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すごく今更ですが、読ませて頂きました✨ 情景描写や表現が綺麗で、余韻がすごいです... 最後は悲しい展開で終わらせるのではなく、始まりを想像させていて。 語彙力なくてほんと申し訳ないんですが、本当に面白かったです...!
夢浸さん コメント遅くなってしまい申し訳ございませんでした...。゚(゚´ω`゚)゚。 コメントありがとうございます! 彼と水月は会うべくして会ったのかもしれませんね☺️ そう考えるとファンタジー要素も含まれていますね(*´꒳`*)
『ガラス玉、雨上がって』
第二回 TELLER 文芸部
お題:雨上がり
透き通った、ガラス玉。 水色に遠く澄み渡る。
その小さな球体に映る風景は、 不思議なほどに光が乱反射して キラキラ煌めいて見える。
まるで、水中都市に居るような そんな錯覚に捉われる。
私はその美しさに魅了されつつも、 いつしか逸(はぐ)れてしまった友人を 必死になって探していた。
水月
水月
水月
雨の中、傘を差さず そして、ガラス玉を覗きながら 捜索活動をする女。
はたからみれば、 不審者の極みである。
水月
水月
迷子小僧への愚痴が つらつらと零(こぼ)れてくる。
そう考えると、 私って性格が悪いんだなって つくづく思い嫌になる。
私は行く宛もなくなったので、 近くにあった屋根付きベンチに へたり込むように座った。
ただ、単純に。普通に疲れた。
20分くらい探しても 一向に見つからないのだ。 不安よりもイライラが募ってくる。
水月
どんより曇り空を見上げると、 先ほどまで降っていた雨が ちらちらと小降りになっていた。
制限時間も、残り僅(わず)か...。
はあっとため息を吐く。
今日は最後に もう一度だけ、会いたかった。
そう想うと 心がきゅっと切なくなる。
雨粒に濡れたガラス玉を 一度指でなぞってみると、 私の頬に水飛沫(しぶき)が ぱちっと跳ねた。
水月
水月
小さな声でその人の名を呼ぶ。
途端、ガラス玉が一瞬キラリと 輝いたような気がした。
遠くの方から、声が聞こえる。
水月
急いでガラス玉を覗くと こちらに向かって 走ってくる男の姿が見えた。
驟太(しゅうた)だ...!
その影が大きくなるに連れて 私の心の鼓動も大きく鳴る。
驟太
驟太
ガラス玉の向こう側に映る彼もまた、 メランコリーな雨色に染まっていた。
彼はへらへらと笑いながら ガラスを覗く私の片目を見つめる。
水月
水月
水月
水月
水月
驟太
驟太
驟太は顔の真ん中で手を合わせた。
反省の色は、見た感じ、無いみたい。
水月
水月
私は思わず握り拳をつくる。
彼は私の心懸かりに 全く気付いていないようだった。
驟太
驟太
驟太
驟太
驟太
驟太
驟太
驟太
驟太
驟太
私が本気で心配していることに 気が付いた彼は、 焦りながら再度謝罪をする。
プラスアルファで、上目遣い。 私のことをウルウルの瞳で見つめる。
まるで捨てられた子犬のように。
水月
水月
水月
水月
水月
そんな目をされたら 何だって許しちゃうよ、と。
私は心の中で、小さく呟いた。
水月
水月
水月
私はなるべく 彼と目を合わせないように ふんわり軽く忠告をした。
驟太
彼は間延びした返事をする。
同時に、 私に左の手の平を差し出してきた。
水月
驟太
驟太
水月
彼はどれだけ 私をドキドキさせれば 気が済むのだろうか。
冷や汗というか、 緊張汗がドッと溢れる。
心臓がドキドキ、うねりをあげる。
そういえば、 初めて出会った時も そんな事を言われた気がする。
そんな可愛い顔をしながら 強請(ねだ)られたら 誰だって好きになっちゃうだろう。
