何もないはずの
暗く湿った雰囲気の
ある森の深く深く奥地に
その小屋はあるはずだ。
ハトダ
先生は確かにそう言っていた
尋
あんなとこに小屋が?
尋
人が住んでたっていうの?
ハトダ
わからない……
ハトダ
ただ
ハトダ
住まいとは限らない
ハトダ
何かの拠点だったのかもしれない
尋
うーん……
尋
たしかにね……
ハトダ
でもあの森は
ハトダ
近隣住民でさえ近寄らない
ハトダ
最早その場所だけ隔離されてるかのような
ハトダ
そんな場所だ
ハトダ
何かの拠点だったとしても
ハトダ
やっぱりあそこに小屋があるのは信じられない。
尋
そうよね
尋
で、先生はそこに行ったんじゃないかと?
ハトダ
うん
ハトダ
あの地域はお世辞にも
ハトダ
住みやすい場所とは言いにくい
ハトダ
食べ物ひとつにしても調達するのに一苦労だ
ハトダ
なのにだよ
ハトダ
山菜採ったり狩りにうってつけのあの森に
ハトダ
昔からあの地域の人達は入らなかったっていうんだ
ハトダ
おかしくないか?
尋
じゃあ先生は
尋
それを調べにあそこに?
ハトダ
たぶん……ね
ハトダ
先生と連絡がとれなくなる前に
ハトダ
ずっと言ってたんだ……
あそこには何かある
近隣住民でさえも近寄れない
何かが
私はそれを知りたい
ハトダ
先生はあの森に行ったんだよ
尋
じゃあ小屋は?
尋
その森の中にある小屋は誰が見つけたの?
尋
人が入らないような森よ?
先生はなぜそこに小屋があるって知ってたの?
ハトダ
わからない……
ハトダ
以前から調べてたみたいだから
ハトダ
何か秘密を掴んでいたのかも……
尋
…………
ハトダ
…………
ハトダ
…………なあ
尋
……いやよ
ハトダ
まだ何も言ってないだろ
尋
あそこに行こうって言うんでしょ?
尋
絶対にいや!
ハトダ
でもな
ハトダ
気にならないか?
ハトダ
人を寄せ付けないあの森に何があるのかを
ハトダ
何かを掴んだであろう先生に
ハトダ
あそこで何が起きたのかを
ハトダ
そして
ハトダ
あの森にある小屋とは……
尋
ちょっと!?
尋
先生を探しに行くんじゃなくて
尋
まさか好奇心のために……!?
ハトダ
勿論先生を探しに行くけど
ハトダ
どうしても
ハトダ
どうしても気になってしまうんだ!
ハトダ
あそこには何があるのか!
尋
…………
尋
狂ってるわ
尋
あなたも先生も……
ハトダ
俺は行くよ
ハトダ
一人でも
ハトダ
お前はどうする?
尋
……
尋
……
尋
……行くわ……
尋
ただし!
尋
私は先生を探しに行くのよ!
尋
先生の消息が何か分かり次第すぐに帰るわ!
尋
小屋も森もどうでもいいもの!
ハトダ
おけ
ハトダ
じゃあ明日準備でき次第
早速向かおう
尋
ねぇ
尋
やっぱりこの森どこかおかしいわ……
尋
ここまで歩いてきても
尋
ほとんど生き物の気配がないわ……
ハトダ
そうだな……
ハトダ
獣も鳥もなぜか虫の鳴き声さえしない……
尋
ゼッタイ変よ!
尋
静かすぎるわ!
尋
それになんだか空気が重い気がするし……
ハトダ
ああ……
尋
ねぇ、引き返しましょ!
尋
何かイヤな予感がするの!
尋
今ならまだ間に合うわ!
ハトダ
いや……行こう……
ハトダ
たしかにイヤな感じはするけど
ハトダ
獣なんかの気配がないなら
むしろ襲われる心配がなくて安全だ
ハトダ
帰り道も迷わないよう
ハトダ
木に等間隔にこの蛍光テープを貼ってある
ハトダ
大丈夫だ
ハトダ
このまま進もう
尋
……
尋
わかったわ……
ハトダ
くそっ!
