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数分後
伏黒恵
五条悟
恵が泣き疲れて眠ってから数分間。
僕は、その場から動けなかった。
背中を冷や汗がつたう。
手が小刻みに震えている。
…本当は、分かっていた。
恵が勝算のない相手には無闇に 突っ込んだりしない人間だということ。
どれだけ辛くても、苦しくても、 誰にも頼らず、1人で抱え込んで、 耐えようとしてしまう性格だということ。
いつも心のどこかで、 孤独を感じてしまっている、恵の思いも。
全て、分かっていた。
…分かっていた、つもりだった。
五条悟
まだ幼かった恵を、この世界に 引き入れてしまったのは。
紛れもない僕だから。
だから、恵には強くなって欲しかった。
いや、強くしなければいけなかった。
恵を失わない様にするために。
だから、稽古も人一倍厳しくした。
恵を強くするために。
恵を死なせないために。
それが、八つ当たりになって、 恵を更に追い込んでしまっていると 分かっていたのに。
僕は、恵を傷付ける事を辞められなかった。
ましてや、新しく出来た同級生の二人を 起爆剤として称した上に、 恵の比較対象として利用した。
それを自分のエゴなんかではなく。
恵のためだと本気で、そう思っていたから。
でも違った。
僕は、知らぬ内に焦っていたのだろう。
その焦りを、全て恵にぶつけた結果。
恵が、自傷行為をするまで。
恵が僕の前で過呼吸を起こして、 拒絶反応を起こすまでに、 恵を追い込んでしまったのだ。
五条悟
恵が任務先で過呼吸を起こして倒れたと 聞いた時、柄にもなく僕は焦って、 慌てて高専の医務室へと駆け込んだ。
そして、僕の眼が捉えた景色は。
何事も無かったかのように、 すやすやと眠っている恵の姿。
無事で良かったと思う安心感と同時に。
僕の中には、怒りが湧いてしまったのだ。
ふざけるな、どうして対した事のない任務先で、命を投げ出すような行動を取った上に、悠仁達を心配させてるんだ、と。
その時の僕は、命を軽んじている恵の行動に、どうしても許せなかったのだ。
だからあの時。
僕は過ちを犯してしまった。
任務で心身共に疲れきっていた恵を起こして、恵の存在すらも否定するような、 暴言や罵倒の言葉を吐き出した。
途中で、言っている事が支離滅裂だと 分かっていても。
僕は恵を否定し続けたのだ。
その結果、恵は僕の前で過呼吸を起こした。
いや、過呼吸を起こさせてしまった。
小さい頃から変に我慢強くて、 どんなに稽古を厳しくしても 一度も泣かなかった恵が、 僕の前で、初めて涙を見せた 瞬間でもあった。
ボロボロと泣きながら「ごめんなさい」と 謝る恵を、ただただ見続ける事しか、 出来なかった。
僕が恵に怒鳴っている間。
どれだけ怖い思いをさせて しまったのだろう。
どれだけ、恵を苦しませて しまったのだろう。
どんなに謝っても、許させる事じゃない。
「捨てないで」
「もっと強くなるから」
「俺のこと嫌いなのに」
この言葉は、紛れもない恵の本音なんだ。
こんな言葉、普通の高校生が 放つ言葉ではない。
そこまで恵を追い詰めてしまったのは。
紛れもない、 僕自身なんだ。
五条悟
五条悟
伏黒恵
すっかり冷たくなってしまった 恵の顔を撫でると、 僕の手が温かかったのか、 眠りながら、僕の手に、すりっ…と、 寄りかかってくる。
恵が次に目覚めた時、 何と声をかけたら良いのだろう。
なんと謝れば良いのだろう。
数週間前に巻き戻せたら、 どれほど良かったのだろう。
そう思う程に、僕は幾つもの選択肢を 間違えてきたのだ。
ザーッ…ザーッ…ザーッ…
窓の外では、激しい雨が降り続けている。
五条悟
伏黒恵
五条悟
五条悟
五条悟
五条悟
僕の声が恵に聞こえることは無い。
何故なら、僕の声は。
雨の音で、掻き消されてしまうから。
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コメント
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はああわあわあ最高すぎます。体調に気をつけてゆっくり書いてください。