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第1話 - あ

2023年12月19日

#恋愛

結城　真矢

アンナ

ちょっと、タケル

タケル

なんだよ？

アンナ

なんだよ、じゃないでしょ？

アンナ

机の上に成績表、何も言わずに置いていって...

アンナ

しかも、1学期より随分下がってるじゃないの

アンナ

どういうこと？何があったの？

タケル

どういうこと、って言われても...

タケル

頑張って、その結果だったんだよ

タケル

しょうがないじゃん

アンナ

あのねぇ、しょうがない、だけじゃもうすまないのよ？

タケル

なんだよ、いきなり...

タケル

夏休み中とか、必ず結果出るから大丈夫、とか...

タケル

言ってたくせに

アンナ

だって、結果が出るのは秋以降、って塾の先生から言われたんだもん

アンナ

だから、母さんもタケルのこと信じて待ってたけど...

アンナ

全然伸びでないじゃない

アンナ

しかも、苦手な数学なんてもっと下がってる

アンナ

タケル、こんなんで第一志望の高校、本当に行けると思ってる？

タケル

そんなん聞かれても、わかんないよ！

タケル

俺に、受けるな、って言いたいの！？

アンナ

そういうわけじゃないけど...

アンナ

でも、もう2学期が終わって、これから受験本番なんだし、

アンナ

もう一段階レベルを下げた高校も、検討した方がいいんじゃないの？

タケル

イヤだよ

タケル

俺は、妥協なんてしたくないし、サッカーが強い第一志望の高校に行きたいんだ

タケル

だから、絶対にあきらめない

アンナ

あのねぇ、いつまでも理想語ってても駄目なの

アンナ

去年まで、うちの県は2校受けれるようになったけど、

アンナ

今年から1校までしか受けれなくなったんだから

アンナ

少しは現実見て、考えなさい

タケル

まだ、12月だし

タケル

ギリギリまで待ってみてもいいでしょ？

アンナ

ギリギリ、って...

