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りあ
空よりも濃い青い海、どこまでも広がる山。
なんて小さい町なんだろう。
この街から出て行きたいと、何度思ったことだろう。
ここには何もない。
ファミレスもファーストフード店もない。
何もない
観光客だって滅多に来ないし中学も高校も一校しかない
この町で誇れることは……ただ一つだけ
そんな土地で、私たちは生まれて育ってきたんだ。
8月13日
ミーンミンミン……。
強い日差しに照らされてアスファルトがゆらめく。
首の後ろはすでに嫌な汗が滲んでいる。
今日の最高気温は35度になるらしい
最悪だ
こんな日にまで学校に行かなくちゃならないなんて……!
浦添なつ🍍
こさ🦈
こんな暑い日の朝、私となつは、通学路の途中にある駄菓子屋に寄り道をする
アイスをかけたじゃんけんは、幼馴染の私たちの夏休みの日課だ
山の上にある中学校からホームルームの開始を告げる鐘の音が、町中に鳴り響く
ばあちゃん
私たちの後ろの方で木の椅子に座ったばあちゃんがうちわをパタパタさせながら呟いた
ゆるいお団子から垂れた白髪が、風に揺れている
浦添なつ🍍
なつ🍍大きな声を出した
ばあちゃん
夏の間は毎日のことだと、ばあちゃんはため息をついた
こさ🦈
浦添なつ🍍
ふたりのあいだをつむじかぜがまう
スゥッと息を吸い込むと、なつ🍍が声を張り上げた
浦添なつ🍍
こさ🦈
浦添なつ🍍
なつ🍍のてのひらがくうをきる
パーとチョキ
こさ🦈
私はニヤリと笑ってなつ🍍に向かってぴーすした
この夏のなつ🍍対戦成績はズバリ_______四勝十六敗だ
ばあちゃん
そういうとばあちゃんはよいこらしょと曲がった腰で立ち上がって、棒アイスを2本とりだした。
いちごとメロン
私たちのお決まりの味だ
よく冷えた2本のアイスは、太陽に照らされて白い煙を出している
ばあちゃん
浦添なつ🍍
なつ🍍は半泣きになりながら、ズボンのポケットから10円玉を12枚取り出してばあちゃんに渡した
シワだらけの手でお金を受け取るや否やばあちゃんが叫ぶ。
ばあちゃん
こさ🦈
こさ🦈
ミーンミンミン……
じりじりじり……。
裏山の蝉たちがこの夏に行きた証を残そうと必死にないている
こさ🦈
学校へと長く続く、大きく曲がりくねった石段を見上げて、私は気合を入れた
そうでもしないとめまいがしてくる
浦添なつ🍍
よこにならんだなつ🍍がせいふくのずぼんのすそをすねまで折り上げた
私も履いていた紺色のハイソックスを脱いで、使いすぎてボロボロになったバッグに押し込む
裸足でスニーカーのかかとをふみつぶす
半袖のワイシャツの袖をさらにまくりあげる
なつ🍍のほうをチラッとみると、またズボンの丈を直している
出し抜くなら未だ
心の中でカウントが始まる
三、二、一…………。
Ready………
こさ🦈
つま先に力を入れて、石段を一気に駆け上る
浦添なつ🍍
ふいをつかれたなつ🍍が慌てて叫んでいる
こさ🦈
視界の端で、胸元の赤いリボンが揺れている
石段を登るたび、脳天にダンダンダンと重い振動が響いた
登っても登っても終わりが見えない段数の多さに思わず笑えてくる
なつ🍍もようやく駆け出したらしい
後ろから足音が迫ってきた
浦添なつ🍍
こさ🦈
息を切らしながら振り向いて笑うと、くわえているあいすが口から垂れてくる
「こさ🦈きたねぇ!!」と笑っているなつ🍍だって口の周りがアイスだらけだ
浦添なつ🍍
階段を半分くらい登ってところで抜かれてしまった
こさ🦈
いたくなったよこばらを抑えながら立ち止まると、苦笑いをした
もう走れない
アイスは口の中で全部溶けてしまって、木の棒だけが寂しく残った
石段の錆びた手すりにつかまると、私はその場にしゃがみ込んだ
手すりの向こうには、私たちが住む街と一面の海が広がっていた
毎朝この辺でバテてしまう
浦添なつ🍍
はるか上段からなつ🍍くんが呼んでいる
こさ🦈
カラカラになった喉で怒鳴った
中学は山の上にある
だから学校に行くためには、この恐ろしく長い石段を登らなくてはならない
こさ🦈
誰もが毎朝一回は口にする言葉を、私もまた呟いた
中学に入って3年目というのに未だにこの石段とは仲良くなれない
石段を好んでいるのなんて、なつ🍍くんをはじめとする運動部の一部の連中だけ
「朝練前のウォーミングアップにちょうどいい」だなんて、本当にドMなんじゃないかとしんけいをうたがってしまう
浦添なつ🍍
石段の1番上に腰を下ろしたなつ🍍くんが、生徒手帳を挟んだ時間割を見ながら嘆く
私はカラカラにかわいた口で、小さく悪態をついた
なつ🍍くんの文句はポーズだ
少しでも講習をサボりたい、だから奴はこうして毎朝、私を遅刻の口実に使う
あと三段……に段…
こさ🦈
気分はゴールしたばかりの長距離ランナー
なつ🍍くんの差し出したてにハイタッチすると、パシンといい音が鳴った
そのままなつ🍍くんの黒いエナメルのカバンに倒れ込むと、なんとも言えないにおいがする
こさ🦈
浦添なつ🍍
カバンの外にまでにおいが漏れてくるなんて
実物はどれだけの臭気を放っているんだろう
浦添なつ🍍
だいたいなんの匂いなんだよ
……汗?
