の公式LINEで。

モモ

そうね、それは聞いておいたほうがいいわ。

モモ

お花のアレンジについては、何か希望は聞いた？

クリオ

それが、お店にお任せしますってニコニコしながら言われたよ。

モモ

お任せします、ねぇ…こだわりが無いなら、私が仕切るけど。

クリオ

うん、それはモモに頼みたい。

クリオ

ただ、1日で50束仕上げるのは大変だな。

クリオ

その日はバイトさん3人に入ってもらわないと、店も回らなくなりそうだ。

モモ

じゃぁ、バイトの方々には私から頼んでみるわ！

モモ

クリオは、生花の仕入れのほうをお願いね。

クリオ

うん、わかったよ。モモ、よろしくな。

モモ

よろしくね。

～1週間後、店用のLINEにて～

カキツバタ

ちょっと店長は！店長を出しなさいよ！

モモ

すみません、店長は今取り込み中でして。

モモ

私が代わりに伺います。今日はどうされましたか？

カキツバタ

店長が店にいないんだけど！

カキツバタ

なんでいないの？店長に会う為に毎日通ってるのに。

カキツバタ

バイトしか店に居なくて、話にならないわ！店長を出してよ！

モモ

あの、私は副店長です。

モモ

ご用件だけでも教えて頂けませんか？

カキツバタ

いちいちバカ丁寧に、ムカつくわね。

カキツバタ

私が頼んでいる花束50本、今すぐ用意してちょうだい！

モモ

え？今日、今すぐですか？

モモ

それはちょっと…今度の日曜日と伺っていましたから、

モモ

お花も仕入れていないんですけど。

カキツバタ

なによ～使えない女ね！だから店長を呼べって言ってんの！

カキツバタ

急に今日、必要になったんだから。

カキツバタ

客のワガママを聞くのも、あなた達販売業のつとめでしょう？

モモ

そうは言いましても。

モモ

前倒しになった理由はなんでしょうか？

カキツバタ

理由なんてどうだっていいでしょ。今日欲しくなったからよ！

モモ

えっ。…それだけですか。

カキツバタ

だからなんなの？グズグズ言ってないで早く店長を呼びなさい！

モモ

はい、では少しお待ちください。

～モモとクリオのLINE～

モモ

あの、例の女性からLINEが来ているわよ。

モモ

店長が店に居ないのはなぜだ！って騒いでる。

クリオ

それは大変だ。

クリオ

そんなに興奮しているのか？

モモ

ええ。しかも日曜日で予約していた50人分の花束も、今日用意しろと言ってる。

クリオ

なんだって？断れなさそうか？

モモ

副店長の私じゃ話にならないから、店長を出せの一点張りよ。

クリオ

そうか。しかし無茶苦茶だ。予約が早まった理由は聞いてる？

モモ

ただ自分が早く欲しくなったから、だって。

クリオ

なんだそれは。カキツバタさん用の花の仕入れが土曜日だから、

クリオ

今から花を用意するのは厳しいな。

クリオ

カキツバタさんは今、店にいるのか？

モモ

そうみたい。

クリオ

そうか。じゃぁ、直接断りに行ってくる。

モモ

え？今日はお休みでしょう。大丈夫？

クリオ

大丈夫だよ。こういう事は、直接話した方が良いんだ。

クリオ

俺に任せておいて。

モモ

わかった。

クリオ

急ぎの用事ではないらしいし、日曜日まで待って欲しいとお願いしてくるよ。

モモ

助かるわ。私もこれから、フラワーアレンジメント教室の講師のお仕事があるから。

モモ

教室に向かってた途中だし、すぐに動けなくて困ってたの。

クリオ

モモ、ありがとう。帰ったらまた話そう

モモ

うん。わかった。

～３日後～

カキツバタ

ちょっと、また店長がいないんだけど！

カキツバタ

それにアンタ、店長の妻ってどういうこと？

カキツバタ

店長が既婚者だなんて聞いてないわよ。指輪もしていなかったし！

モモ

私をお呼びですか？確かに妻ですが…。

カキツバタ

私から店長を取らないでよ。

モモ

え？取ってないですよ。何をおっしゃっているんですか。

カキツバタ

せっかく彼と仲良くなってきたのに、いつの間にか結婚していたなんて。

カキツバタ

この間なんて、わざわざ私が店にいるからって、お休みを取っていたのに

カキツバタ

店に駆け付けてくれたのよ！私に会う為に決まっているわ。

モモ

いえ、それはお客様のお花の注文の事で、

モモ

私では埒が明かなかったから、クリオか代わりにお話しする為に

