Ωを拾いまして

ｶﾁ､ｶﾁ､ｶﾁ､ｶﾁ

社長室に夕陽が差し込んで窓の外を眺める母の表情はよく見えない

椅子がくるっと回って社長ではなくて母親の顔で彼女は微笑んだ

ｳｨｰﾝ

疲れた表情、でも少しスッキリしたような表情で彼女は帰ってきた

彼女は私をギュッと抱きしめてグルグルと回り始めた

嬉しそうに、子犬のようなキラキラした目で笑う彼女にこれ以上は何も言えなくなった

だって、こんなに嬉しそうに微笑まれたら何も言えないでしょう？

私もウジウジしてられない

変わらないと 彼女の隣に立つ資格を 自分で掴みとらないと

しばらくの休暇をもらって少し経ったとある朝

私は自分の耳を疑う言葉を彼女が言い放った

バイトをしたいと彼女が急に言い出した

まさか私に愛想がつきて一人暮らし…そんなことになれば私は1人では生きていけない…

もうこんなに…貴女に夢中になってしまっているのに…っ

彼女は真剣な顔で私を見つめた

アイツ…以前彼女を監禁していた番の人

そうか、外に出したら危険だからと閉じ込めているのは善意であってもその人と変わらないんだ…

それに、彼女が前向きに人生を歩もうとしているんだ、協力しなければならない

そして彼女はすぐにバイトを見つけ働き始めた

大切な人を見るように愛おしい人を見るように微笑む彼女を見て、私は席を立ち上がった

私が先に出会ったのに 私が先に、 好きになったのに

そう簡単に 出会って間もない貴女に取られるわけにはいかないの

バイト中 変な客に絡まれたなって思ったら まさかの宣戦布告

でも残念ね

私がそう簡単に引き下がる女な訳ないでしょう？

あの子の隣に立つ為に貪欲に価値を見出そうとしてるんだから

私の言葉に彼女は突然笑い始めた

普段は見せないような表情で彼女と話す貴女に少しソワッとしているとからかうように女性は私の肩を抱いた

優里という彼女の腕を掴んで私から引き剥がすと彼女は私の前に立った

でも、昔から一緒にいる貴女達が少し ほんの少しだけ羨ましい

私も、貴女と早く出会えていたら 番は貴女になっていたのかな