なんて、考えている自分は多分 かなりちょろい女なんだろうなって そう思えてきて、切なくなってくる。
水月
驟太
水月
水月
ときめく心を落ち着かせながら 私は彼に向けて右手を伸ばす。
そのまま、 私の手先がガラス玉の奥に映って ゆらゆらと滑らかに泳ぐ。
驟太
さっと、手が触れて。 ぎゅっと。
私は、彼の手に包まれた。
暖かい手。柔らかい指先。とくん。
弾力のある、男の子の掌。とくん。
優しいぬくもり。とくん。
水月
今、私、超、幸せ、かも。
驟太
驟太
水月
驟太
水月
私はなるべく平然を装いながら 緊張汗を雨水に馴染ませる。
悟られてしまったら、恥ずかしい。 気持ちの逃げ場が、見当たらない。
水月
水月
水月
だから私は、私の中で一番の 憎まれ口を叩いてみるけれど
驟太
驟太
驟太
水月
なんだよ、甘すぎるじゃんか。
なんて、思うのだ。
雨が上がる頃には、 彼の姿もすっかり消えていた。
理由なんてない。
そういう運命だから、仕方ない。
一人取り残された私は 雨に濡れたガラス玉をハンカチで拭いて そのままカバンの中に仕舞う。
良いのだ、これで。
私と驟太の関係は、 これ以下でも これ以上でもないのだ。
私の一方的な気持ちを伝えた所で、 困るのはお互い様なわけで。
そんな呪われた関係を 私は別に厭(いと)いはしない。
水月
水月
水月
水月
雨の降る時にしか会えない。
そして、ガラス玉の 向こう側にしか居ない彼は
何らかの化け物なんじゃないかって つくづく思うけれど。
そう思った所で、 何が起こるわけでもないから
何も考えないようにしておこう。 って、私は常々に考えている。
水月
水月
水月
雨の日が好きになったのも 彼のおかげであるし
彼のせいでもある。
そういえば、
"彼と最初に出会った日"も雨だった。
その日は 梅雨入りを知らせる雨が降っていた。
私はいつものように 学校の校舎裏にあるバス停で 帰りの便を待っていた。
ふと、バス停の花壇を見ると 手の平サイズのガラス玉が 土に半分ほど埋まっていることに 気が付いた。
水月
私はガラス玉を土から取り出し 持っていたハンカチで拭いてあげた。
キラキラに燦めくガラス玉。
雨の露が鮮やかに光を吸収する。
私は、いつしか このガラス玉に夢中になっていた。
驟太
不意に男の人の声が聞こえて、 私は慌ててガラス玉を背中に隠した。
水月
水月
驟太
私の周りには、誰もいない。
けれど、声がする。
初めは超常現象の類いだと疑った。
驟太
超常現象だった。
ガラス玉から、声が聞こえるのだ。
水月
水月
私はそれまで心霊とかオカルトとか 信じない方だったけれど
今、自分が置かれている状況を鑑みれば 信じざるを得なかった。
驟太
水月
水月
水月
水月
驟太
まるで捨て犬を拾った気分になる。
水月
水月
水月
驟太
驟太
驟太
驟太
驟太は私の言葉に慌てていた。 その姿に私はちょっとだけ 可愛いと思った。
✴︎-✴︎-✴︎-✴︎-✴︎
驟太から"説明"を聞いたけれど ただ今の状況を 言い分けているだけだった。
驟太
驟太
驟太の目は、遠い青色をしていた。
そういえば私も、 少し妙だとは感じていた。
本来ガラス玉なら、光の屈折によって 映る景色は上下左右逆さまになるはず。
けれどこのガラス玉は、 ガラス玉越しに映る景色が そのままの像として見えている。
不思議に感じたが、 驟太に言及したくはなかった。
彼も、ガラス玉について 知らない様子だったから。
もしかしたら、そういう魔法が 掛けられているのかもしれないと。
奇跡が起こっているのかもしれないと。 私はそう、割り切る事にした。
今思えば、それからずっと ガラス玉については 深く考えないでいた。
水月
水月
私は彼と別れてから 家に到着するまでの間、 彼との思い出に気持ちを馳せていた。