モモ

お店に駆け付けただけですけど…。

モモ

ご注文は元通り、日曜日にされましたよね。

カキツバタ

だからなんなの？私、彼とLINE交換までしてるんだから。

モモ

何か個人的なやり取りをされているんですか？

カキツバタ

好きな花の種類とか、色とかを聞かれたわ。

カキツバタ

きっと、ちかいうちに私に交際を申し込んでくれるんだわ！

モモ

あの～、それはお客様の注文のご希望を確認する為かと。

モモ

花束５０本、注文されましたよね。

カキツバタ

それは彼へのプレゼントよ！

モモ

ええ？？

モモ

５０本全部ですか？

カキツバタ

そうよ。何か文句ある？

モモ

い、いえ…５０本も家に持ち帰るのは無理だと思うので。

カキツバタ

あんた、バカ？彼へのプレゼントだって言ったのが聞こえなかった？

モモ

私も一緒に住んでいるんですよ。

モモ

花束５０本も置く場所がありません。

カキツバタ

何よ、気分の悪い事を言ってくれるわね。

カキツバタ

彼に言いつけてやるわ！お宅の店員がこんな接客態度でしたって。

モモ

それは構いませんが。

モモ

花束の注文はどうされますか？

カキツバタ

ふん！キャンセルしてやるわ。

カキツバタ

売上に貢献してあげようと思って、大盤振る舞いするつもりだったのに。

モモ

お店の事を心配して下さってありがとうございます。

モモ

キャンセルという事でしたら、店長にそのようにお伝えします。

カキツバタ

アンタ、覚えておきなさいよ。

モモ

はい？

カキツバタ

私と店長の仲を裂こうとしたって、そうはいかないわよ！

モモ

裂こうとは思っていませんが…。

モモ

クリオもおそらく、そのようなつもりはないと思います。

カキツバタ

キーっ！！本当にムカつく女ね。絶対に許さない！

モモ

お気に障ったようで申し訳ありません。

～２日後～

クリオ

モモ、大変だ。

モモ

どうしたの？花の仕入れで何かトラブルでもあった？

クリオ

そうじゃないんだ。店に、大量に花が届けられてる。

モモ

しかも、お葬式用の仏花だよ。これ、どうしろって言うんだ？

モモ

大量に、ってどれくらい？

クリオ

店に収まり切らないくらい。ざっと１００束くらいあるかもしれない。

モモ

そんなに！？送り主は誰？

クリオ

それが…「ビワコって下の名前っぽいのしか書かれていないんだ。」

モモ

何それ、完全に嫌がらせじゃないの。

クリオ

こんな事、誰がするんだ？

モモ

実は、家の庭も大変な事になってるよ。

クリオ

え？

モモ

花壇の花は全部引っこ抜かれて荒らされているし、

モモ

バラの木も雑に切られていて、めちゃくちゃになっているの…。

クリオ

なんだって？いつ？

モモ

クリオ、今日は家を出たのが早朝だったでしょう。

クリオ

うん。花を仕入れに市場に行っていたからね。

モモ

暗いウチに家を出たから気付かなかったよね。

モモ

今朝、私が庭に出たら荒らされていたのよ！

クリオ

まさか…。

モモ

それに、謎の請求書も郵便受けに入っていた。多分、その仏花の支払い伝票よ。

モモ

請求額５０万円だって。宛先が私になっているから、私に払えって意味？

クリオ

そんなバカな！

モモ

それに、怖い手紙も一緒に入ってた。

モモ

切手も消印も無いから、直接郵便受けに入れたんだと思う。

クリオ

どんな手紙？

モモ

さっさと出ていけ。男は私がもらう。

モモ

って赤い字で書かれているの。しかもカミソリ入りよ。

モモ

家には監視カメラが無いから、どうやって犯人を確認すればいいのか。

クリオ

警察に相談しよう。

クリオ

あと、監視カメラの件は、もしかしたら手の打ちようがあるかも。

モモ

え？ほんとに？

クリオ

ああ、でも確証はないから、ちょっと待ってて。

クリオ

それに、発送元の花屋も、隣町の知っている店だから。

クリオ

送り主の事をちょっと聞いてくる。

モモ

そうね、お願いよ…こんな手紙もらっちゃったら怖くて。

クリオ

その前に、まずは警察だな…。

～翌日、店用のLINEにて～

カキツバタ

クリオさん、私のプレゼント届いた？

クリオ

とどきましたよ。

クリオ

ビワコさんというのは、あなたの下のお名前ですね。

カキツバタ