ハトダ
けっこう歩いたぞ!
ハトダ
小屋は
ハトダ
小屋一体どこにあるんだ!
尋
やっぱり無理なのよ
尋
こんな広い森の中で
小屋を探すなんて……
ハトダ
くっ……
尋
大体あるかどうかもわからない小屋なんでしょ?
尋
きっと元々なかったのよ
ハトダ
いや……
ハトダ
そんなはずはない……
ハトダ
だって先生はたしかにあの時……
尋
え?
尋
キャッ!?
ハトダ
シッ!
ハトダ
静かにっ!
尋
な、な、なになに!?
尋
動物?
尋
何かいるの……??
ハトダ
わからない……
ハトダ
ここまで何の気配もなかったのに……
尋
……
ハトダ
行こう
尋
え……?
ハトダ
あの音のした方へ行ってみよう
尋
ウソでしょ……?
尋
熊かもしれないのよ?
ハトダ
ああ……
ハトダ
でも
ハトダ
ここまで何の気配もなかった……
ハトダ
物音さえもしないほどに
ハトダ
でもここにきてやっと
何かの気配がした!
ハトダ
きっと……
ハトダ
きっとあの先に何かがある
ハトダ
そんな気がするんだ!
尋
正気じゃないわ……
ハトダ
……じゃあ一人で戻るか?
ハトダ
ここまできて
ハトダ
一人で戻れるのか?
ハトダ
俺は一人でもこの先に行くぞ?
ハトダ
この目印で帰り道はわかるだろうが
ハトダ
不気味なこの森を一人で戻るか?
尋
…………
尋
…………
尋
……わかったわ……
尋
ついてく……
ハトダ
よし
ハトダ
行くぞ
ハトダ
!?
ハトダ
見えた!
尋
え?
尋
何が?
ハトダ
ほら、あの先!
ハトダ
何か建物のようなものが見えるだろ!
尋
あっ……
尋
ほんとに……
尋
ほんとにあったのね……
尋
こんなところに……小屋が……
ハトダ
ああ!
ハトダ
とうとう見つけたんだ!
ハトダ
あそこにきっと何かがあるはずだ!
尋
じゃあ……
尋
先生も……ここに……?
ハトダ
きっとそうだ!
尋
待って!
ハトダ
?
尋
さっき物音のする方に進んだらここに着いたのよね……
ハトダ
……ああ
尋
じゃあ、
尋
じゃあさっきの物音はなんなの!
尋
なにかあの小屋にいるんじゃないの!
尋
ねぇ!
尋
やっぱり危険だわ!
ハトダ
それでも……
ハトダ
ここまできたんだ、
行かなきゃ……
尋
ちょっと!
尋
あなたおかしいわよ!?
尋
何をこんなに執着してるの!?
尋
最善は
尋
戻って警察にここの事を教えることじゃないの!?
ハトダ
……
ハトダ
……そうだな
ハトダ
たぶんそれが正しいんだろうな……
尋
……そういえばあなた
尋
さっき何かを言いかけてやめたわよね?
尋
何?
尋
何があるの?
ハトダ
……
ハトダ
俺は
ハトダ
まだ先生の言葉でお前に言ってないことがある……
尋
……
尋
それは何……?
ハトダ
……それはな……
私はこの森について
ある仮説を立てた
この森は
危険だからとか
ここで祟りがおこるとか
神を奉ったところだからとか
そんなもので人が
近寄らないのではないのではないか
尋
え……?
