ゴホッゴホッ!
ぶつぶつと一人で呟きながら男は 手に持っていた宝くじ券と新聞紙を 何度も何度も見比べる。
強く願いを込めながら 男は宝くじ券の番号を確認した。
あっという間に、 少しの価値すら持たない紙切れへと 変わってしまったそれを放り投げ 男はベッドへと倒れ込んだ。
ベッドの上で体をバタつかせ 少しの時間悔しさを吐き出した後、 男は仰向けになり静かにぼーっと 天井を見つめた。
ゴホッゴホッ!
こうして男は、 大金を得るチャンスを逃してしまった 悔しさから目を背けるかの様に そのまま眠りへとついた。
ある日の仕事帰り、男は 自分の身に起きた不幸な出来事への 不満を職場の同僚へと語っていた。
ゴホッゴホッ!
そう言いながら同僚はからかう様に 不幸な男の肩をポンポンと叩いた。
ゴホッゴホッ!
ゴホッゴホッ!
同僚と別れ、男は食事をとる為 飲食店へ立ち寄る事にした。
男が店に入ろうとした時───
自分のすぐ後に 同じく店に入ろうとしているであろう 老婦人の姿が見えた。
そう言いながら男は彼女の為に 店の入口の扉を開け入店を促した。
老婦人は感謝の気持ちを伝え 店の中へと入っていき、 その後に続いて男が入店した。
男が店に入ると、 何やら店内が騒がしかった。
自分の行動によって なんだかとても損をした気がして モヤモヤしていたところに───
先程の老婦人がやって来て 男に声をかけた。
そう言って男に 一枚の紙を差し出した。
男が福引会場へ向かうと、 一組の親子を見かけた。
そう言って男は 手に持っていた福引券を差し出した
こうして、 男が帰宅しようと歩き始め
程無くしての事だった──
カランカラン!!
つい先程までいた福引会場の方から 大きな音が聞こえてきた
おめでとうございまーす!! 一等が出ましたー!!
5万円分のお買い物券でーす!!
思わず振り返ってみると
そこには、 一等を当てて大喜びをしている 福引券を譲った少年の姿があった。
ゴホッゴホッ!
急遽、男の入院が決まったのは その数日後の話だった。
─1ヶ月後─
カーンカーンカーン カーンカーンカーン
男の人生には 何故か不運な出来事が続いた。
宝くじを購入すれば あと少しの所で大金を逃す。
結婚式を挙げて幸せになるはずが 花嫁を奪われる。
自分の行動によって 自分が手にするはずだった特典が 他の人の元へと渡ってしまう。
昇進が決まるタイミングで 病気にかかり見送られる。
いつも、すぐ目の前まで 幸せのチャンスはやって来るのに
その度にチャンスを逃し続ける。
あと少しで掴めるのに、掴めない。
あと一歩で届くのに、届かない。
カーンカーンカーン カーンカーンカーン
そう呟いた男はゆっくりと
遮断機の下りた踏切内へと 歩き始めた。
コメント
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今までチャンスを逃し続けたこの男。 最後のチャンスを掴んでしまったのでしょうか?それとも····。