健康診断の翌日から、魔法訓練授業も始まった。
ノービスクラスでは自分で魔法を使うことが出来ない生徒もいるので、まずは属性ごとに振り分けて、それぞれの属性に合わせた基礎訓練からはじまるらしい。
そこでひとつ問題が生じた。
ぼくは闇《ケイオス》なんだけど、いままでに闇《ケイオス》の生徒がいた前例がないらしい。
ウェヌス先生
というわけで、(なぜか)ウェヌス先生と共に、火《イグニス》、水《アクア》、風《アエル》、地《テラ》の各属性の基礎訓練に参加することになった。
ウェヌス先生
ウェヌス先生
ユウゴ
ウェヌス先生
ウェヌス先生が笑顔でウインクする。
整った顔立ちの人にそんな仕草をされると、少しドキッとする。
ウェヌス先生
ユウゴ
ウェヌス先生につれて来られたのは広い海岸だった。
太陽がさんさんと降りそそぎ、白い砂浜が広がる、まるで海水浴場。
寄宿舎から30分くらい歩いただけで、こんな場所があるなんて知らなかった。
ウェヌス先生
すでに集まっていた、水《アクア》の生徒達に声をかける。
ナミスケ
集団の中にいたナミスケが、ぼく達に気づいて近づいてきた。
ユウゴ
発音は似てるけど。
ナミスケ
ナミスケが指さした先を見ると、ウェヌス先生は白衣を脱いで水着姿になり、いつの間にかビーチチェアとビーチパラソルを用意して横になっていた。
ユウゴ
ウェヌス先生
ユウゴ
ナミスケに口をふさがれて、セリフをさえぎられた。
ナミスケ
振り返るとナミスケの他にも、生徒の集団の中にウェヌス先生に熱い視線を送る男子が何人もいた。
ウェヌス先生も視線に気づいているみたいで、集団に対して手をふっている。
ウェヌス先生
先生があんな態度でいいんだろうか。
基礎訓練はガイド妖精が中心になって、進められていくらしい。
集団の中心にガイド妖精が浮いている。
ガイド妖精
ガイド妖精が海に向かって光を放ち、遠く離れた小島を指す。
ガイド妖精
ガイド妖精
反応は大きく2つに分かれた。
ナミスケ
と、ナミスケのように余裕の表情を浮かべる生徒達。
たしかに、ナミスケのような水を操る魔法が使えれば、2,000メートル離れた小島まで行くことも出来るだろう。
もう一方は、露骨に反発し不満の声を上げる生徒達。
泳げなかったり、魔法を使えない者は、2000メートルもの遠泳なんてまず出来ない。
ぼくも25メートルプールを足をつかずに泳ぐくらいなら出来るけど、海で遠泳なんてしたことはない。
ガイド妖精
ガイド妖精
ガイド妖精から無数の光の球があらわれ、地面に落ちると同時に、ボート、カヌー、サーフボード、ライフジャケットなどの海に関係する道具に変化していった。
ガイド妖精
ガイド妖精
【遠泳2000メートル】 ・海岸から2000メートル離れた小島まで、海をこえていく。 ・魔法、道具の使用は自由。 ・着順によりポイントあり。 1~5位、3ポイント。 6~15位、2ポイント。 16~30位、1ポイント。 ・小島にたどり着けず未クリアでも、ペナルティはなし。
ナミスケ
水《アクア》の魔法授業に集まったのは、約50人。
半分以上はポイントがもらえる計算だ。
中には途中で脱落する人もあらわれるだろうから、小島に着きさえすれば、ポイントが手に入るだろう。
ナミスケが言ったように、これはかなりおいしいと言える。
ガイド妖精
このガイド妖精の声に、みんながわっと道具に集まった。
人気があるのはボートやカヌー。 これがあれば小島までは簡単に行けるから、泳げない人だけでなく、泳げる人も取り合いに参加している。
次に争奪戦が起こっているのは、ゴーグルやシュノーケルなどのダイビング用品。 こっちは泳ぎが得意な人が取り合っている。 視界や呼吸を確保できるだけで、格段に泳ぎやすくなるからだ。
あとは浮き輪やライフジャケットなどが散らばっている。 これらは泳ぐための道具ではなく、溺れないための道具なので、遠泳に使うのは不向きだ。 誰も見向きもしていない。
もちろん、最初から道具になど目もくれずに、海に飛び込む人達もいた。 元から泳ぎに絶対の自信がある人達だ。 素人目に見ても無駄のない美しいフォームで、波をかき分けてぐんぐんと進み小さくなっていく。