そうよ！やっと名前で呼んでくれたわね。

クリオ

ウチの店の花をドタキャンした後で、

クリオ

他所の店から倍の数の花束を送り付けた理由はなんですか？

クリオ

しかも仏花って…ブラックジョークが過ぎますよ。

カキツバタ

だって、あなたが勝手に結婚したのが悪いのよ。

クリオ

何を言ってるんですか。私はあなたの彼氏でも何でもありません。

カキツバタ

へ？

クリオ

何を理由に、誤解されているのか分かりませんが

クリオ

私はあなたと個人的に親しくなったつもりはありません。

カキツバタ

ひどいわ、どうしてそんな冷たい事を。

クリオ

私の妻を怯えさせるような事をするからです。

カキツバタ

妻って、あの生意気な副店長が？

クリオ

妻は、私の事を誰よりも理解してくれる大切な人です。

カキツバタ

そんなの認められない…。

クリオ

認められなくても結構。

クリオ

あなたのした事は、立派な営業妨害と迷惑行為です！

カキツバタ

へ？

モモ

だって、仏花騒動のせいで丸１日お店が営業出来なかったし、

モモ

ウチの庭を荒らして、郵便受けにカミソリ入りの手紙を入れたのも、

モモ

仏花の請求書を私宛にしたのも、みんなあなたですよね？

カキツバタ

な、そんなのどこに証拠があるのよ！監視カメラだって無いくせに。

モモ

ウチに監視カメラが無い事をよくご存じで。

カキツバタ

う。

モモ

それに、わざわざ住所まで調べたんですね。

カキツバタ

手紙と庭は…それこそ、私がやったという証拠がどこにあるのよ！

モモ

我が家の前は学校の通学路になっています。

カキツバタ

それが何なの？

クリオ

児童の安全の為に、通学路の至る所に監視カメラが設置されているんだ。

モモ

クリオさんが、町内会長のユズイさんに相談したのよ。

モモ

そうしたら私たちに、監視カメラの映像を見せてもらえるよう、

モモ

警察にかけあってくれたわ。

クリオ

ユズイさんは元警察署長だから、顔が利くんだ。

モモ

それにカキツバタさん、あなた学校や近所の人の花壇からも

モモ

たびたび花を盗んでいたわね？

カキツバタ

へ？

クリオ

とぼけないでください。

クリオ

画像を確認したら、あなたが盗む姿がはっきり映ってました。

カキツバタ

そ、そんな…。

クリオ

今までは被害額が小さいから、わざわざ警察には届けなかったけど、

クリオ

こんなヒドイ事をされる前に手を打つべきだったと

クリオ

ユズイさんも気に病んでいました。

モモ

町の人たちや子供たちが大切に育てている花を盗むなんて、なぜ？

カキツバタ

それは…幸せそうに花なんか育てている奴をみるとムカムカするんだもん。

カキツバタ

目障りだから、取り除いてやろうと思ったのよ。

クリオ

呆れた理由ですね。

モモ

あ、多分そろそろ来るんじゃないかな。

カキツバタ

え？

モモ

お迎えが。

カキツバタ

ええええ？？ちょっと待って！何か家に来た！

クリオ

お迎えですよ。

モモ

しっかり反省してくださいね。

カキツバタ

そんなぁ…。

～後日談～

モモ

カキツバタビワコさんは、あの直後に警察に連行された。

モモ

度重なる花泥棒と不法侵入、器物損壊に営業妨害などなど、

モモ

なかなかバラエティーに富んだ罪状になるらしい。

モモ

仏花の請求については、クリオが発送元に相談してくれた。

モモ

勿論私が払う必要はなく、カキツバタさんに改めて請求書が送られた。

モモ

大量の仏花は転売する訳にもいかず、かといって捨ててしまうのは花が可哀そうだ。

モモ

という事で、ご近所を歩き回って無料でお配りしたり、お寺に譲ったりした。

モモ

花を受け取った方々が喜んでくれた事が、唯一の救いだった。

モモ

クリオとしては、誠実に商売に励んでいたのだが

モモ

こんな誤解を招く事もあるのかと、事件直後は少し落ち込んでいた。

モモ

でも、クヨクヨしても仕方ないし、また二人で頑張ろうとすぐに立ち直った。

モモ

これからも二人で仲良く、店を盛り立てて行こうと思うのだ。

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結城真矢

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