アンナ

もう、母さん十分待ったでしょ？

タケル

とにかく、志望校は変えないから！

アンナ

あっ！ちょっと待ちなさい！

～その日の20時～

ケイタ

おい、タケル

ケイタ

今日の塾長との個人面談で言ってたこと、本当なんだよな？

タケル

本当だけど？

タケル

なんか言いたいことでもあんの？

ケイタ

言いたいことなんて、ありすぎるわ

ケイタ

まず、お前に今の第一志望校はレベルが高すぎる

ケイタ

志望校変えろ

タケル

なんで、兄ちゃんにそんな指図されないといけないんだよ

タケル

俺、絶対に変えないから

ケイタ

あのなぁ、もし落ちたら、って最悪な場合のことも考えろよ

タケル

滑り止めの高校はもう受かってるじゃん

タケル

挑戦して、ダメだったらそこに行けばいいだろ？

ケイタ

そこも私立で金かかるし、家に迷惑かけること、分かってんの？

ケイタ

お前は効率よくできないんだよ

ケイタ

今から結果でなきゃ、もう無理

ケイタ

経験者の俺が言ってるんだよ

タケル

兄ちゃんは、2校受けれたからプレッシャーとかあんまりなかったからいいよな

タケル

ギリギリまで結果でなくても、一校はもう一段階レベル下げた高校にすればいいんだから

タケル

ラクでいいよな

ケイタ

そうやって、システムのせいにするなよ

ケイタ

そんなんだから、甘えたわがままな性格になるんだよ

ケイタ

いい加減にしろよな

タケル

別に、甘えてるわけじゃねーし

タケル

俺は、最初からあきらめてあとから後悔したくないだけなんだよ

タケル

兄ちゃんは早いうちから諦めたみたいだけど

ケイタ

あのなぁ、

ケイタ

俺よりも成績悪いお前が、サッカーが強い今の志望校に行けるわけないんだよ

ケイタ

俺でも最後の最後まで、E判定だったんだから

ケイタ

E判定も幅は広いけど、お前は本当に枠外のE判定なんだよ

ケイタ

諦めろ

タケル

もし、ダメでも俺は最終的に母さんと決めるから

タケル

だから、兄ちゃんに決定権はないだろ

ケイタ

ほんとによ～頭固いな～

ケイタ

頑固なところ、昔から全然変わってないよな

タケル

そっちはすぐに諦めるところ、昔から変わってないよね

タケル

挑戦する前からやめろ、って人にいうところ、

タケル

それって、自分のこと守ってるだけじゃん

ケイタ

それが？なんか悪いの？

タケル

かっこ悪い、って言ってるんだよ

タケル

そういうところ、マジで嫌い

ケイタ

あっそ

ケイタ

勝手に言ってれば？

ケイタ

そのうち、結局ギリギリになって志望校の点数に足りなくて、

ケイタ

泣く泣く諦めることになるに決まってるんだ

タケル

じゃあ、今度の実力テストで結果出せばいいだろ？

ケイタ

何だよ？出せんのか？

ケイタ

もう、あと2週間くらいしかないんだけど

タケル

今までも勉強は頑張ってきたんだし、俺ならできるよ

タケル

だから、今度の塾の実力テストで８割を取ることができたら、

タケル

俺に志望校受けることに対して、口挟まないでよ

ケイタ

相当、自信あるんだな

ケイタ

いいよ、分かった

ケイタ

そしたら、楽しみにしてるわ

~実力テスト返却日～

アンナ

タケル、ちょっと話があるの

アンナ

実力テストのことで

タケル

あれ？母さん、もう結果知ってるの？

タケル

合計点数、かなり上がったでしょ？

タケル

特に、苦手な数学なんて８割を取れたんだよ！

アンナ

塾長の先生から、カンニングしたかもしれない、って

アンナ

言われたのよね

タケル

え...？

タケル

俺、そんなことしてないよ！

タケル

全部、自分の実力だって！

アンナ

そんなこと、言われてもね

アンナ

見た、って言う人がいるのよ

タケル

誰？そいつ？

タケル

テスト中に周りのことみるなんて、相当余裕があるやつなんだな

タケル

俺のこと、なんかはめようとしてるに決まってる！

アンナ

そんなはめるなんて、しないと思うけど？

タケル

母さん、誰が先生に言ったか、聞いたの？

アンナ

ケイタが最初の目撃者よ

タケル

え？兄ちゃんが？

アンナ

そうよ

アンナ

数学の授業中、タケルがきょろきょろしてて、

アンナ

隣の席に座ってたいつも、数学が得意な生徒の答案用紙を、チラ見してた、って...

アンナ

お兄ちゃんの言うこと、本当なの？

タケル

本当じゃない！そんあの、ウソに決まってるじゃん

タケル

俺、絶対にカンニングなんてしてないから

アンナ

でも、本当に見た、って言ってるし...

アンナ

タケル、ずっと部活一本でやってて、勉強では成果見られなかったじゃない

アンナ

さすがに母さんも、

アンナ

タケルの点数の上がりようも、急すぎてビックリしてるのよ

タケル

何だよ、それ

タケル

俺のこと、信じてくれないの？

アンナ

全く信じてないわけじゃないけど...

アンナ

でも、ケイタの言うことなら本当なのかな、って...

アンナ

タケル、今回の実力テストで結果が出なかったら、

アンナ

第一志望校は諦める、ってお兄ちゃんと賭けてたんでしょ？

アンナ

それで、ちょっとずるしちゃおう、なんて思ったんじゃないの？

タケル

兄ちゃんも、母さんも...

タケル

2人してなんで俺のこと信じてくれないの？

タケル

賭けてたから、マジで本気出して頑張ったんじゃん！

アンナ

タケルが頑張ったのは、分かってるけど...

アンナ

でも、ケンタから聞いてたのよ

アンナ

最近、タケルが塾の授業中でもよく寝てる、って...

アンナ

だから、ちゃんと授業聞いてるのか心配してたのよ

タケル

俺の努力は、なんだったんだよ

タケル

俺、かなり真剣に頑張ったのに、誰もこの努力、認めてくれないんだ

タケル

何のために頑張ったんだよ、俺...

アンナ

頑張っていたのは、分かってるわよ

タケル

じゃあ、俺第一志望の高校は何言われても受けるから！

アンナ

タケル！ちょっと待って！

～3日後～

ケイタ

ねえ、母さん

ケイタ

タケルのことがちょっと話があるんだけど

アンナ

いつも、塾で様子見てくれてありがとうね

アンナ

私も、ちょうど話があるの

ケイタ

そう？

アンナ

ケンタから先に話して

ケイタ

分かった

ケイタ

タケルがさ、志望校を勝手に変更したんだ

ケイタ

最後の実力テストでは成績上がったけど、

ケイタ

最後のテストだけで結果出した、っていうのはやっぱりリスクあると思うから、

ケイタ

受けるのはやめた方がいい、って塾長と話したんだよ

ケイタ

それで、母さんに最終的に意見聞こうと思って

アンナ

なるほどね

アンナ

まあ、ギリギリ、っていうのは確かにそうね

アンナ

母さんも結果見て、厳しいかな、って思ったわ

ケイタ

でしょ？

ケイタ

結局、実力テストのカンニング疑惑はうやむやのままだけど...

