テラーノベルの小説コンテスト第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで

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第1話 - あ

2023年10月16日

#スカッと

タナカトシキ

ハルヒ

ユキさんお願い、腎臓をちょうだい！

ハルヒ

娘のミクルが病気で移植が必要なのよ！

ユキ

え、ミクルちゃんが…？

ハルヒ

ミクルを助けられるのはあなたしかいないの！

ハルヒ

夫は血圧高くて心配だし、本当は私が提供してあげたいんだけど、私も体が弱いから、

ハルヒ

手術に耐えられないのよ…！

ハルヒ

両親は既に他界したし、義両親は高齢だし…

ハルヒ

だからお願い！独身で子供のいないあなたが、私の子のために役に立てるチャンスなのよ！

ユキ

ん？

ハルヒ

あ、今のは不用意だったわ。忘れて頂戴

ハルヒ

ごめんなさいね、娘の命の危機に、気が動転して…

ユキ

いえ、気にしないでください

ユキ

ミクルちゃんは可愛い姪っ子ですし、喜んで協力させてもらいます

ハルヒ

本当！？ありがとう、娘のためにありがとう…！

～手術後～

ユキ

ミクルちゃんは大丈夫ですか？

ハルヒ

えぇ。大丈夫よ。手術は成功したわ

ユキ

よかった…

ハルヒ

ミクルには、ユキさんのお陰で生かされてるのよって教えてるわ

ハルヒ

ミクルの中で、あなたのくれた腎臓が生きてるのね…

ハルヒ

ありがとう。この感謝、私たち一生忘れないわ

ユキ

そんな、いいんですよ

ユキ

私も恩着せがましくするつもりはありませんから

ユキ

この先ミクルちゃんが好きなように生きてくれたら、それで十分です

ハルヒ

本当にありがとう…

ハルヒ

ミクル、難関高校への受験を頑張ってるのよ

ハルヒ

絶対に受かって、エリートへの道を進むわね！！

ユキ

応援してますよ

～１ヶ月後～

ハルヒ

あんたが高卒だったなんて聞いてないわ！

ユキ

え？

ハルヒ

どうして教えてくれなかったのよ！自分が高卒で工場勤務の底辺だってこと！

ユキ

底辺って…学歴や職業は臓器移植には関係ないと思いますけど

ハルヒ

いいえ、関係大有りよ！

ハルヒ

ミクルの中に、底辺の細胞が入ってしまったのよ！

ハルヒ

折角エリートの私に似て頭の良い子だったのに…

ハルヒ

ミクルが志望校に落ちてエリートになれなかったら、あんたのせいなんだからね！

ハルヒ

将来工場なんかで働くことになったらどうしてくれるのよ！

ユキ

そんな無茶な…

ハルヒ

こんな重大なこと黙っていたなんて、これって詐欺よ！

ハルヒ

知ってたらあんたになんか頼まなかったのに！

ユキ

え、でもあの時、娘の命を救えるのは私しかいないって…

ハルヒ

うぬぼれないでくれる？

ハルヒ

高卒なんかに頼むくらいなら、あんたの他にいくらだって探したわ！

ユキ

はぁ…

ハルヒ

ミクル、手術後成績も落ちてしまったのよ！

ハルヒ

これも全部、あんたの底辺遺伝子のせいだから！

ユキ

それ、手術のために入院していたからじゃないですか？

ハルヒ

責任逃れしないで！あんたのせいだと言ったらあんたのせいなのよ！

ハルヒ

高卒を黙って腎臓差し出して感謝されて、さぞいい気だったでしょうねぇ！

ハルヒ

あの時の感謝を返してほしいものだわ！

ハルヒ

とりあえず、慰謝料として300万円払ってちょうだい

ユキ

はい？

ハルヒ

高卒を黙っていて、可愛い娘に高卒の細胞を入り込ませて、

ハルヒ

娘の優秀だった成績を下げたのよ！ミクルの人生に関わることなのよ！

ハルヒ

ミクルの人生を台無しにしかねない行為なんだから、

ハルヒ

これくらいでも足りないくらいだわ！

ユキ

無茶苦茶ですよ。そんなお金払えるわけないじゃないですか！

ハルヒ

あら、私は知ってるのよ

ハルヒ

夫が腎臓移植のお礼って言って、あなたに50万円包んでたこと！！

ユキ

確かに50万円もらいましたけど…

ハルヒ

感謝されてお金までもらって嬉しかった？この守銭奴！

ユキ

守銭奴はどっちですか…

ユキ

