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知らなきゃよかったこと

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知らなきゃよかったこと

1 - 知らなきゃよかったこと

♥

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2025年05月05日

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知らなきゃよかったことがある_

クラスの男子の余命_

それを知ったのは、 合唱コンクール本番1ヶ月前だった_

どうして、
そんな大事なこと、
僕に教えたの?

だっておまえは、
ピアノの伴奏者だし、
当日、
俺が指揮できるか分からないじゃん

と彼は言った。

私は鍵盤に頭を伏せて、 ダーンと心臓に 深く響くピアノの音をならした_

彼は

ほら、顔あげてよ

と僕の肩に手を置いた_

俺がいなくても弾けるように、
練習を続けよう

それから僕たちは毎日、

クラスみんなと合唱した後に、 こっそり練習を重ねた_

これでもう、
俺がいなくても弾けるね

いなきゃ無理だよ、

いいや、
だっておまえ、
目閉じながら弾いてるよ

彼の指揮をみていると、 涙が出そうになる

僕はもう、 彼が指揮をしていなくても、 いつも目で追っていた_

彼の白くて細い腕があがる、

彼と目を合わせ、

私はすこし悲しげに笑う、

白くて儚い彼の手のひらが、

宙に線を描いて

それじゃあ、いくよ_

って、 彼の口角が上がる、

僕は深呼吸して、 彼とひとつになる_

本番当日、 僕たちの合唱に指揮者はいなかった_

それなのに、

みんなの声はどのクラスよりもそろっていて、

みんな涙を流した_

ねえ、
どうして指揮者に立候補したの?

おまえは知らなくていいよ、
そんなこと

彼が亡くなって少しして、

音楽室の黒板に落書きをみつけた_

それは彼が消し忘れた、 私への唯一の秘密、

『スキ」の2文字だった_

そう言えば、 彼はよく、 僕に無駄に手を振っていた_

指揮をしているのだと、 勘違いしていたけれど、

あれはきっと何度も何度も、 その2文字を描いていたんだと思う_

無邪気に手を振る彼の姿、

僕は今日も放課後_

ピアノを弾く_

彼に捧ぐ恋の旋律_

『 スキ 』

と言う2文字を

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