ハトダ
そうだ……
ハトダ
昔の人は迷信とかを信じやすい
ハトダ
閉鎖的なこの地域ではなおのことそれは強いだろう……
ハトダ
だけどな
ハトダ
ここら辺の人達はそんなものでこの森に入らなかったわけじゃない……
尋
じゃ、じゃあ
尋
どっかのお金持ちの私有地とかで……
ハトダ
違うんだ……
ハトダ
…………
ハトダ
ここからはあの小屋に向かいながら説明しよう
ハトダ
先生の立てた仮説を……
尋
…………
ここら辺の地域の人達に
話を聞いてるうちに
ある違和感を覚えた……
みな一様にあの森のことは
わからない……
わからない……
と答えるのだが
何故か誰からも
畏怖や敬意を感じないのだ
尋
……
尋
どうゆうこと?
尋
ホントに何も知らなかっただけじゃないの?
ハトダ
違うんだよ
ハトダ
人はね
ハトダ
ホントにわからないものには
ハトダ
少なからず恐怖するものなんだよ……
尋
そうかしら……?
ハトダ
現に君がそうだ
尋
え?
ハトダ
君は何もわからないこの森をずっと恐れていた
尋
あっ……
ハトダ
君がそうだったように
ハトダ
この地域の人達も恐怖するはずなんだ
ハトダ
「得体の知れない」
っていう恐怖をね
ハトダ
ましてやさっきも言ったように
ハトダ
ここら辺は閉鎖的な地域だ
ハトダ
迷信などは数多くある
ハトダ
そしてそれを今も信じている人も少なくはない
ハトダ
なのにどうだ
ハトダ
この森に関してだけは
ハトダ
何の逸話もなく
ハトダ
恐怖すらしていない……
ハトダ
そこに先生は違和感を感じたんだ
尋
……
尋
ねぇ、
尋
先生の立てた仮説ってなんなの?
ハトダ
……
ハトダ
さぁ着いたよ
ハトダ
まずはこの小屋の中に入ろう
尋
ええ……うん……
尋
…………
尋
…………
尋
……ただの小屋……ね……
ハトダ
ああ……
尋
本当にここに先生はきたのかしら……
ハトダ
………………
ハトダ
……あった
尋
え?
ハトダ
先生の書き置きだ
尋
え?ホントに!?
ハトダ
間違いない……
尋
なんて!?
尋
何て書いてあるの!?
ハトダ
…………
ハトダ
「きっと君ならここまで来るだろうと思っていたよ」
ハトダ
「でもここから先は君は来てはいけない
君にはこっち側に大切な者達がいるのだから」
ハトダ
「心配するな、元気でな」
ハトダ
「ありがとう」
ハトダ
…………
ハトダ
…………
ハトダ
……先生は
ハトダ
俺がここまで来るだろうと
ハトダ
わかっていたんだ……
尋
え?
尋
え?え?
尋
どうゆうこと??
ハトダ
…………
ハトダ
先生の家族のことは知ってるか……?
尋
……ええ
尋
たしか……
尋
事故で奥さんもお子さんも……
ハトダ
そうだ……
ハトダ
あれはどうしようもない事故だったんだ……
ハトダ
車に乗っている最中に
ハトダ
急な落石で……
ハトダ
そして……先生だけが生き残った……
ハトダ
誰もどうしようもなかったんだ……
尋
……ええ
尋
そうね……
尋
悲しい事故だわ……
尋
……
尋
でもそれがこの小屋と何か関係が……?
ハトダ
先生の立てた仮説……
ハトダ
それは……
ハトダ
「この森は別の世界と繋がっている」だよ
尋
え?
ハトダ
実際に仮説を聞いたわけじゃない
ハトダ
でもたぶん間違いない……
ハトダ
だって先生は失踪する前に……
やはりあの小屋は
目印だったんだ
私はあの小屋に行ってくるよ
その小屋のさらに奥の森を
抜けた先には
ああ……
やっと会える……
ハトダ
…………
ハトダ
そしてこの書き置きを見て確信したよ……
尋
じゃ、じゃあ
尋
先生はこの小屋を抜けて
尋
さらに森を抜けて
尋
別の世界に行ったとでも……?
ハトダ
……ああ
ハトダ
たぶん間違いない……
尋
ちょっ
尋
ちょっと待ってよ!