水月
水月
水月
水月
雨で濡れた靴を脱ぐ。 玄関先に置いていたタオルで 髪の毛を乾かす。
水月
水月
水月
水月
水月
水月
水月
水月
私は本能的に ガラス玉の向こうにいる驟太に 恋してはいけないと悟っていた。
手を繋ぐことはできるが キスができない。
いや、キスの場合は ガラス玉に口づけをすれば オーケーなのだろうか。
そもそも実体のない人間を 愛することなんてできないだろうし
世間体を気にすれば 結婚だってできないだろう。
簡単に言えば 幽霊と結婚するようなものだから。
水月
水月
水月
それが、私にも驟太にも 幸せなことなんだと思惟(しゆい)する。
私はいつものように、 ガラス玉を 玄関棚の上に置いてある ふかふかのマットに置こうとした。
けれど。
水月
水月
水月
有り得ない現象が起こった。
さっきまで 歪みない球状を保っていたガラス玉が ハンカチの中でぐにゃりと萎んでいた。
ハンカチが濡れている。
まるで、大きな雨粒を 吸収してしまったかのように。
私はそのガラス玉の残骸を見て ゾクゾクと背筋が冷たくなった。
もしかして、驟太の身に 何かが起こったのかもしれない。
水月
私はすぐさま家を飛び出した。
また、迷子になっているんじゃないか。
そして、へらへらしているんじゃないか。
もしかしたら、その笑顔の裏で 悲しんでいるんじゃないかって。
そう思ったら、 居ても立っても居られなくなった。
私は色々な所を探した。
必死になって、探した。
彼と一緒に遊んだ場所。
彼との思い出の場所。
けれど、彼を見つけることは とうとうできなかった。
水月
水月
運命というのは 突然現れて 突然、消えていく。
けれど、そんな運命なんて あんまりじゃないだろうか。
私が悲劇のヒロインになるなんて 思ってもいなかったから。
そんなに強くない、人間だから。
勝手に涙が、溢れてきてしまう。
水月
水月
水月
水月
声が出ない。
それでも必死に 彼の名前を呼び続ける。
水月
水月
水月
水月
水月
水月
涙が止まらない。
何故かは分からない。
あんな憎たらしい奴のために 泣くわけなんて無いのに。
水月
水月
水月
水月
私の胸の内を明かす。 もう、彼の耳には 届かないのかもしれないけれど。
水月
水月
水月
水月
水月
水月
水月
水月
いつの間にか、虹が出ていた。
太陽の光が、私の目を焼く。
水月
水月
水月
水月
水月
水月
私は最大級の笑顔を虹に向けた。
ポツリと、私の頬に 水滴が落ちて、飛沫が舞う。
キラキラ。
綺麗な光。
水月
水月
水月
水月
水月
もう、届くことのない声だけれど
私は
声が枯れるまで
涙が枯れるまで
驟太の名を呼んだ。
この日は、
梅雨明けが発表された日だった。
水月
水月
水月
季節は夏へと変わり 蝉の鳴き声がうるさくなってきた。
最近まで梅雨だったのか 疑問に思うくらいの暑さだ。
だが、今日は8月にしては珍しくも 夏の雨が降っていた。
水月
水月
水月
私は自分自身のことが可笑しくなって 一人で笑ってしまう。
はたから見れば、 不審者の極みである。
水月
空に太陽の光が見えた。
そろそろ雨も止むのかなと考えると ちょっぴり切なくもなってしまう。
私は「よしっ」と気合を入れて 道具を片付けるために立ち上がった。
男の人
不意に、後ろから男の人の声がした。
振り返る。
水月
水月
水月
男の人
男の人
水月
水月
水月
水月
雨に濡れた男の人は、 へらへらしながら私に話しかける。
男の人
男の人
男の人
男の人
男の人
私の好きな笑顔だ。
男の人
男の人
男の人
運命とか幽霊とか、 ずっと前の私は 信じていなかったけれど。
水月
今の私なら、 そういうのも信じちゃうなぁって
思ってしまうのだ。
雨はもう既に
上がっている。