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南雲梗平
個人的に報告したい事があったので、南雲の兄貴を昼食に誘った。
青山琉己
注文品のハンバーガーにかぶりついていたせいで、思わず間抜けな声が出てしまった。
南雲梗平
真剣な顔をして、静かな口調で、南雲の兄貴は俺にちゃんかぶと別れるように進言してきた。
南雲梗平
折角、恋が実って、付き合えたというのに。何故、別れるように諭(さと)されないといけないのか、意味がさっぱり分からない。
青山琉己
納得いかず、俺はつい食い下がってしまった。
兄貴に対して、意見しょうもんなら、ヤキ入れされても文句は言えねぇ。
南雲梗平
されど、特に南雲の兄貴は気にした様子はなく、言葉を続ける。
南雲梗平
南雲の兄貴は、はっきりと名言しているようでしない。
青山琉己
南雲の兄貴が、ちゃんかぶに対して、恋心をいただいたのは知っていた。俺と同じ目でみていたから。
ちゃんかぶと付き合えなかったからといって、御為(おため)ごかしする人でもない。
南雲梗平
南雲の兄貴は視野が広い。南雲の兄貴には見えていて、俺には見えてないものが兄貴の瞳には映っている。だからこその発言なのだろう。
南雲梗平
南雲梗平
言葉を一旦区切ると、何時もの軟派な兄貴へと戻った。
南雲梗平
南雲梗平
この話はここで終わった。俺の心に靄(もや)を残して。
そして、この話をした3日後、天王戦争が始まり、その戦争の中で南雲の兄貴が命を落とした。
あの日の言葉の意味を聞けぬまま。
あの日の南雲の兄貴の言葉が、今でも蟠(わだかま)りとなり、俺の心の内を巣食っている。
ついぞ、この日が来てしまった。
南雲の兄貴の言葉の意味を嫌でも痛感せざるおえない出来事が起こってしまった。
和中蒼一郎
和中の兄貴の手がコップにあたり、茶を溢してしまう。
小峠華太
直ぐさま、和中の兄貴の側にちゃんかぶが駆け寄り、甲斐甲斐しく世話を焼く。
和中蒼一郎
自分の不甲斐なさで、舎弟の仕事を増やした事に対し、自責の念から、和中の兄貴が謝罪の言葉を口にする。
小峠華太
先の戦争で戸狩と激突し、和中の兄貴は片目に刀傷をおった。それにより、失明は免れたものの著しい視力低下がみられている。
小峠華太
視力低下に伴って、間隔認識が落ちている。だから、物との位置関係を把握出来ずに、物を取り損ねてしまう。
小峠華太
小峠華太
小峠華太
和中蒼一郎
小峠華太
同じ事務所にいるというのに、俺とちゃんかぶ達の間には、隔絶された世界が広がっていた。
誰にも入り込めない、二人だけの世界。
ちゃんかぶと付き合っているは俺なのに、そんな言葉がつい口から出そうになる。
ちゃんかぶの性格上、浮気の心配はない。憧憬(どうけい/しょうけい)する兄にの力になりたくて、世話役係を買って出てるだけに過ぎない。
頭ではそうだと思っていても、目の前で繰り広げられる微笑ましい光景さえ、妬ましく、嫉妬の炎が今にも燃え上がりそになる。
小峠華太
この時になって、俺は南雲の兄貴が言っていた『兄貴が好き過ぎる』という言葉の意味を身を持って知った。
好きなら付き合うな、確かに言い得て妙だ。
和中蒼一郎
ちゃんかぶが、お茶汲みの為、席をたったので、俺も席をたつ。
ちゃんかぶは、事務所の簡易キッチンにあるケルトのスイッチを押して、お湯を沸かし、次に、机に茶菓子を並べだす。
小峠華太
頼られた事が嬉しいのか、ちゃんかぶは、茶菓子を楽しそうに選んでいる。
小峠華太
小峠華太
ちゃんかぶの頭の中は、和中の兄貴の事でいっぱいだ。
それが面白くなくて、気づいたら壁際まで追い詰めていた。
ちゃんかぶに逃げられぬように、壁に両手をつく。
小峠華太
ちゃんかぶが、キョトンとした顔で見上げてくる。
あ、その顔かわいい。
青山琉己
でも、この表情を引き出したのは俺じゃなくて、和中の兄貴だと思うと腹立たしい。
青山琉己
小峠華太
困惑した様子をみせながらも、迷いなく、ちゃんかぶは俺の名を口にした。
青山琉己
青山琉己
青山琉己
それでも納得いかず、矢継ぎ早に質問を投げ掛ける。
俺の怒濤(どとう)の質問攻めに、ちゃんかぶが口を挟めずにいる。
別に困らせたい訳じゃない。
困った顔をさせたい訳でもない。
青山琉己
色恋に溺れて、こんな醜態(しゅうたい)を晒(さら)すなんて、本当情けねぇ 。
青山琉己
行く手を阻んでいた手を除けて、ちゃんかぶを解放した。
醜い嫉妬をみせた、こっぱずかしさから、背を向ける。
小峠華太
離れようとした俺の背中に、ちゃんかぶが抱きついてきた。
小峠華太
小峠華太
小峠華太
俺に向けられる、嘘偽りのない言葉にじんわりと心が温まっていく。