大体、私はお義姉さんに頼まれて、体を切って臓器移植して、ミクルちゃんの命を助けたんですよ

ユキ

お義姉さんも感謝してくださってましたよね

ユキ

それなのに、どうして慰謝料払えなんて言われなきゃいけないんですか？

ハルヒ

あなた、恩に着せるつもりはないって言ってたくせに、

ハルヒ

やっぱり恩に着せて来るんじゃない！

ハルヒ

嘘つき！これも詐欺で訴えるから！

ユキ

恩に着せるつもりはなくても、恩をあだで返されたら流石に怒りますよ

ハルヒ

じゃあ何よ、あんたは産地偽造されても怒らないっていうの！？

ハルヒ

それと同じよ！

ユキ

意味わかりません…

ハルヒ

とにかく、300万円耳揃えて払ってもらうから

～数分後～

ミクル

叔母さん、ごめんなさい

ミクル

お母さんが酷いこと言って…LINEのやり取り、後ろから見ちゃったの

ユキ

ミクルちゃんが謝ることじゃないよ

ミクル

私は叔母さんにすっごく感謝してるよ

ミクル

叔母さんのくれた命、大切に生きようって思ってる

ユキ

ありがとう

ユキ

そう言ってもらえて救われたよ

ミクル

実は、お母さんおかしいんだ

ミクル

入院中、ほとんど見舞いに来てくれたことがなくて、

ミクル

世話は全部お父さんがしてくれたの

ミクル

それだけじゃない。入院前からお母さん帰ってこないことが多かったの

ミクル

パートだとかママ友旅行だとか言ってたけど、なんか怪しくて…

ミクル

それに、お父さんが叔母さんに50万円包もうとした時、

ミクル

お父さん、貯金額を見て『なんでこんなに減ってるんだ』って首をかしげてたんだよね

ミクル

聞かれたお母さん、凄く慌ててた…

ユキ

そっか、もしかしてお母さん、何かにお金をたくさん使ってしまって、

ユキ

それで300万円なんて請求してきたのかな

ミクル

多分ね

ミクル

お父さん、探偵雇ったりして色々調べてるみたい

ミクル

隠してるつもりだろうけどわかるんだ、そういうの

ミクル

お母さん、浮気でもしてるんじゃなきゃいいけどな…

ユキ

そ、そうだね。大変だね…

ユキ

私も、お兄ちゃんに色々聞いてみるよ

ミクル

うん

ミクル

あ、あと成績のことは心配しないで。すぐみんなに追いついたから

ユキ

そっか、それはよかった！

～数週間後～

ハルヒ

さっさと300万円払ってちょうだい！

ハルヒ

これ以上遅れたら、金額引き上げるからね！

ユキ

300万、使って何するんですか？

ハルヒ

何でそんなこと気にするのよ？いいから早く払いなさい

ユキ

エリートのお義姉さんがそんな大金を何に使うのか、知りたいんです

ユキ

パチンコ、ですか？

ハルヒ

へ？

ユキ

お兄ちゃん、お義姉さんがしょっちゅう家を空けることも、

ユキ

お金が急速になくなっていくことも怪しんでいました

ユキ

そこで、探偵を雇って調べていたんです

ハルヒ

そんな…

ユキ

最初は浮気でもしてるんじゃないかと思ってたんですけどね、

ユキ

明らかになったのは、ある意味浮気よりも恐ろしい事実でした

ユキ

いくらつぎ込んだんですか？パチンコに

ハルヒ

そ、それが何よ！

ハルヒ

母親は色々と大変なのよ！パチンコくらい、息抜きで打って何が悪いの！？

ユキ

貯金や、ミクルちゃんの学費にまで手を付けたんだから問題です！

ユキ

とてもミクルちゃんのエリート人生にこだわってる人とは思えませんね

ユキ

私に無茶な言いがかりで300万円請求したのも、パチンコのためですか？

ハルヒ

…そうよ

ハルヒ

最初は友達に誘われて、軽い気持ちでパチンコを打ってみたの

ハルヒ

そしたら見る見るハマっちゃって、やめたくてもやめられなくなってた…

ハルヒ

で、でももうやめるわ！

ハルヒ

これくらいで浮気より恐ろしいだなんて、大袈裟なのよ！

ユキ

まだあるんです

ユキ

お義姉さん、体が弱くてミクルちゃんに腎臓の提供ができないって言ってましたよね

ユキ

でも、できない理由は本当は他にあったんです

ユキ

だって、お義姉さんには提供できる腎臓がなかったから

ハルヒ

なっ…！なんでそんなことを…

ユキ

