夏、それは一年の中で最も待ち遠しくて仕方ない時期。
面倒くさい学校とオサラバできて、昼間はその日の気分のままに、ダチたちと活気あふれる海やクーラーのよく効いたゲームセンターで暇をつぶし
夜は夏祭りに恋い焦がれるあの子と出かけ、花火を見上げながら愛を語らう。
…さあ、今年の夏は何をしようか?
今年の夏も気の合う仲間たちとキラキラした青春を…
送れるものだと信じ込んでいた。
チビ本(木本)
ビバ山(岡山)
谷トン(谷口)
谷トン(谷口)
吉田
今年は新学期早々、仲間に入ろうとしていたキラキラグループのリーダーの彼女を取ろうとした、という根も葉もない噂を立てられてしまい
クラス中の男女共に総スカンを喰らい、一匹狼の立場を余儀なくされている。
サッカー部も居心地が悪くなって辞めてしまったが、うちの学校には 「部活動には絶対に加入する事」というダルい校則がある為
どこの部活の幽霊部員になろうかと思案していた所、
本人の気の良さを最大限利用し、前の学年でノート要員にしていたチビ本に勧められて
部室もなく、この空き教室に追いやられている落ち目の将棋部に籍を置くことになった。
ビバ山(岡山)
ビバ山(岡山)
こいつはガリガリに痩せていて出っ歯なビバ山、もとい岡山。
ビバ山(岡山)
何か気に食わないことがあると、なにを言っているかイマイチ聞き取りづらいほど細い声でボソボソと不満を零す。
あれだ、普段からポケットにナイフを忍ばせていて、ある日突然キレて暴れ出しそうなタイプだな。
怒らせるとめんどくさそうだからあまり関わらないでおこう。
谷トン(谷口)
谷トン(谷口)
こいつは生活習慣病予備軍、谷トン、もとい谷口。
自尊心を脂肪と共に無駄に溜め込んだ嫌味なやつ。
二言目には自分がいかに優れているか、思慮深いかの自慢が始まるので
俺の精神衛生の為、こいつとも出来ることなら接触を避けたい。
チビ本(木本)
チビ本(木本)
2人の間に割って入って無理やり谷トンの口角を手であげるこのコロポックルはチビ本、もとい木本。
その小柄な体とは打って変わって主張が激しく、空気なんて読まずに人のパーソナルスペースにズカズカと入ってくる。
よく言うと人当たりが良く、悪く言うとうざい。
「あまり仲良くないオトモダチに馴れ馴れしく絡まない」と言う社交術を、幼稚園に戻って学び直してきてから俺の前に現れて欲しい。
他にも部員は居るらしいのだが、そのほとんどは幽霊部員と化しており、この空き教室に顔を出すのはこの3人くらいのものだと言う。
それなら俺だって部活に籍だけ置いて勝手にやらせて欲しいところだが、もしサボろうとしようものなら
チビ本に謎の嗅覚で俺のサボりを感知され、この部室へ強制連行されるのだ。
…ああ、この夏はこの陰気三人衆とずっと一緒だなんてなんの拷問だろうか。
…ジワジワジワ…
眩しい日差しが注ぐ屋外からは、グラウンドの運動部の掛け声や歓声と共にセミの大合唱が聞こえてくる。
この薄暗い空き教室の事など、外の奴らの頭の中には片隅にも存在しておらず
陽の当たらない奴らなどお構いなしにキラキラした青春を送っているんだろうな。
…確か蝉時雨って求愛の為の行動だったっけ。
落ちぶれた部活の事を考えたくなく、ぼんやりとしていたらそんな事を思い出した。
…つまり冴えない夏を送っている俺たちはセミにも劣る存在だってか!?
…ああ、悔しい…!!
虫ケラにも劣る、などなんと侮辱されている事だろうか!!
吉田
吉田
チビ本(木本)
谷トン(谷口)
谷トン(谷口)
ビバ山(岡山)
ビバ山(岡山)
セミ以下トリオが何を言おうと俺はもう止まらない。
こんな埃くさい部室に居られるか、俺は俺の青春を送らせてもらう!!
鞄を掴み、決別の意味も込めて教室の扉を力任せに閉めて廊下を駆けていってやった。
吉田
吉田
小野
目黒
吉田
吉田
吉田
吉田
小野
目黒
小野
目黒
吉田
部活に勤しんでいるはずの2人がゲーセンで不穏な会話をしていたので、思わず物陰に隠れてしまった。
小野
小野
目黒
目黒
目黒
目黒
目黒
…好き勝手罵りながらゲーセンから出て行くのを俺は黙って見ているしか出来なかった。
吉田
吉田
吉田
吉田
チビ本
吉田
吉田
谷トン
ビバ山
ビバ山
谷トン
チビ本
チビ本
チビ本
吉田
吉田
日も暮れようとする中、手足に寄ってくる蚊をはたきながら河川敷に赴くと…
チビ本(木本)
早速チビ本が子犬のように顔を輝かせて走り寄ってきた。
…野郎に懐かれても嬉しくともなんとも無い。
吉田
まさかこんな砂利が転がる河川敷で将棋を打とうと言うのだろうか。
いよいよ狂ってきたのか?