青山琉己
小峠華太
青山琉己
小峠華太
何故か、謝罪合戦に突入してしまう。
小峠華太
青山琉己
それが可笑しくて、お互いに顔をつき合わせ、吹き出してしまう。
二人の間にいい雰囲気が流れている。
雰囲気に乗って、ちゃんかぶに口づけようと頬を手のひらで包む。
段々と上体を屈めていく。
唇が重なるまで後1㎝。
後1㎝のところで、お湯が沸きましたと、空気を読まないケルトの自動音声に遮られてしまった。
小峠華太
青山琉己
ケルトのせいで、雰囲気はぶち壊しだし、キスする気も失せてしまった。
小峠華太
小峠華太
青山琉己
ちゃんかぶは、お茶を入れ直し、事務所へと戻っていった。
俺は言葉通り、適当にお茶菓子を物色しょうと机をみた。
青山琉己
机には、ちゃんかぶのスマホが置きっぱになっていた。
青山琉己
慌てて出ていたった為、スマホの存在を忘れたのだろう。
何となく、ちゃんかぶのスマホを手にとってみる。
手に取るまでは、他意などなかった。手に取った瞬間、良からぬ事を思いついてしまった。
青山琉己
スマホの画面に、パスコード入力キーが表示される。
青山琉己
青山琉己
青山琉己
青山琉己
俺の誕生日をフリック入力するとスマホのロックが解除された。
自分の誕生日をパスワードとして登録されていた事に、心が弾んだ。
しかし、喜びを噛み締めている暇はない。スマホがない事に気づき、ちゃんかぶが何時戻ってくるか分からない。
急いで、ちゃんかぶのスマホを操作し、GPS設定と盗聴機アプリを仕込んだ後、元の位置に戻した。
青山琉己
そこまでして、俺は正気を取り戻す。
青山琉己
こんなつもりじゃなかった。
華太は兄貴達、舎弟達からも引く手あまたで、付き合えるとは思ってなかった。付き合えたらいいなぐらいの感覚で好意を伝えた。
最初は気持ちさえ伝えられれば満足だったのに、付き合っていく内に、ちゃんかぶの全てが欲しいと考えるようになっていた。
ちゃんかぶと付き合うまでは、こんなにも自分が嫉妬狂いで、矮小だとは思ってもみなかった。
知りたくもなかった。
どうしてこうなってしまったのか、自問自答を繰り返す。
されど答えは見つからない。
自嘲に暮れる俺の脳裏(のうり)に『だから、そこは底なし沼だって、忠告しただろ?』とありし日の苦笑する、南雲の兄貴の姿が浮かんだ。
本当ここは底なし沼だ。沈んだら最後、岸には二度と戻れない。俺に残された選択肢は、沼の底へと沈んでいくだけ。
おわり
あとがき 今回は、おまけまで読んだら、タイトル回収される話。勿論、南雲ニキはちゃんかぶの本質まで見抜いた上の言動。実際問題、好きになってはいけない人はいるよねって話。 和ニキ眼切られた瞬間、和ニキ隻眼確定やなっと思ったけど、切られてるのって眼球結膜のあたりやから、病院早くいけば、失明せずに視力低下で済む可能性があるから、今回は視力低下設定にしてます。
おまけ
小峠華太
慌てて、キッチンへと駆け込む。
青山琉己
机の上においていたスマホを、青山の兄貴から手渡される。
小峠華太
小峠華太
青山琉己
小峠華太
青山琉己
青山琉己
小峠華太
俺は青山の兄貴を見送った。
青山の兄貴の背中が見えなくなるのを確認してから、スマホを開く。
スマホの画面に特に変化はなかった。だから、現在稼働中のアプリを調べてみる。
盗聴専門アプリは、ステルス機能を持つものがある為、デスクトップに表示されない場合がある。稼働中であることが前提だが、現在稼働中アプリを調べる事で発見出来たりする。
そして、俺の読み通り、稼働中のアプリには、俺がダウンロードした記憶のないアプリがダウンロードされていた。
小峠華太
しかも、遠隔操作タイプ。このタイプは盗聴機と違って、距離が離れていてもパソコンなどの外部操作から、遠隔操作出来るため、日常会話を盗聴したり、動画や撮影できたりできる。
小峠華太
盗聴アプリを設置されているのを確認し、俺はそのままズボンのポケットにスマホをしまった。
小峠華太
小峠華太
今にも小躍りしてしまいそうな程の充足感と幸福感に包まれる。
今日から、俺の生活一切合切は、青山の兄貴によって監視されていると考えるだけで、心が踊って、踊って仕方ない。
ずっと、青山の兄貴に愛でられる香月の兄貴が羨ましかった。付き合っている俺よりも、香月の兄貴と距離の近い青山の兄貴にやきもきしていた。
でも、それもこれも昨日までの話だ。
小峠華太
もう、やきもきしなくていい。だって、今日から青山の兄貴の頭の中は、俺で埋めつくされるだろうからな。
そう考えただけで、ゾクゾクとする。
小峠華太
今日から始まる、薔薇色の監視生活に思いを馳せて、俺は青山の兄貴の帰りを事務所で待つ。
おわり