お義姉さんのスマホをお兄ちゃんがこっそり調べたんです

ユキ

お義姉さん、SNSで繋がった裏社会の人達に、腎臓を売ってたんですよね

ユキ

ママ友旅行と偽って長く家を空けていたのは、

ユキ

本当は臓器売買の手術の為だった…

ユキ

それで高額手に入れたものの、そのお金も全てパチンコに消えて行った

ユキ

お兄ちゃんにも怪しまれて、家のお金にはもう手を付けられない

ユキ

困り果てたお義姉さんは、パチンコ打ちたさに正常な判断ができなくなったのか、

ユキ

私に無茶な言いがかりをつけて300万円請求することにした…

ハルヒ

パチンコ打ちたかったからじゃないわよ！

ハルヒ

パチンコのために借金作っちゃって…それを返すために300万必要だったの！

ユキ

どっちでもいいですよ

ユキ

それにしても、エリートが聞いて呆れますね

ユキ

娘が生死の境をさまよっている時ですら、パチンコですか

ハルヒ

だ、だってやめられないんだもん！

ハルヒ

愛する娘が生死の境をさまよってる時だからこそ、

ハルヒ

辛くてパチンコに逃げるしかなかったのよ！！

ユキ

ミクルちゃんの入院費用にまで手を付けたくせに、何が愛する娘ですか！

ハルヒ

うるさい！底辺の工場勤務者のくせに！！

ユキ

確かに私は工場勤務ですよ

ユキ

それでも、家族を犠牲にして法まで犯すパチンコ依存症の母親よりは、

ユキ

真面目に働いてますしマシだと思いますけどね

ユキ

あ、私達臓器売買の証拠を持って警察に行くつもりですから

ユキ

臓器売買が違法なの、エリートならわかっていますよね？

ハルヒ

待って！親族の私を警察に売るつもり？

ハルヒ

やめてよ。母親がこんなことになったら、

ハルヒ

ミクルのエリート人生に傷がついちゃうじゃない！

ハルヒ

それに、子供には母親が必要でしょ

ハルヒ

だから、ミクルのためにこんなことやめてよ！

ユキ

安心してください。お兄ちゃんもミクルちゃんも、同じ気持ちですから

ユキ

こんな違法なことは見過ごせませんからね

ハルヒ

お願いやめて！！

ハルヒ

捕まって塀の向こうに行くのだけは嫌！

ハルヒ

そんなことになったら、もうパチンコ打てなくなるじゃない！！

ユキ

…呆れた。この期に及んでそれなんですね。結局やめる気なんかなかったと

ユキ

大卒でもエリートでも、ちょっとしたきっかけでここまで

ユキ

人間として底辺に転がり落ちるものなんですね

ユキ

可愛い姪にはぜひ、母親のようにならないでほしいものです

ハルヒ

うるさい！調子に乗らないでよ！

ハルヒ

独身子無しのあんたに私の気持ちはわからないわよ！

ユキ

わからないし、わかりたくもないですね

ユキ

お義姉さんがミクルちゃんに臓器提供できなくて、結果的に良かったのかもしれません

ユキ

だって、ミクルちゃんがお義姉さんと同じパチンカスになっちゃったら可哀想ですから

ハルヒ

臓器移植したからってそうなるわけないでしょ！無茶苦茶言わないで！

ユキ

お義姉さんが私に言ったのは、それと同じことですよ

～後日談～

ユキ

その後、お義姉さんは臓器売買の件で関係者もろとも逮捕され、塀の向こうに行きました

ユキ

勿論、兄とは離婚が成立

ユキ

出所後もパチンコを結局やめることはできず、

ユキ

碌な収入源もなく借金塗れになってしまったそうです

ユキ

何度も兄やミクルちゃん、私に金の無心に来ましたが、全員がお義姉さんとの縁を切りました

ユキ

更に、臓器売買の違法手術のために体を壊してしまい、

ユキ

それでも病院に行く金もなく、

ユキ

唯一の心の慰めであるパチンコに、益々のめり込んでいるのだそうです…

ユキ

ミクルちゃんは頑張って勉強し、無事第一志望の難関高校に受かりました

ユキ

『将来は政治家になって、パチンコとお母さんみたいな人をなくすために動く』と言っています

ユキ

叶うかはわからないけど、母親を反面教師にして頑張るんだよ！

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タナカトシキ

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