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涼やかな夏の早朝
開けっ放しの窓から部屋へ抜ける風が カーテンをひらひらとはためかせる。
狛
狛
あの日から数年が経ち 僕は大学生になり学校の近くで 一人暮らしを始めた。
勿論あれから一度も彼とは会っていない。
僕の心にぽっかりと空いた穴は 時間が経過するにつれて
少しずつ薄膜が貼り ゆっくりと蓋がされていた。
まるで夢だったかのように。
通勤通学の人の喧騒に紛れて 僕は足早に学校へ向かう。
駅前の街頭ビションはいつも通りに ニュースを放映していて、 毎朝のようにそれを聞きながら歩く。
昨夜未明、東京都XX区XX町で 身元不明の遺体が発見されました。
警察はこの事件に関わっているとみられる 巨大犯罪組織“梵天”の幹部 灰谷 __
狛
僕は足を止め街頭ビションを見上げた。
僕の中に空いた穴を塞ぐ薄膜は こうして数年間何度も剥がされるのだ。
通行人
通行人
行き交う人々の様々な意見が耳に入る。
それに同意することも反発することもなく 僕はそれを聞き入れる
だって何ひとつ関係がないから。
そして彼の面影を感じて止めた足を 僅かな寂しさとともにまた動かすと 前方から来ていた人と肩がぶつかる。
狛
狛
ぶつかった人をちらりと見遣るが 深く被ったフードから 顔を覗くことは出来ない。
過ぎ去ろうとしたとき 手首を掴まれる感覚がした。
狛
竜胆
フードを浅くずらして 紫色の髪と垂れた目でこちらを覗く。
竜胆
にやりと口角を上げた彼が 僕の耳元で囁いた。
狛
狛
竜胆
竜胆
あの頃と何も変わらず彼は自由だ
僕はそれがとても羨ましい
狛
竜胆
たとえ世間が僕らを 好奇な目で見たとしても
誰にも理解されなくても、
狛
狛
狛
竜胆
竜胆
竜胆
竜胆
相変わらず彼はずるいな
僕に選択を委ねてくる。
狛
狛
彼は拍子抜けしたように ぱちくりと瞬きを繰り返して 意味を理解し笑いを吹き出した。
竜胆
竜胆
狛
狛
僕の手首を握る手が解けて 次は手のひらを握った
そして人の波に紛れる。
停滞した僕らの歯車がゆっくりと動き出す
もう戻れないと分かっていながら 自ら闇へ溶けるのは少し怖いけれど
僕はこの手を離したくない。