こさ🦈
かばんの中の臭いを想像しただけで吐きそうになる
最悪だ!
朝から最悪の気分だ!
浦添なつ🍍
こさ🦈
なつ🍍くんの顔がこうちょくする
漫画なら“ガーン“という効果音が入りそうだ
ようやく息が整い立ち上がると、なつ🍍くんを置いてさっさと歩き出した
浦添なつ🍍
背後から立ち直りきれてない負け犬の遠吠えが聞こえてくる
10年前だったら「こさ🦈〜待って〜」という泣き声が聞こえてきたのに
昔は小さくて女の子みたいで、可愛かったのに!
玄関で上靴を履いていると、広い校内に一限のチャイムが鳴り響いた
多くの生徒が自宅でダラダラ過ごす夏休みの朝
校内に人が少ないからか、チャイムの音はいつもより大きく聞こえる
浦添なつ🍍
全然残念じゃなさそうにぼやくなつ🍍くんの背中を追いかける
夏休みに入ってから毎日遅刻している私たちだけど、それなりに理由はある
去年まではのんびり優雅に過ごしていた夏休み
それなのに「今年は受験!夏休みも講習です」だなんて、心も体も追いつかない
寝坊するのも、つい寄り道してしまうのも仕方がないと思う
まぁ、夏休みに学校に来るっていう選択をしたのは私自身なんだから、これは完全に言い訳だってことはわかっている
この小さな町には高校は一つしかない
そんなにレベルも高くないその高校にほとんどの同級生が進学する
そして高校を卒業してからも、みんな家の仕事を手伝ったりしてこの町に残るんだ
私の家は商店街にある電気屋で、お向かいの本屋さんはなつ🍍くんの家だ
けれど私たちは二人とも家業を継ぐ気なんかさらさらない
小さな電気屋や本屋は、潰れることはあっても、明るい未来が待っているとは思えない
地元に残れば、同級生の誰かと結婚して家業を手伝うという、変わり映えのしない日々を送ることになるだろう
この町の住人のほとんどがその道を歩んでいる
私はそんななありきたりな未来は嫌だ
階段をの乗り切った時、2階の日当たりの悪い1番奥の教室から先生の低い声が聞こえてきた
森先生
その声を聞いたなつ🍍が、「やっべ」と言って走り出す
負けじと私も走り出す
二人の競う足音が、廊下にバタバタとうるさく響いた
浦添なつ🍍
勢いよくドアを開けたなつ🍍くんの肩越しに私もひょこっと顔を出す
こさ🦈
森先生
真っ黒に日焼けした担任の森先生が、持っていたプリントの束でなつ🍍くんの頭をぽんとたたいた
なつ🍍くんがにぃっと笑う
浦添なつ🍍
森先生
褒められて満更でもなさそうに、先生がにやけた
浦添なつ🍍
なつ🍍くんがげんきよくへんじする
こいつは本当に世渡り上手だなぁと、私は半ば呆れて眺めていた
なつ🍍くんに続いて教室に入ると、「また遅刻かよー」という笑い声が起きる
そのほとんどが小学校頃から毎日見ている変わり映えのしないメンツだ
空席が目立つ教室で私は迷うことなく、窓側の真ん中の席に座った
ここが定位置。大好きな場所だ
なつ🍍くんも当たり前のように通路を挟んで隣の席に座る
みこ👑
前に座っていた槙野みこ👑が爽やかに笑った
みこ👑ちゃんは私やなつ🍍くんが手を伸ばしても決して届かない、県内イチの超難関校を目座している
この教室にいる誰よりもみこ👑ちゃんは頭がいい
その上、超美人
黄色とオレンジのグラデの髪がよく似合って入る
こさ🦈
みこ👑
顔を真っ赤にして照れるみこ👑ちゃんが可愛くていつもついいじめたくなっちゃう
さらに攻撃しようかと企んでいると、すかさず邪魔が入った
浦添なつ🍍
さも気の毒そうな表情を作ってなつ🍍くんが頷く
いる📢
なつ🍍くんの横にすわっている成田いる📢が、笑いを堪えながら私の顔をじっと見つめる
こさ🦈
いる📢くんは夏休みに入ってから、髪が邪魔だと言って天然パーマだった髪を坊主にした
保育園からずっとモジャモジャな髪型で過ごしていたくせに何を今更………と思ったのは、私だけではないはずだ
サッカー部で、坊主は一人だけなので、グラウンドにいるとやたら目立つ
こさ🦈
いる📢
こさ🦈
いry📢くんとなつ🍍くんがその言葉を聞いて、ぶーっと勢いよく吹き出す
なんて失礼な!