尋
そんなの信じられないわ!
尋
ホントにこの先に別の世界があるとでも!?
ハトダ
……わからない
ハトダ
それは行ってみないとわからない……
ハトダ
もしあったとしても
ハトダ
そこに家族がいるかどうかもわからない……
ハトダ
でも先生は
ハトダ
それを信じて行ったんだ……
尋
……そんな……
尋
もし……もしよ……
尋
何もなかったら……?
尋
そんなの……
尋
そんなの悲しすぎるじゃない!
ハトダ
……うん
ハトダ
でもな……
ハトダ
この地域の人達は何で恐怖しなかったんだと思う?
尋
え……?
ハトダ
たぶん
ハトダ
知ってたんだよ……
ハトダ
この森がどこかに繋がっていることを
尋
……
ハトダ
でもそれだけじゃあ普通
怖がるもんだろ?
尋
……そうね
尋
どこかわからないとこと繋がっているなんて
尋
むしろ何もわからないより
尋
怖いと思うわ……
ハトダ
うん
ハトダ
俺もそう思う
ハトダ
でも
ハトダ
繋がっているなら
ハトダ
こっちから向こうだけじゃなく
ハトダ
向こうからこっちにも来れるんじゃないのか?
尋
え……?
ハトダ
そして
ハトダ
あの地域では
ハトダ
向こうの世界から来た人達が一緒に暮らしてるんじゃないか?
ハトダ
自分達と何も変わらず
ハトダ
普通の人として普通の生活をさ
尋
あっ……
ハトダ
うん
ハトダ
それなら恐怖はしないよね
ハトダ
向こうから来た人達と
自分達が何も変わらない
人間なんだから……
尋
たしかに……
ハトダ
むしろ守ろうとさえするかもしれない……
尋
……だから
尋
外部の人に何を聞かれても
尋
わからない……とこたえる……
ハトダ
うん
ハトダ
もしかしたら先生のように
ハトダ
悲しみを抱えてきた人達もいるかもしれない
ハトダ
それを知っているからこそ
ハトダ
守ろうとしているのかもね……
尋
そう……かもね……
ハトダ
きっと先生もそれを掴んだから
ハトダ
行ったんだと思う……
尋
ええ……
ハトダ
……
ハトダ
さっき森で物音がしたよね?
尋
え?
尋
あ……うん
ハトダ
あれももしかしたら
ハトダ
向こうの世界からの……
尋
そうかも知れないわね……
尋
…………
尋
……ねぇ
ハトダ
うん?
尋
そういえば先生の書き置きに
尋
あなたは来るなと書いてあったわよね?
ハトダ
そうだね
尋
もしかして
尋
行くつもりだったの!?
ハトダ
ああ……
ハトダ
……うん
尋
何でよ!?
尋
何をしに!?
ハトダ
あー……
ハトダ
えー……っと……
ハトダ
好奇心……?
尋
!?
尋
バッッッカじゃないの!
尋
あんたやっぱ頭おかしいわ!!
ハトダ
いや~
ハトダ
でももう真実はどっちでもいいや!
尋
はあ?
ハトダ
もし別の世界に行けなかったら
ハトダ
ロマンがないじゃん?
ハトダ
このまま
ハトダ
きっと別の世界に行けるはずだ
ハトダ
で終らせとこう
尋
死ね!
ハトダ
ハハハッw
ハトダ
さ、帰ろう!
ハトダ
もうひとつ説が頭にはうかんでいるんだけどね
ハトダ
向こうの世界に行っても戻ってこれないって説が……
ハトダ
こっちの方が森に生き物の気配がない説明ができるんだ
ハトダ
みな向こうの世界に行って戻ってこれないんだから……
ハトダ
でもこの説だと
ハトダ
この地域の人達がやばい事をしていた可能性が出てくるから
ハトダ
これは黙っておこう……
ハトダ
あの森でした物音もそのやばい事の帰り道かも……