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第2話 灯った心
スマートフォンを取り出して誰かと電話しているようだった。
及川徹
及川徹
及川徹
及川の背中から聞こえてくるのは、いつもと変わらないにぎやかな声。
でもその声のトーンが、どこか落ち着かないように聞こえるのは、気のせいだろうか。
電話を終えると、及川はティラミスを一口食べた。
その瞬間、彼の表情がパッと明るくなる。
そして、ゆっくりとあなたの方へ視線を向けた。
その瞳は、何かを探るように、まっすぐあなたを見つめていた。
あなたは、咄嗟に視線をそらした。
及川徹
及川徹
〇〇
あなたが歯切れ悪く言ったのにも関わらず、及川は明るく言う。
その言葉に、目線を逸らさずにはいられなくて、目線を合わせた。
その時、さらに明るく笑う及川。
その笑顔とこの再会が、どんな意味を持つのか。
今はまだ、分からないけれど。
ただ彼の視線が、忘れかけていたはずの心の奥底に、小さな熱を灯したような気がした。
その日から、及川は毎日「Hope」に通うようになった。
毎日、練習の間を縫って他愛もない会話を交わすうち、あなたの心は少しずつ、確実に及川に傾いていった。
認めたくはなかったけれど、彼の隣にいると、あの頃の温かさが蘇ってくるようだった。
ある日の夜、店じまいをしていたあなたの下へ、及川がやってきた。
珍しくバレーの練習着ではない、私服姿で、少し照れくさそうに笑っている。
及川徹
及川徹
彼はそう言って、あなたの手を引いた。
夜の道を2人で歩き、たどり着いたのは街灯もまばらな少し開けた場所。
そこからは、きらめく夜空が広がり、まるで二人のために用意された舞台のようだった。
沈黙が心地よく、そして少しだけ切なく、二人の間に流れてゆく。
風が髪を揺らし、及川の横顔が星灯りに照らされる。
その横顔は、高校生の頃と変わらない、けれどどこか大人びた表情をしていた。
どれくらい時間が経っただろうか。
先に口を開いたのは、及川だった。
彼の声は、いつもよりずっと静かで、そして少し震えているように聞こえた。
及川徹
及川徹
その言葉は、星空に溶けていくように、静かに、はっきりとあなたの心に響いた。
凍てついていたはずの心臓が、まるで堰を打ったかかのように強く脈打ち始める。
及川徹
及川徹
あなたの頭の中は真っ白になった。
もう終わったはずの恋。
そして彼には今、恋人がいる。
その現実が、鉛のように重くのしかかる。
〇〇
〇〇
そう言いかけた時だった。
及川の大きな手が、あなたの口をそっと覆った。
彼の指先が、微かに震えているのがわかる。
及川徹
そう小さくつぶやく及川の笑顔は、星明かりのせいか、少し寂しそうで、切なかった。
彼の瞳は、かつてあなただけを映していたあの頃のように、まっすぐにあなたを見つめていた。
星が瞬き、まるで二人の行く末を案じているかのようだった。
一度は終わりを迎えた二人の恋が、この星空の下で、再び動き出す。
その恋の始まりは、儚くも確かな光を放ちながら、夜空に溶けていった。