すかさず反論しようとした時、森先生の注意が飛んできた
森先生
周りがどっと笑う
一括りにされた私たちは、相変わらず小声で「お前が1番バカだ」とバカナンバーワンを押し付けあっていた
森先生
プリントを配り終えると、先生が熱弁を振い出す
すると話がそれてラッキーとばかりに居眠りを始めるなつ🍍くん
遅刻してきたのに、もう寝ている!
だらけきっているのも、ここまできたら立派と言えるだろう
クラスのみんな
と私たちが言うと、先生はお決まりのようにこう言う
森先生
_____その言葉を、出すのずるい
アイツはこの町唯一の誇りだ
そんなことを言われたら誰だって素直に「はぁい」と言うしかないじゃないか
今日も先生はアイツの…………らん🌸くんの話をしている
らん🌸くんはわたしとなつ🍍くんのもう一人の幼馴染、今はロンドンに住んでいる
いる📢くんがあくびを隠そうともしないで、
いる📢
と、呟く
森先生
先生の熱いお説教はどうやらゴールテープを切ったらしく、気がつくと講義が始まっていた
しかし、一度らん🌸くんの話をされると私の頭はなかなか切り替わらない
頑張れるのかな、私。
らん🌸くんみたいになれるのかな………
私はため息をつくと、シャープペンをクルクルと回し、相変わらずやる気のしない古典の問題を解き始めた
今日の問題は、いつもより難しく感じる
みこ👑
いつだったか、みこ👑ちゃんが私に話してくれた
町にある小さな町立病院で、みんなのために働きたいのだと
みこ👑
照れて顔を真っ赤にして話すみこ👑ちゃんを、いつもみたいにからかえなかった
それどころか心の底から感心したのを覚えている
私の夢とは違って具体的でキラキラしていて未来があると思ったから
私の夢、それは_______
この町から出ること、ただそれだけ
理由は簡単。変化のない毎日なんて嫌だから
山に囲まれた小さな町には小学校も中学校も高校も一校ずつしかない
ファミレスファーストフード店もなければカフェなんて可愛い場所もない
毎日同じ景色を見て同じ道を歩いて同じ友達と遊ぶ
この町にいたら毎日が同じことの繰り返しだ
そんな理由で進学先を決めた
お父さん
と、お父さんは猛反対していたけど三つ年上の兄・壱斗とお母さんの絶妙なフォローによって何とか許しを得ることができたんだ
兄は“長男だから“と言う理由だけで田舎に残り電気屋を継ぐ
_____私はそんなのは嫌だ
お兄ちゃんみたいにはなりたくない
早くこの町を出て行きたい
でも……都会に行って結局私は何がしたいんだろう
あぁ。もう考えが全然まとまらない
頭を抱えたそのとき、生暖かい風が吹き込んで、教室のカーテンを揺らした
膨らんだカーテンの間から真っ青な海が見える
隣からいびきが聞こえて目をやると、なつ🍍くんが机に突っ伏して気持ちよさそうに寝ていた
なつ🍍くんとは子供の頃からずっと一緒にいる
でも志望校も違うし、この先はきっと別々の道を歩むことになる
自分の進もうとしている道は、本当に正しいのかわからない
気づけばプリントの端に、視界不良、五里霧中、暗中模索と走り書きしていた
四字熟語は完璧かもしれない
浦添なつ🍍
1日の講習終了のチャイムが鳴ると、なつ🍍くんが大きく伸びをした
なつ🍍くんにとってチャイムは目覚ましらしい
結局、なつ🍍くんは古典から始まり全教科寝倒した
お弁当の時間だけは起きていたけど
私の方がまだ真剣に講習を受けてるわ、と自分より下がいることに安心する
いる📢
いる📢くんがボールとバッグを持って目を輝かせている
こさ🦈
浦添なつ🍍
嘘くさー。帰ってからも爆睡のくせに
私は何も言わずに鼻で笑った
浦添なつ🍍
勢いよく椅子を引いて立ち上がったなつ🍍くんを見てみこ👑ちゃんが「あれ」と首を傾げた
みこ👑
こさ🦈
まじまじとなつ🍍くんを見つめる。言われてみれば………そんな気がしないでもない
浦添なつ🍍
こさ🦈
3年生になってもまだ伸びるか!
いつまで成長期なんですか
こさ🦈
浦添なつ🍍
こさ🦈
鼻歌を歌いながら教室から出て行くなつ🍍くんに向かってそう叫んだ