チビ本(木本)
チビ本(木本)
谷トン(谷口)
谷トン(谷口)
青いバケツとビニール袋を提げた谷トンがブーブーと文句を言う。
…あれ、そう言えばビバ山どこ行った?
吉田
チビ本(木本)
チビ本(木本)
そう言ってチビ本と谷トンはビニール袋の中身をがさがさと広げだした。
吉田
吉田
チビ本(木本)
チビ本(木本)
チビ本(木本)
谷トン(谷口)
谷トン(谷口)
…ただのありきたりな理系ジョークは要らないからな谷トン。
谷トン(谷口)
谷トン(谷口)
吉田
チビ本(木本)
チビ本(木本)
チビ本(木本)
ビバ山(岡山)
ビバ山(岡山)
辺りが夕焼けで染まる頃、谷トンとは違うビニール袋を提げてげんなりした様子のビバ山がこちらによろよろと歩いてきた。
谷トン(谷口)
吉田
ビバ山と谷トンの口論に割って入って袋の中身を尋ねる。
ビバ山(岡山)
ビバ山(岡山)
そう言いながら袋の中身のフードパックが見える様に袋の口をこちらに向けてくる。
「夕暮れでなければいけない」と言っていた辺り、恐らく夏祭り会場にでも行って買ってきたのであろう。
…
ビバ山が一人で夏祭り会場に!?
ボソ声で社会不適合者のビバ山が!!?
普段の様子から、もじもじと注文に手間取る様子を屋台のおっさんにイラつかれているビバ山が容易に想像できるため
それでも尚きちんと「おつかい」が出来たことに俺は驚愕した。
ビバ山(岡山)
ビバ山(岡山)
…は?全部?
まさかこいつ、心の声が聞こえるのか…!?
谷トン(谷口)
谷トン(谷口)
谷トン(谷口)
…
吉田
チビ本(木本)
チビ本(木本)
チビ本(木本)
チビ本(木本)
チビ本(木本)
チビ本(木本)
吉田
火のついたススキ花火を両手に持って爆走する木本を横目に見ながら
俺と一緒に小さい輪になって、線香花火に興じる岡山と谷口に話しかけた。
ビバ山(岡山)
ビバ山(岡山)
谷トン(谷口)
二人は手に持つ花火の先端の玉から目を離さず答える。
怒りは最もだ、言い訳する余地などない。
吉田
谷トン(谷口)
谷トン(谷口)
身じろいだ谷口の衝撃で、谷口と岡山の火の玉が落ちてしまった。
ビバ山(岡山)
吉田
ビバ山(岡山)
ビバ山(岡山)
ビバ山(岡山)
俺に背中を向け、次の線香花火を花火セットから出しながら岡山はポツリと溢した。
谷トン(谷口)
谷トン(谷口)
…もしかするとセミの声にブチ切れて、ヤケになった俺に感化されたと言うのか?
ビバ山(岡山)
ビバ山(岡山)
…当たり前の様に心の声に反応すんなよ…
チビ本(木本)
チビ本(木本)
谷トン(谷口)
谷トン(谷口)
谷トン(谷口)
谷トン(谷口)
谷トン(谷口)
…どうしても上位に立ちたいと見える、嫌味なやつ。
でも、こんな変な奴らだとしても噂に惑わされず、俺自身を見てくれる。
ウザいくらい明るいチビ本、根暗だけど優しいビバ山、偉そうだけど面倒見のいい谷トン。
…この凸凹3人組…
ビバ山(岡山)
…
…凸凹4人組での学園生活をこれから送っていくのも良いかもしれない。
#TELLER 文芸部 ベロニカさん案
テーマ:夕陽 追加お題:夏を感じる描写を入れる事
コメント
15件
真の友達、真の仲間とは何か。真髄迫る物語でした✨ なんだかんだで気が合う凸凹カルテットはこれから互いにしのぎ削り合って一つの綺麗な丸を形成していくのですね🤔 一人一人のキャラが際立ったドタバタ青春劇、とても面白かったです!☺️
外野から見たら暗いかもしれないけれど、彼からしたら立派に青春真っ只中なわけで。タイトル通り「ダーク・アオハル」、立派に夏!アオハル!で、とても良かったです。彼らに幸あれと思ってしまいました。