ケイタ

少しでも疑いがあるなら、やめた方がいいと思うんだ

アンナ

そっか...

アンナ

母さんはね、

アンナ

タケルは第一志望の高校、受けれる実力はあると思うわ

ケイタ

は！？

ケイタ

母さん、何言ってんの？

ケイタ

今まで、タケルの学力は足りない、って思ってたんでしょ？

ケイタ

カンニングのこともあるじゃん

アンナ

それなんだけど、塾で同じクラスの子が、家に来てわざわざ教えてくれたの

アンナ

タケルは、カンニングなんてしてないよ、って

ケイタ

え？

アンナ

その子、後ろの席にいたらしいんだけど、カンニングなんてしてないよ

アンナ

って教えてくれたの

アンナ

ケンタ、タケルの子とはめようとしたの？

ケイタ

そんなわけないじゃん！

アンナ

でも、タケルが受けようとしてる第一志望の高校って、

アンナ

ケンタが受けたかったけど諦めたところえでしょ？

ケイタ

まあ、そうだけど...

ケイタ

それがどうかしたの？

アンナ

プライドの高いケンタのことだもん

アンナ

弟のタケルに、自分より上の高校に行かれるのが嫌だったんじゃないの？

ケイタ

そんなわけないじゃん

アンナ

じゃあ、なんでカンニングした、なんてウソついたの？

ケイタ

それは、俺の見間違いだったよ

アンナ

ごめん

アンナ

ケンタは知らなかったかもしれないけど、

アンナ

タケルはちゃんと努力していたわよ

ケイタ

でも、授業中は寝てばっかりだったんだよ

ケイタ

そんなんで、成績なんて上がるわけない、って思うじゃん

アンナ

まあ、タケルが頑張りすぎて本末転倒になっちゃったわよね

ケイタ

え？頑張り過ぎた？

アンナ

これでも16年くらいあんたたちの母さんやってんの

アンナ

頑張ってるところくらい、ちゃんと見てるわよ

ケイタ

え？どういうこと？

アンナ

タケルね、本気で第一志望の高校に行きたくて、苦手な早起きも頑張って、

アンナ

朝から勉強してたのよ

ケイタ

えっ？そうだったの？

アンナ

そうよ

アンナ

それで、授業中も眠くなっちゃったのよね

アンナ

ケンタは、大学の授業が午後からの日が多くて、

アンナ

あんまり早起きしてなかったから、知らなかったと思うけど

ケイタ

全然、知らなかった...

アンナ

ケイタ、もうちょっとだけタケルのこと信じてあげなさいよ

アンナ

タケルは負けず嫌いだけど、ケイタのこともお兄ちゃんをして信頼してるんだから

ケイタ

えっ？タケルが？

ケイタ

そんなわけないじゃん

ケイタ

いつも俺には警戒心むき出しだよ

アンナ

タケルからは聞いてないかもしれないけど、

アンナ

第一志望の高校を目指したい、って思ったきっかけはケイタなのよ

ケイタ

そうなの？

アンナ

ケイタは第一志望の高校には行けなかったけど、

アンナ

でも最後まで文武両道で頑張ってたところがすごい、って

アンナ

それで、自分も兄ちゃんみたいになりたい、って言ってたわよ

ケイタ

そんなこと言われても...信じられないよ...

アンナ

別に、信じてとは言わないけどさ

アンナ

あんたたち、結構似てるところあると思うのよね

アンナ

だから、そんな足引っ張り合うようなことしないで、

アンナ

助け合っていきなさい

ケイタ

ごめん、タケルのこと疑ったりして

アンナ

それは、母さんに言うことじゃないわよ

アンナ

まずは、タケルと2人で話し合ってね

ケイタ

うん、分かった

アンナ

じゃあ、母さんは家のことでやることあるから、

アンナ

あとは2人で仲良くしてね

～後日談～

タケル

その後、兄ちゃんは俺が希望する第一志望を受けることを許してくれました

タケル

俺が真剣に受験したい、ということを認めてくれて、分からないところも教えてくれたのです

タケル

そして、俺は晴れて第一志望校に合格することができ、春から進学します

タケル

兄ちゃんとも仲直りでき、自分の志望校に行くことができて、本当に今は幸せです

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結城　真矢

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