ナミスケ
ナミスケはサーフボードを抱えて、海に飛び込んだ。
海の上でサーフボードに腹ばいに乗っかると、右手に魔法具《マギアツール》のダガーナイフを出して、さっそく魔法を発動する。
ナミスケ
ナミスケの周囲の海水が盛り上がり、波打ちはじめた。
ナミスケを乗せたサーフボードがスピードを上げて、ジェット噴射のように海面を飛んでいく。
その姿に感化されて、他の人達も次々と海に飛び出していった。
勢いに負けて、完全に出遅れてしまった。
ウェヌス先生
ビーチチェアでくつろいでいたウェヌス先生に呼びかけられた。
この体たらくじゃ闇《ケイオス》の観察にならないから、苦言を言われるのだろうか。
ウェヌス先生
ユウゴ
それ、スタート前に言わなきゃ意味ないんじゃ。
ぼく以外は、全員海に入ったあとだ。
道具の中に残されていたサメボート(サメの形のビニールボート)とカヌー用のオールを持って海に向かう。
ポイントがもらえる30位までには入れなかったとしても、未クリアにはならないように頑張ろう。
我ながら志が低すぎる気がするけど、性分だから仕方ない。
海上は、すでに激戦が始まっていた。
魔法を使える勢は、みんな魔法と道具をうまく組み合わせて、先頭集団を進んでいる。
水を操ってボートなどのスピードをアップさせる者、 海水を部分的に凍らせて上を走っていく者、 水中で呼吸が出来るのか海底を歩いている者までいる。
そこから遅れて、泳げる人達が普通に平泳ぎで泳いでいる。
そこからさらに遅れて、ボートや浮き輪などの道具だけに頼った、魔法も使えず泳げもしない集団が塊になってゆっくり進んでいる。
ぼくも出遅れこそしたが、何とか最下位集団に追いつくことは出来た。
???
???
ぼくに気がついた最下位の人達が、スピードを上げて引き離そうとしてきた。
ぼく、他の属性の人に『闇《ケイオス》』って呼ばれているんだ。
異端な存在なんだろうと感じてはいたけど、あまりいいイメージは持たれていないみたいだ。
ちょっとメンタルをやられたけど、ぼくだって負けたくはないのでオールをかく腕に力が入る。
最下位集団がレベルの低い小競り合いをしている中、先頭集団でも動きがあった。
ナミスケ
ナミスケがサーフボードごと、打ち上げられるように跳び上がった。
魔法で凍らされた海水の一部が、ナミスケの進行方向に流れていき、衝突したみたいだ。
事故が起こってすぐに、背後からものすごい勢いで風が吹いた。
ウェヌス先生だ。
さっきまでビーチチェアで昼寝していたはずなのに、海面を波紋すら出さずに走っていく。
ナミスケは衝突のショックで意識を失い沈んでいく。
ウェヌス先生は海の中に飛び込むと、ナミスケの体を抱き寄せると、また海上に浮き上がり、ナミスケを抱えたまま小島まで走っていった。
あっという間の出来事で、みんな動きを止めて見とれていた。
ガイド妖精
海岸から飛んで来たガイド妖精の声で、我に返ったみんなは遠泳を再開した。
目の前で大きな事故が起きたばっかりなので、安全に気をつけながら小島に向かっていった。
それから30分くらいして、ぼくも小島に到着した。
ガイド妖精
ゴールの小島で待っていたガイド妖精に、順位を告げられた。
ユウゴ
???
???
最下位集団で絡んできた人達が、35位くらいで到着した。
また心証が悪くなりそうだな。
ウェヌス先生
先に小島に来ていたウェヌス先生に労いの言葉をもらった。
ユウゴ
ユウゴ
ウェヌス先生
ウェヌス先生
少しいい加減なところも感じる先生だけど、そこは保険の先生。
生徒を助ける時の動きは、想像を絶するものがあった。
ナミスケは木の幹に背を預けて、ぼーっと座り込んでいた。
事故でリタイアしてしまったので、未クリアになってしまった。
ユウゴ
突っかかってこられるかもしれないけど、他にかける言葉が見つからなかった。
ナミスケ
意外にもナミスケの返事は穏やかだった。
ナミスケ
ウェヌス先生に熱い視線を送っている。
一体、どんな処置を受けたんだろう。
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